東京サラダボウル:「事件を描く以上に人間を描く」を強烈に意識 なぜ視聴者に響いたのか 制作統括語ったこだわりとこの先への思い

「ドラマ10『東京サラダボウル』」の代表カット (C)NHK
1 / 20
「ドラマ10『東京サラダボウル』」の代表カット (C)NHK

 俳優の奈緒さんと松田龍平さんがダブル主演を務めるNHKの「ドラマ10『東京サラダボウル』」(総合、火曜午後10時)。「クロサギ」で知られる黒丸さんのマンガ「東京サラダボウルー国際捜査事件簿ー」が原作で、いわゆる“刑事もの”でありながら、ヒューマンドラマとして視聴者に響いているようにも思えるが、果たして……。「事件を描く以上に人間を描く、ということを強烈に意識した」というドラマの制作統括・家冨未央さんが思いを語った。

あなたにオススメ

 ドラマは、約70万人の在日外国人が暮らす東京を舞台に、奈緒さんがミドリ髪の国際捜査の警察官・鴻田麻里に扮(ふん)し、松田さん演じるワケありの中国語通訳人・有木野了とのコンビで、日本社会からこぼれ落ちそうな人生を拾い上げていく社会派エンターテインメントだ。

 描いているのは、その多くが在日外国人たちの環境、トラブル、または“落とし穴”であり、「社会派」と言われる所以。“刑事もの”として当然、犯罪を扱ってはいるが、「そこに至るまでの感情の流れが腑(ふ)に落ちる」「国籍に関係なく、日本人の話として置き換えたとしても納得がいくくらい」のところまで、ドラマとして描き切ることにこだわりを持ってのぞんだ。

 「ドラマって、ニュースやドキュメンタリーと比べて、感覚として視聴者にダイレクトに伝わってしまうので、犯罪にたどり着くまでを描き切れないと、どんなにいいキャラクターだったとしても、結局は“犯罪者”として映る。事件を描く以上に人間を描く、ということを強烈に意識しないと、最後に視聴者に残る印象は、どちらかとういうと制作側が意図しなかった悪い感覚になってしまうなとも思ったので、事件ものなのか、ヒューマンものなのか、監督陣ともすごく話し合いはしました」

 多くの外国人(またはその体に異国の血が流れる)キャストを登用し、多様な言語が飛び交う国際色豊かなドラマの制作現場において、ある種の押し付けは厳禁。「例えばスリランカだったらこうでしょう、みたいなことではなく。その人それぞれの価値観、目にしている色味、匂いをリスペクトしてやろうとした」とは家冨さんの言葉で、だからこそ、すべての登場人物に血が通った、エンターテインメントとしても一級品のドラマに仕上がったようにも思える。

 外国人労働者の環境や立場にスポットが当てられた第5話(2月4日放送)のときのように、現状を踏まえての問題提起も少なからず描かれてきた本作。放送は残りわずかとなってきた。

 「現在と4年前の過去を繋ぐ、“真相”を握る刑事・阿川(三上博史さん)が出てきて、有木野が抱える過去、その核心に触れていく。ともすると、今までの外国人とのやりとりよりも、ぐっと中心物のパーソナルストーリーに入っていく感じはあるのですが、有木野がなぜここまで悩んでいたのか、有木野の“最愛の人”織田(中村蒼さん)がなぜ命がけの行為をするまで至ってしまったのか、その先には、ここまで描いてきた外国の人たちとの人生の葛藤がヒリヒリとあるからなんだってことは忘れずにやろうと意識はしたので、決して分断された話ではなく、背負ってきてここに至ったと伝えられたらいいですし、そう見てもらえたらいいなとは思っています」

 最後、全話通して見終わったとき視聴者に何が伝わっていればいいのか、その思いを家冨さんに聞くと……。

 「目が留まるようになればいいと思っていて。今までスルーしてしまっていたり、嫌だなって気持ちが先だってしまって、それ以上は考えないでいたりってことは、多々あると思うのですが、どうして彼らはここにいるのか、何をしているのか。もし子供が一緒にいたとしたら、この子の10年後はどうなっているのか、少しでも目が向くようになればいいなってことですかね。受け取り方としては、第5話のシーンと同じように割れるとは思いますし、どんな優れたエンターテインメントだったとしても、関心が湧かないって人もいると思うのですが。もし、見たことのないことを、ここで体感してもらえたなら、次は目に留まればいいなっていう思いが、一番大きいです」

 ドラマは全9回。最終回(第9話)は3月4日に放送される。

写真を見る全 20 枚

テレビ 最新記事