クジャクのダンス、誰が見た?
ep5 襲いかかる宿命ー秘められた弁護人の本心
2月21日(金)放送分
俳優の松坂桃李さんが主演を務める1月期の日曜劇場「御上先生」(TBS系、日曜午後9時)が話題だ。完全オリジナルの学園ドラマで、松坂さんの主演映画「新聞記者」(2019年)以来のタッグとなる詩森ろばさんが、ゴールデン帯の連続ドラマで初めて脚本を担当し、「アンチヒーロー」(2024年)、「VIVANT」(2023年)など話題になった日曜劇場を担当してきた飯田和孝さんがプロデューサーを務めている。詩森さんが取材に応じ、“官僚先生”を題材にした発想の原点やキーワードになっている「The personal is political(パーソナル・イズ・ポリティカル)」という言葉などについて語った。
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「御上先生」は、日本の教育を変えようという思いを持つ文科省官僚の御上孝(松坂さん)が、私立高校「隣徳学院」に出向し、自ら教壇に立ち、令和の時代を生きる18歳の高校生を導きながら、権力に立ち向かっていく……という“大逆転教育再生ストーリー”。
今回、民放の連続ドラマの脚本を初めて手掛けた詩森さんは「日曜劇場はすごく規模感が大きくて、私がほぼ初めてな状態でいきなり書いていい枠とも思わなかったので当然プレッシャーだったんですけど、でも、すごく幸運なことだったなっていうふうに思います」と心境を明かす。
長く演劇界で活躍してきた詩森さん。5年ほど前からNHKのドラマの脚本も手掛けるようになり、「ドラマを書く可能性が出てきた頃からドラマをまとめてちゃんと見るようになったんです。やはり連続ドラマというジャンルはすごいものだなと思って触れてきました」という。今作でも主演の松坂さんの過去作はもちろん、他の大人キャストや生徒役で出演する若手俳優の出演作も「何でもすごく知っておきたいんですよ。だから生徒たちのドラマもできる限り見ますし、大人のキャストの方の作品も全話とはいえないまでも見ています」と明かす。
民放のドラマということで、「いろんな制約がもちろんあるだろうと勝手に思っていた」というが、「プロットを出したときにもあまり何も言われなくて。本当に大丈夫なのかなと思って書きました。(プロデューサーの)飯田さんが裏で動いてくださったのもあると思うんですけど、より良くするためのリライトは膨大ではあったものの、テーマや骨子はまったく制限されないまま書かせていただいた」と語る。
「御上先生」は、これまでの学園ドラマの「先生VS生徒」の枠組みから離れて、先生と生徒が一体となって巨悪に立ち向かう展開で“学園もの”の新境地を開いたと話題になっている。このような作品が生まれた背景とは?
詩森さんは、「学園ものにするのは大学の教育学部出身で教員資格も持っている飯田プロデューサーの発案だった」といい、「既存の学園ドラマを超えたいとかではなくて、優れたものがあるものは、そちらにお任せすればいいんじゃないかしらと思いました。その上で、先生の資格を持ってらっしゃるプロデューサーから学園ものを任されるわけだから、これはちょっと良いものにしないといけないぞと思って。本当に必死にやらなきゃいけないと、いろいろと取材しました」と覚悟と準備を語る。
「自分自身もいろんな社会問題を取材していく中で、もっと若いときに教えてほしかったなっていうようなことがいっぱいあります。私は勉強が比較的好きなほうだと思うんですが、学生の頃は当たり前みたいに好きではなかった。心が柔らかいうちに学習のすてきさや面白さを知ることで人生は確実に豊かになります。そのためにも教育がものすごく大事だなと思ったんです」と自身の中に土壌はあったという。
高校が舞台になったり、政治が絡むことになったのは、「実際に文科省の若い官僚が官僚派遣で公立学校へ行くという制度はあって。2020年頃の(このドラマの)最初段階で『官僚で派遣されてきた先生はどうですか』と私からプレゼンしたんですけども、それいいねと言っていただいて、官僚が公立高校へ行くプロットを書いた記憶があります」と話す。
「文科省という別のファクター、別の階層が入ってくるのは面白いんじゃないかという予感はありました」といい、決め手は「勘みたいなものですね。教室とミクロ、政治や省庁というマクロ、両方の視点を持つことで立体的に教育が描けるかなと。広がりの出るものになっていくかもしれないっていう。“これだ!”という感じが最初からあったような気がします」と挑戦のしがいがあると感じた。
官僚に対しては「非常に一生懸命やられてるっていう印象ですね。ただシステムの中でなかなかうまくいかないことが多くて、文化行政や教育行政は立場も弱いですし、ものすごく大変なんだなと」と感じていた。
「映画の『新聞記者』の脚本を書いたときに、官僚の方に取材して、お話はもちろん聞きましたけれど、聞き切れずになってしまったという思いがすごくあったので、その後、個人的にも勉強したりしていました。『御上先生』に関係なく官僚というものについてもうちょっと知りたいと思った気持ちが、今回役に立ったかもしれないですね。リアルベースで書けているんじゃないかなと思います」
ドラマでは「The personal is political(個人的なことは政治的なこと)」という言葉がキーワードになっている。
「もともとはフェミニズムや学生運動から出てきた言葉といわれています。私はLGBTQの作品を書いたときに取材した方からお聞きして。それまでは、どこかで政治と個人は分かれた存在だと思っていたんですけど、“生きづらさ”のようなものを解決するとしたら、やっぱりシステムや構図を変えていかなくちゃいけないというのはすごく分かりやすいし、当たり前のことだなと思いました。私にとっては割とデイリーな言葉で、だから今回もすごく意気込んで使ったわけではなくって、何気なく使ったら監督たちがすごいねって乗ってくれて、中心になっていったという感じです」
「ドラマによってその言葉をいろんな方が知ってくれているのは、ものすごくありがたいし、大切なことだなと思う」といい、「ドラマに関わってくださる方や見てくださっている方が熱く思い入れているのを見ると、今、本当に社会にとって必要な視点、必要な言葉だったんだなという印象を持ちました。ぜひ皆さんに知ってほしい言葉ではあったので、良い機会だったし、現場でも生徒の気持ちも大人の気持ちもつなげてくれているのを見ると、この言葉を中心に考えていけばいいんだというような、すごくいい言葉をここで使ったし、それを私に教えてくれた人に感謝しています」としみじみ語る。
ドラマは第6話(2月23日放送)から後半に入る。詩森さんは後半の見どころについて、「思いのほか心が動くドラマになっているんじゃないかな」とヒントを明かす。脚本はすでに最終話まで昨年、書き上げられており、これからの展開を知っている詩森さんとしては「これからこの子がこういう人生を歩んでいくんだって思うだけで1話、2話でも結構一人でウルウルしちゃったりしている」という。
「前半は『とにかく話をしよう』というクラスの中でディスカッションができるような基礎工事をして、問題提起や物語の外郭を作っているんですけれども、後半は大人のキャストも含めて全員が変化しないと乗り越えられないドラマになっているので、その変化の素晴らしさみたいな、人間って変化をしていけるし、価値観を少しずつでも刷新していけるんだっていう可能性が伝わるドラマになっていくんじゃないかなって、そうなるように頑張ってみんなで考えて作っていると思います」と力を込めた。
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