俳優の横浜流星さん主演の大河ドラマ「べらぼう～蔦重栄華乃夢噺～」（NHK総合、日曜午後8時ほか）で、長谷川平蔵宣以を演じ、話題となっている歌舞伎俳優の中村隼人さん。平蔵は、吉原の花魁・花の井（小芝風花さん）に入れあげ、蔦屋重三郎（横浜さん）のカモにされた結果、SNSから生まれたあだ名は「カモ平」と、早くもドラマ屈指の“愛されキャラ”となりつつある。それも隼人さんの好演あってのもの。役作りや評判などの“舞台裏”について話を聞いた。

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　◇クスッと笑える平蔵「息抜きのような存在になれば」　“余白”も大事に

　隼人さん演じる長谷川平蔵宣以は、青年時代は風来坊で「本所の銕（てつ）」と呼ばれ、遊里で放蕩（ほうとう）の限りを尽くしたという逸話も持つ。のちに老中・松平定信に登用され「火付盗賊改方」を務め、凶悪盗賊団の取り締まりに尽力する。

　平蔵といえば、池波正太郎さんの時代小説「鬼平犯科帳」や、同小説を原作としたテレビシリーズでおなじみの時代劇のヒーロー。隼人さんも、故・中村吉右衛門さんが長きにわたって好演し続けたテレビシリーズの平蔵のイメージが「ほとんどでした」と明かす。

　それは右衛門さん、または丹波哲郎さんといった「大御所のスターたちが渋く演じてきた、男の色気、男臭さがある平蔵」で、隼人さんのところにも、今回の「べらぼう」の平蔵が「イメージと違う」といった声は届いているという。

　これまでのイメージを覆すような「べらぼう」の平蔵。蔦重にカモにされ続け、第3回までで、親が遺した蓄えを食い潰してしまうなど、ちょっと間抜けな感じもあるが、隼人さん自身は意に介さない。

　「『べらぼう』は普段切り込まない吉原の目を背けたくなる部分をフィーチャーしているので、暗くて重い作品になるところを、平蔵が登場することによって、少しでも視聴者にクスッと笑ってもらえる、息抜きのような存在になればいいなと思って毎回演じています」

　演じるにあたって、さらにもう一つ大事にしているのが「余白」。

　「1年間放送が続く大河ドラマだからこそ、役を成長させていける余白があるんじゃないかと思っていて。どのように平蔵という人物を『べらぼう』という作品の中で、立派に成長させていけるか、僕の中での課題でもありますし、それを期待している視聴者の方もいらっしゃると思うので、今はあまり立派にやりすぎないというか、所作一つせりふ一つとあまり立派になりすぎないよう、少し余白を残すことは意識しています」

　◇シケに息はアドリブ　歌舞伎の稽古中に勘九郎から「カモ平」

　ナルシストが入っているのも、平蔵が“愛されキャラ”として人気を博す要因にもなっている。そういった部分を視聴者に視覚的に伝えているのが、顔にかかるように垂らした髪、「シケ」と呼ばれるものだ。

　「あれ（シケ）があることによって普通の人物ではないなって分かるわけじゃないですか。吹いたり、触ったりで、ナルシストの部分が見た目でも分かると思いますし、僕も芝居をする上で『かっこつけすぎると逆に笑いになる』というところを狙えるようになったのは大きかったです」

　平蔵の特徴的な「シケ」は、長さや鬢付け油の量を研究し、「ミリ単位で調整して」できあがったものだという。息を吹きかけるのは隼人さんのアドリブで、「監督が『そのシケどうしますか？』というので『じゃあ吹いてみますか』とやってみたのが始まり」だとか。

　「クランクインだったのですが、ハイスピードカメラを持ってきて、『これでシケを撮ります』って。僕は『ウソでしょう？　これ大河だよね？』と思いながら。でも、シケで遊ぶ、というのはなんとなく自分で考えたことで、僕なりに楽しくやっています」

　そんな平蔵のあだ名「カモ平」についても話を聞いた。蔦屋重三郎を題材にした歌舞伎の演目「きらら浮世伝」の稽古中、勘九郎さんからアドリブで「きょうはカモ平のおごりだ」と言われたという隼人さん。

　「みんなドラマを見ているから分かっていて、それくらい『カモ平』が浸透し始めていている。『またカモ平が出てきた』と視聴者にも喜んでもらえるなら、僕としては成功だと思いますし、そのカモ平がどう立派になっていくのか楽しみにしてもらいたいなと思います」