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横浜流星さん主演の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(NHK総合、日曜午後8時ほか)で、初回から瀬川(花の井/瀬以)を演じてきた小芝風花さん。今回、初の大河ドラマでありながら、伝説の花魁の艶と粋、さらには切なさから悲しみまでを体現と、俳優としてさらなる高みへと上がる姿を視聴者に披露した恰好だ。ここでは、そんな小芝さんのこれまでの確かな足跡、1年前に語っていた言葉などを踏まえ、「べらぼう」の瀬川役がどんな位置づけとなったのか解説したい。
◇「魔女の宅急便」「あさが来た」「トクサツガガガ」
2012年の俳優デビュー以来、持ち前の愛らしさで多くの視聴者を魅了してきた小芝さん。その存在が、最初にクローズアップされたのは、2014年3月に公開された映画「魔女の宅急便」だ。角野栄子さんの児童文学を基にした本作で、13歳の魔女見習いの少女・キキを演じ、翌年「第57回ブルーリボン賞」新人賞など受賞した。
このとき小芝さんは17歳。同じ年の10月に始まった波瑠さん主演のNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「あさが来た」で、ヒロインの長女役に抜てきされると、ドラマには2016年の1月から登場し、“母に反抗的な態度を見せる娘”を熱演。お茶の間をにぎわせた。
そんな小芝さんが、次に大きなインパクトを残したのが、2019年1月期にNHKで放送された連続ドラマ「トクサツガガガ」。小芝さんにとって連ドラ初主演作で、隠れ特撮オタクの主人公の妄想から葛藤、興奮に奮闘ぶりまで愛らしく演じるだけでなく、コメディエンヌとしての才能を一気に開花させた。
同年の小芝さんの活躍は目覚ましく、出世作となった「トクサツガガガ」の後も、「恋と就活のダンパ」(NHK・BSプレミアム)、「ラッパーに噛(か)まれたらラッパーになるドラマ」(テレビ朝日系)、「べしゃり暮らし」(同)、「歪(ゆが)んだ波紋」(NHK・BSプレミアム)とドラマ出演が相次ぎ、12月にはNHKスペシャル「シリーズ 体感 首都直下地震」内ドラマ「パラレル東京」で、女性アナウンサー役にも挑戦。コメディータッチから、シリアスなテイストのものまで、俳優として“ふり幅”を見せた。
◇「波よ聞いてくれ」のよどみないせりふ回し、絶妙な「間」
2020年以降に目を向ければ、続編や劇場版も制作された「妖怪シェアハウス」(テレビ朝日系、2020年)に始まり、「モコミ~彼女ちょっとヘンだけど~」(同、2021年)、「彼女はキレイだった」(カンテレ・フジテレビ系、2021年)、「事件は、その周りで起きている」(NHK、2022年)、「波よ聞いてくれ」(テレビ朝日系、2023年)と主演連ドラがずらり(『彼女はキレイだった』は中島健人さんとのダブル主演)。
上記の作品以外にも、単発ドラマや映画で主演を務め、主演ではなかったとしてもヒロインか、それに続く主要な役を担うなど、いまの映像界を語る上で欠くことのできない俳優の一人になったことがうかがえる。
中でも「波よ聞いてくれ」では、金髪がトレードマークの“超絶やさぐれ女”に扮(ふん)し、キレのあるマシンガントークを繰り広げる姿が放送時、大きな話題に。当初、小芝さんのパブリックイメージとはかけ離れた役のため、原作ファンなどから「合わないのでは?」と心配する声が少なからず聞こえていたが、ドラマの初回から、そのよどみないせりふ回し、絶妙な「間」で視聴者の心をグッとつかみ、「2024年 エランドール賞」新人賞へとつながった。
◇こだわった役作り ちょうど1年前に本人が話していたこと
その後も、作品が途切れることがほぼなく、たどり着いた「べらぼう」。
花魁役は「年齢的に最初で最後かもしれない」という思いで挑んだといい、「だから全部思い切って出し切りたいなと思っていろいろと研究しました」とも語っていて、「キセルを吸う、お客さんへの文を書く、高下駄で歩くことや舞も」習得。キセルについては「むせたらかっこ悪いなと思って、ニコチンの入っていないタバコで煙に慣れてみたり」と明かすなど、役作りにはこだわった。
当然、色艶についても意識。「普段、色気があるとは、口が裂けても言えないので(笑)、ちょっとした仕草や目線、今までの役よりはすごく意識して」とは小芝さんの弁だが、それらすべては伝説の花魁の艶と粋を体現するため。さらに「台本には瀬川の感情が痛いほど分かるように描かれていたので、それをこぼすことなく視聴者にお届けするのにはどうしたらいいのか、考えながら演じていました。瀬川はすごく複雑な感情を抱えている役だったりもするので、そのちょっとした機微を逃さないように、目の動きだったりで見ている方に察していただけるよう、ていねいに演じたいなって」と思いを明かしていた。
俳優として新たな扉を開いた感のある瀬川役だが、この熱心さの裏には小芝さんの“ある思い”があったのかもしれない。ちょうど1年前、本人に話を聞いた際「どうしても年齢より下に見られることが多くて。役柄的にも、若く見える役が多いというのもあるのでしょうけど、だからもう少し、ズシッとした重い作品、役もやれるようにはしたいなっていうのは自分の中ではあります。いつまでも『元気いっぱいで、明るい!』というイメージがあるので、役を通してでも、年相応というか、落ち着きだったり、“重さ”だったりを出していけたら」と話していて、その一つの“回答”を、「べらぼう」で見事に出してくれたのではないだろうか。