それでも俺は、妻としたい
最終話「セックス」
3月29日(土)放送分
横浜流星さん主演のNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(総合、日曜午後8時ほか)の第12回「俄(にわか)なる『明月余情』(3月23日放送)では、一世を風靡していた人気戯作者・朋誠堂喜三二の正体が、尾美としのりさん演じる秋田藩・佐竹家の武士、平沢常富であることが明らかにされた。平沢は吉原に頻繁に通い、ドラマでは吉原で開催される「俄」祭りの演出にも一役買って、蔦屋重三郎(横浜さん)が舌を巻くほどの“吉原通”ぶりを披露した。
あなたにオススメ
美少女殺し屋役から駆け上がった! 「ばけばけ」ヒロイン高石あかりに高まる期待
平沢は1773年、吉原通いの経験をもとに、遊里での立ち振る舞いや、遊女に一目置かれるファッションなどを記した“遊び方指南書”ともいえる「当世風俗通」を出版。この本は吉原通いのバイブルにもなった。
平沢が吉原に詳しいのは、彼の役職である留守居役と深い関係がある。留守居役とは、大名の江戸屋敷(藩邸)に常駐する外交官。幕府や他藩との交渉や事務折衝を担当するほか、幕府の動向などの情報収集にあたる。
ユニークなのは、藩の垣根を越えて留守居役同士の親睦を図る留守居組合があったことだ。幕府が出した法令についても留守居役が藩の上層部に説明しなければらない。法令の解釈が藩によって異なることを避けるために、組合に所属する各藩の留守居役は会合を開いて解釈の統一を図った。留守居組合は、藩の規模や藩主の家格などに基づいてループ化され、平沢の秋田藩は佐賀藩、宇和島藩、土佐藩など九つの大名家のグループに属していた。
会合の費用は各藩の交際費(公金)でまかなわれ、遊興目的の懇親会も多くなった。吉原での懇親会も頻繁に行われ「留守居役の勤務先は遊郭」と陰口をたたかれた。留守居役御用達の高級料理屋も江戸に約40軒あったとの記録もある。留守居役は社用族のはしりと言われ、佐竹藩が属していた留守居役グループの藩主たちは、それぞれ年間200両から500両(現在価値で約2000〜5000万円)の交際費を支出していたと伝えられている。
「べらぼう」第12回では、平沢は「近頃は留守居の遊興をうるさく言われるようになり、自腹で遊ぶしかない」と蔦重に嘆いた。史実でも当時、幕府は留守居役が吉原や料理屋に集まってはならないと繰り返し通達を出していた。しかし通達は一時的に守られるだけで、まもなく復活するという繰り返し。大名家も苦しい台所事情の中で留守居役の交際費を捻出し続けた。
藩主がケチで交際費が出ない、といった理由で懇親会を欠席すると、その留守居役は組合から村八分の扱いにされ、情報の共有ができない。どの藩も留守居役の豪遊は黙認せざるを得なかった。留守居役は中級武士が担当していたが、彼らがもたらす情報は、藩の政策決定にも影響していたからだ。
留守居役の仕事の一つとして、幕府が藩に割り当てる河川改修、新田開発など公共事業の情報を事前に入手し、いかに割り当てられないようにするかという工作活動があった。公共事業の費用は藩が負担しなければならない。留守居役は老中の秘書官らと親密に交際し、公共事業の回避を図った。回避できない場合は、他藩も加えてジョイントベンチャーの形にしてもらい、負担を軽減するようにした。そうした根回しにも留守居役のネットワークが重要な役割を果たした。
一方で、留守居役は互いに競争相手でもある。藩主が老中に何かを嘆願する場合、首尾良く取り計らってもらうよう、老中と気心が知れた旗本を通じて裏工作を展開した。他の大名家とトラブルがあると折衝の最前線に立つ。藩主が江戸城に登城する際は、事前に江戸城に赴いて藩主に落ち度がないよう気を配り、幕政の重要情報に接する役人から耳寄りな情報を入手する。そのために、留守居役は季節ごとにどのような付け届けを贈るかにも心を砕いた。
教訓となる出来事があった。播州赤穂藩主・浅野内匠頭長矩が1701年、江戸城で高家筆頭・吉良上野介を斬りつけ、浅野家が取り潰されたのは、留守居役の失態とされている。浅野が朝廷の勅使を接待する勅使饗応役を務めているさなかの出来事だったが、浅野がこの役を務めたのは2回目。1回目(1683年)は400両を支出し、2回目は浅野の指示で700両の予算で臨んだ。しかしこの間、インフレが進んでおり、4年前に勅使饗応役だった飫肥(おび)藩(宮崎県日南市)は1200両を支出していた。
700両では少なすぎると吉良に文句を言われ、2人の関係が悪化したともいわれている。赤穂藩の留守居役は、事前に他藩から費用などの情報を得て、多めに支出するよう浅野家の重役に相談し実現させなければならなかった。吉良の機嫌を損ねないよう付け届けも工夫する才覚が必要だった。
人付き合いが良く、気配りができて相手に好かれる。相談されたり、こちらから頼みごとを持ちかけたりできる人間関係を築く。そんな留守居役が理想とされた。「べらぼう」で尾美さん演じる平沢は、ぴったりのキャラクターと言っていいだろう。
平沢が留守居役でなかったら、吉原を極めるほど通えなかっただろうし、「当世風俗通」を世に出してベストセラー作家の道を歩むことはなかったかもしれない。蔦重も平沢と知り合うことはなく、後の“江戸のメディア王”は誕生しなかったかもしれない。(文・小松健一)
小松健一(こまつ・けんいち) 1958年大阪市生まれ。1983年毎日新聞社入社。大阪・東京社会部で事件、行政などを担当。その後、バンコク支局長、夕刊編集部長、北米総局長、編集委員を歴任し、2022年退社。編集委員当時、時代小説「鬼平犯科帳」(池波正太郎著、文春文庫)の世界と、史実の長谷川平蔵や江戸の社会、風俗を重ね合わせた連載記事「鬼平を歩く」を1年以上にわたり執筆。それをベースに「『鬼平犯科帳』から見える東京21世紀〜古地図片手に記者が行く」(CCCメディアハウス)を出版した。現在は読売・日本テレビ文化センターで鬼平犯科帳から江戸を学ぶ講座の講師を務めている。
俳優の横浜流星さん主演のNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(総合、日曜午後8時ほか)の第13回「お江戸揺るがす座頭金」が、3月30日に放送された。同回では、新之助(井…
広瀬すずさん主演の連続ドラマ「クジャクのダンス、誰が見た?」(TBS系、金曜午後10時)の最終回が3月28日に放送された。東賀山事件の全貌が明らかになり、SNSでは「想像以上に地…
俳優の前田美波里さんが、3月31日放送の黒柳徹子さんの長寿トーク番組「徹子の部屋」(テレビ朝日系)に出演。コンプレックスだった低い声にまつわる思い出と堂本光一さんの“お母さん“に…
お笑いコンビ「ダイアン」のユースケさんと津田篤宏さん3月31日、本社(東京都港区)で行われた平日深夜帯のバラエティー枠「バラバラ大作戦」(月~木曜深夜1時58分、金曜深夜2時26…
俳優の板垣李光人さんと、人気グループ「Hey! Say! JUMP」の中島裕翔さんがダブル主演を務める連続ドラマ「秘密~THE TOP SECRET~」(カンテレ・フジテレビ系、…