解説:作品に散りばめられた“やなせたかしイズム” 「あんぱん」に早くも登場した“心に響くせりふ”の数々

連続テレビ小説「あんぱん」のメインビジュアル(C)NHK
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連続テレビ小説「あんぱん」のメインビジュアル(C)NHK

 今田美桜さん主演のNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「あんぱん」(総合、月~土曜午前8時ほか)がスタートして3週間がたった。「アンパンマン」を生み出したマンガ家、絵本作家のやなせたかしさん(1919~2013年)と暢さん(1918~1993年)夫婦がモデルの本作では、やなせさんや「アンパンマン」をほうふつさせる名ぜりふが早くも登場し、視聴者の間でも話題こなっている。そんな“心に響くせりふ”の数々を、ここでは紹介したい。

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 ◇第1回冒頭から「アンパンマン」に込めたメッセージが登場

 記念すべきドラマ第1回(3月31日放送)は、やなせさんがモデルとなった嵩(北村匠海さん)のナレーションからスタートした。

 「正義は逆転する。信じられないことだけど、正義は簡単にひっくり返ってしまうことがある。じゃあ、決してひっくり返らない正義って何だろう。おなかをすかせて困っている人がいたら、一切れのパンを届けてあげることだ」

 この言葉は、生前のやなせさんが「アンパンマン」に込めたメッセージで、困っている人を助ける行為こそが真の正義であるという考え方を表現したものだという。

 ◇第5回で名言2連発 やなせさんの詩集、「手のひらを太陽に」の歌詞も

 第5回(4月4日放送)では、主人公・のぶ(永瀬ゆずなちゃん)の父・結太郎(加瀬亮さん)が帰らぬ人となり、嵩(木村優来君)は“ヤムおんちゃん”こと草吉(阿部サダヲさん)に、のぶの父が亡くなったことを教える。嵩の父・清(二宮和也さん)もすでに他界していることを知ったヤムおんちゃんは「たった一人で生まれてきて、たった一人で死んでいく。人間ってそういうもんだ」と語った。

 このせりふは、やなせさんの詩集「人間なんてさびしいね」から引用しているものと思われる。詩集には「たったひとりで生まれてきてたったひとりで死んでいく。人間なんてさびしいね。人間なんておかしいね」という一節が掲載されていて、前記のせりふの“元ネタ”だろう。そもそも、ドラマ第1週の副題からして「人間なんてさみしいね」だ。

 さらに寛(竹野内豊さん)が、落ち込むのぶのためにできることはないかと悩む嵩に「生きちゅうき、悲しいがや。生きちゅうき、苦しいがや。生きちゅうき、いつか元気になって、きっと笑える日が来るがや」と語りかける場面もあった。これは、やなせさんが作詞した童謡「手のひらを太陽に」の歌詞をほうふつさせる。

 ◇「アンパンマンのマーチ」がせりふに

 第11回(4月14日放送)でも、寛の名言が登場。中学5年生になりマンガを描くようになった嵩(北村さん)。来年受験を控えながらも将来何をしたらいいのか悩む嵩に、寛は「何のために生まれて、何をしながら生きるがか。何がおまんらの幸せで、何をして喜ぶがか。これや! というもんが見つかるまで、何べんでも何べんでも必死に考え」と助言した。

 このせりふは、やなせさんが作詞した「アンパンマンのマーチ」の歌詞「何のために生まれて何をして生きるのか」と重なり、視聴者の間で「アンパンマンの歌詞に繋がるのかと鳥肌が立った!」「アンパンマンのマーチの歌詞の深さと素晴らしさを実感」と話題になった。ちなみに、ドラマ第3週の副題が「なんのために生まれて」で、第4週の副題が「なにをして生きるのか」となっている。

 ◇アンパンマンの決めぜりふに視聴者反応

 第13回(4月16日放送)では、パン食い競争に出場したのぶ(今田さん)は男性たちを抜き去り1位になるが、女子には出場資格がなかったという理由から失格になってしまう。肩を落とすのぶの前で、失格なんてひどいと怒りをあらわにする嵩。するとそこに繰り上げで1位になった千尋(中沢元紀さん)がやってきて、賞品のラジオを譲ってくれる。

 のぶが「たまるかー!」と喜ぶと、嵩も「良かった……。のぶちゃん、良かったね。元気100倍だね」と優しく語りかけた。この「元気100倍」という言葉は、アンパンマンが新品の顔になったときに発するおなじみの決めぜりふ。視聴者も「元気100倍きたー!!」「アンパンマンのセリフをはさみ込んでいくのうれしい」と反応していた。

 やなせさんがつむぐ言葉には、人間愛にあふれた普遍的なメッセージが感じられる。のぶや嵩の物語とともに、作品に散りばめられた“やなせたかしイズム”=“心に響くせりふ”にも、引き続き注目したい。
 

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