木戸大聖:希代の詩人・中原中也に大抜擢 登場シーンは「こいつなんだ?という異様な雰囲気」を表現 映画「ゆきてかへらぬ」

映画「ゆきてかへらぬ」で中原中也を演じた木戸大聖さん
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映画「ゆきてかへらぬ」で中原中也を演じた木戸大聖さん

 俳優の木戸大聖さんが、広瀬すずさんの主演映画「ゆきてかへらぬ」(根岸吉太郎監督)で実在した天才詩人、中原中也を演じている。現在28歳の木戸さんは、2022年のNetflixオリジナルシリーズ「First Love 初恋」で佐藤健さん演じる主人公の若き頃を演じて注目され、昨年は「9ボーダー」(TBS系)、「海のはじまり」(フジテレビ系)などドラマに立て続けに出演し、話題になった。“今年注目の俳優”の一人といえる木戸さんが、初めて実在の人物を演じた今作の役作りや撮影秘話を語った。

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 ◇根岸監督が「First Love 初恋」を見て白羽の矢を立てた

 「ゆきてかへらぬ」は、大正から昭和初期を舞台に実在した男女3人の壮絶な愛と青春を描く。まだ芽の出ない女優、長谷川泰子(広瀬さん)は、のちに不世出の天才詩人と呼ばれることになる青年、中原中也(木戸さん)と出会う。どこか虚勢を張り合う2人は、互いにひかれ、一緒に暮らしはじめる。その後、東京に引っ越した2人のもとを、中也の友人で、のちに日本を代表することになる文芸評論家、小林秀雄(岡田将生さん)が訪ねてくる。偶然ともいえるその出会いが、3人の運命を狂わせていく……。

 中也を演じる木戸さんは1996年12月10日生まれ、福岡県出身。2017年に俳優デビューし、2018~21年にNHK BSプレミアムの子ども向け番組「おとうさんといっしょ」に出演した。2022年のNetflixオリジナルシリーズ「First Love 初恋」の好演で一躍注目される。2023年には「僕たちの校内放送」(フジテレビ)で連続ドラマ初主演。「ゆりあ先生の赤い糸」(テレビ朝日系)にも出演した。放送中のNHKの夜ドラ「バニラな毎日」(総合、月~木曜語午後10時45分)に出演中。

 木戸さんが今作で、中也役に抜擢(ばってき)された理由は? 根岸監督が「First Love 初恋」を見て白羽の矢を立てたのだという。木戸さんは「自分の人柄とかではなく、お芝居を見て中也に選んでもらったっていうのは、すごくうれしかったですね」と顔をほころばせる。

 今回、初めて実在の人物を演じた木戸さんは、「現代人である自分が、大正を生きた詩人、しかも天才である中也を理解するには、ほど遠いところにいたので、まず知るところから距離を縮めていかないとなと思いました。そのため、山口県にある中原中也記念館に行って、資料をいろいろと読ませてもらい、(泰子と小林との)2人との関係はもちろん、劇中に出てこない詩など、まず中也を知るところから始めました」という。

 「特に今回は、実際にいた方で、かつ中也のことが今でも好きで応援していたり、詩を読んでいたりする人がたくさん周りにいて、より一層これまでの役作り以上に知識として彼のことを情報として入れていきました。初めて実在する人を演じるからこそ念入りにやったことかもしれないです」

 中也を調べていくと「すごく良い家庭で生まれて大事にされていて、神童と呼ばれていたと。そんな家庭で生きていく中での反発精神から、家を飛び出した。そういうところが、彼が詩をつかまえようとした原動力なんだなって分かりました」といい、また、「劇中の話で言うと、泰子との出会いもそうですけど、別れのところでの彼のマイナスの感情が、中也の詩にすごく生きてることがあるなと思いました」と話す。

 その他にも準備しなくてはいけないことがたくさんあった。例えば、中也がローラースケートを履いて上手に滑るシーンが何回か出てくるが、ローラースケートはまったくの初心者だった。木戸さんは「全然滑れなかったんです。この作品でゼロから始めさせてもらった。ローラースケート場で、皆さんが遊びで履く靴から始めて。本当によちよち歩きからでした」と振り返る。

 「今回、事前に準備することが多かった。フランス語でランボウの詩を読むシーンも、多少なりともフランス語を(頭の中に)入れた上で、あえて下手に読む練習をさせてもらいました。けん玉も練習しましたね」

 ◇詩を読み上げるシーンは「今でいうラップ」?のような“音遊び”で

 大正時代の詩人を演じるにあたって、現代人にはない雰囲気を出さなければならなかった。

 「ここまで感情をすべてさらけ出すのは、この時代の人ならではなのかなと。中でも中也と泰子は感情のぶつかり合いで、思っていることは全部アウトプットする、外に吐き出すところは、やっぱり今までにない感覚でしたね。思っていることをそのまましっかり外に出すということが今までなかったので、相当体力を使いました」

 また、せりふ回しも大正当時の独特の言い回しがあった。せりふについては、「監督からとにかく一音一音はっきりと、と言われました。もやっとしゃべると現代の若者の感じになってしまうから、音をはっきり言うようにしたのは、一つ意識したところです」という。

 撮影は順撮り(最初のシーンから順番通り撮影すること)だったため、泰子と中也の出会いの長回しのシーンから撮影が始まった。

 「監督が、中也の登場は『こいつなんだ?』みたいな形で見せたいとおっしゃってたので、すごく変なやつが来たみたいな、10代ではあるけれど彼が持っている異様な雰囲気というか、なんだろうこの人って思わさなきゃいけないと、とにかくそれを意識していましたね」

 詩を小林と2人で読み上げるシーンは、「とにかく“音遊び”と監督がおっしゃってたので、今でいうラップじゃないですけど、リズム感だったり、韻とかそういうところをすごく楽しんでやりました。ランボウの詩を小林と読んでいるところは、そんなふうに音の楽しさを遊んでいる感じと、単純に小林はフランス語が分かって、中也は分からないなりに楽しいみたいな、2人の無邪気さのようなところがしっかりと出たと思います。それを見て、泰子が嫉妬ししてまう。男と男の青春みたいなところを、あのシーンでは大事にして演じました」と話す。

 中也の詩に関して、自身では「自分の解釈でいこうって割り切った部分はありました。正解は分からないかもしれないし、中也本人もどう思っていたか分からないけれど、自分がこう思ったというものを大事にしようと思いました」と力を込めた。

 中也を体の中に取り込み、なりきって演じた木戸さん。新境地といえる狂気をはらんだ演技が見られる「ゆきてかへらぬ」は全国で公開中だ。

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