ドラゴンボールDAIMA
第11話 デンセツ
12月23日(月)放送分
2007年にフジテレビの深夜アニメ枠「ノイタミナ」で放送された人気テレビアニメ「モノノ怪」の完全新作劇場版「劇場版モノノ怪 唐傘」。同作でキーパーソンとなる大奥の女中・北川を演じる声優の花澤香菜さん、中村健治監督の対談が実現した。北川は、物語の核となる重要な役どころだっただけに、花澤さんへの公開前のインタビューは一切なく、初めて役作りやアフレコの裏側を語った。
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中村監督 映画はテレビアニメに比べて、やれることの深さが格段に違うと実感しました。話数のあるテレビアニメの場合は、ざっくりと全体を俯瞰(ふかん)して1話1話の中に入れるべきミッションをどのように見せていくのかを考えながら作ります。しかし映画の場合は1本で一つの作品になるわけですから、俯瞰ではなく接近して全体を見るわけです。俯瞰で見ていると気づかないところも気づくようになって、細部まで気になるようになる。また物語のスタートからラストまでを一気に見せるというのは、息継ぎせずに一息で泳ぐ行為にも似ています。その一息の中で複雑かつハイコンテクストなものにチャレンジできるのが映画だと思いました。
花澤さん アフレコ前に中村監督から物語のテーマやキャラクターの詳細情報が書かれたPDFをいただきました。そこには台本を読んだだけでは分からない北川さんの背景やキャラクター性が補完されていて、演じる上での指針になりました。作品によっては台本とは別に説明書きのようなものをいただくことはありますが、ここまで情報が詳細に記された大ボリュームのPDFは初めてでした。いい意味で……普通ではない(笑い)。そもそも台本も89分の内容とは思えないくらい分厚くて、アフレコの時に片手で持ちながら演じるのが大変でした。
中村監督 花澤さんを含めて、皆さん演じる以外の事前準備がすごかったですね~!
花澤さん PDFでは伝えきれなかった設定を中村監督から直接解説していただく時間もあって、それだけのものを事前に用意してくださるのはありがたいですし、この作品に対する中村監督の熱量を感じました。熱量を伝えてくださることでこちらのテンションも上がりますし、下手なものは出せないぞ!という覚悟にもつながる。頑張らねば!という気持ちでアフレコに臨んだのを覚えています。
中村監督 この物語の大奥とは、地球、国、社会、学校、家族……。それら集団すべてを暗喩しています。大奥ということで女性特有の物語は当然入れてはありますが、普遍的な人間ドラマを展開させたつもりです。女中の多くに顔がないのも「個を失くしたモブ」と「組織に染まる」という二つの意味を込めています。
花澤さん 北川さんが手を放した途端に、同期の女中の顔がグルグルに変わる場面は見ていて心にグサッと刺さりました。同じ組織に属していたのに、捨てた途端に自分とは無関係の人になってしまうのかと……。その冷酷さは怖いです。「組織の中で孤独に生きること」を物語のテーマにしている点も今日的だと思いました。組織に組み込まれている以上、その集団も大事にしなければいけない。でも自分の理想や願望はどこに置いておけばいいのか? その葛藤は学生でも社会人でも抱えることがあると思います。北川さんの言葉というのはアサちゃんに伝えたい言葉でありながら、実は自分自身に向かっているような言葉でもあり、しかも北川さんは実態としてその場にいるようでいてぼんやりとした思念でもあるようで、北川さんの声が届いているのか届いていないのか分からない。その揺らぎのようなものを表すことに苦労しました。
中村監督 オーディションでの長ぜりふを聞いた瞬間に、北川役は花澤さんでしかありえないと思って即決しました。一番の決め手は一つのせりふにさまざまな感情を込めることができるところ。この物語にはさまざまなキャラクターが出てきますが、北川はある意味で作品を形作る入れ物のような大きな存在です。物語の根底に北川がいて、ブルブルと作品を揺すっている。花澤さんはそんな北川というキャラクターの心の揺れ動きを声と連動させて、しかもすごく複雑に表現してくれた。僕自身、想像していた以上の北川の感情を教えてもらうことがありました。
花澤さん そのように言っていただけて光栄です! 私が演じる上で意識したのは、北川さんの孤独です。北川さんは頑張り屋さんで自分を犠牲にしながら、なりふり構わずにキャリアアップを目指してきました。しかしある時に、その糸がプツリと切れてしまって気力を失ってしまった。大奥には大勢の女中がいるのにも関わらず誰にも相談できず、どんどん孤独を深めてしまった。私自身、このままいくと心が乾いてしまうかもしれないという感覚になったことがあるので、北川さんの悲しい孤独に対して心を寄せることは難しいことではありませんでした。
花澤さん ともよちゃんとは彼女が10代の頃からの知り合いで、一緒に焼き芋フェスに行ったこともあるくらい仲が良いです。現場で会うのは久しぶりだったので、お芋好きのともよちゃんのために私イチオシの芋けんぴを買って、アフレコ前に一緒に食べました。ともよちゃんが芋けんぴをポリポリと食べている姿を眺めていたらすごく幸せな気分になりました。
中村監督 黒沢さんが芋けんぴをポリポリと食べる姿は小動物みたいでした(笑い)。
花澤さん ものすごく可愛いですよね! しかも物理的距離が近くて、会った瞬間に後ろから抱き締めてくるんです。最初はそれに慣れなくてビックリしましたが、今では抱き締められることも普通になって、私も「よしよし」モード(笑い)。ともよちゃんは天真らんまんなのでタイプ的にはカメのイメージ。アサを演じると聞いた時は意外性に驚きました。でも、ともよちゃんの内面を掘っていくと実はアサがいます。ともよちゃんは真面目だし、すごくいろいろなことを考えているし、周りを見ている。でもそれを内に秘めて外には出さない。
中村監督 その分析、分かります。黒沢さんは我慢をする人だと思いました。
花澤さん 今回の作品で自分の本質的な内面を出せるアサを演じるともよちゃんの姿を、私はいわゆる近所のお姉さんのような気持ちでうれしく見守ってしまいました(笑い)。
中村監督 人気、実力が共にあるお二人がプライベートでも仲が良いというのは、ヤバい情報です(笑い)。まさかこの二人がつながっているのかという驚きがあります。役者同士で仲が良いという話は聞きますが、それだってたまにお茶に行く程度。出会いから長く、一緒に芋フェスに行くほどの仲であるとは……。サッカーで言うところの、すごいフォワードが二人もそろっている状況です。
花澤さん (笑い)。ともよちゃんとは仕事の話はほとんどしなくて、プライベートな会話だけで盛り上がれる。気の置けない感じが一緒にいて心地いいのかもしれません。
中村監督 勧善懲悪の分かりやすい話ではなく、登場人物すべてに大なり小なりの罪があって、直線的ではない立体的かつ複雑な人間ドラマを目指しました。それはある種、果てしない物語であり、生きることのつらさや人間が持つ闇を描くことになります。人間の心に浸食してくる闇とは何だろうか?と深掘りしていくと、周囲との間に生まれる絶対的に埋められない矛盾が見えてくる。そんな闇や矛盾が広がっていく中で生まれたモノノ怪・唐傘を薬売りが斬っていく物語です。作品を通して観客の皆さんが自分の心と会話をしてもらえたらうれしいです。
花澤さん 悪いように見える人にも、実は背景や理由があったりして、正当化できないけれど理解はできるというキャラクターが出てきます。現実世界にも負の連鎖というものはあって、知らず知らずのうちに巻き込まれてしまうこともあるでしょう。この映画が、自分の大事なものを確かめる時間、自分の心を確かめる時間になってもらえたらうれしいです。カラフルな映像美にも圧倒されますし、せりふ以外のアイテムにも深い意味が込められています。あの北川さんの人形の意味とは?などさまざまに考察して隅々まで堪能して楽しんでほしいです。
「劇場版モノノ怪 唐傘」は、2007年放送のテレビアニメ以来、約17年ぶりの新作アニメ。テレビアニメに続き、中村さんが監督を務め、EOTAが制作。女たちの情念が渦巻く大奥を舞台に、薬売りが“モノノ怪”の正体を追うことになる。新作劇場版は全3章で、第1章である「劇場版モノノ怪 唐傘」が7月26日に公開され、第2章「劇場版モノノ怪 第二章 火鼠」が2025年3月14日に公開されることも話題になっている。
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