解説:「あんぱん」でも証明 朝ドラ子役に見るNHKのキャスティング力 “小さな名優”発掘の過去

連続テレビ小説「あんぱん」に出演する木村優来君(左)と永瀬ゆずなちゃん(C)NHK
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連続テレビ小説「あんぱん」に出演する木村優来君(左)と永瀬ゆずなちゃん(C)NHK

 3月31日にスタートした今田美桜さん主演のNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「あんぱん」(総合、月~土曜午前8時ほか)。朝ドラとしては、2023年度後期の「ブギウギ」以来、3作ぶりに主人公の子供時代から始まり、子役たちの好演に熱い視線が注がれている。主人公・のぶ(今田さん)と、後にのぶの夫となる嵩(北村匠海さん)の幼少期を演じる永瀬ゆずなちゃん、木村優来君らの大人顔負けの演技から、改めてNHKのキャスティング力というものを感じ取ったドラマファンも多いのではないだろうか。

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 ◇「天才子役すぎる」永瀬ゆずな、木村優来の魅力

 のぶ役のゆずなちゃんは、2015年6月13日生まれの9歳。2019年7月期のフジテレビ系“月9”ドラマ「監察医 朝顔」で子役デビューを果たし、以降のシリーズでも主人公・朝顔(上野樹里さん)の娘・つぐみ役を好演。2023年9月に芸名を「加藤柚凪」から改名し、昨年1月期の「となりのナースエイド」(日本テレビ系)など数多くの話題作に出演し、注目を集めている。

 「あんぱん」の制作統括・倉崎憲さんは、ゆずなちゃんの起用理由について「いろんな作品に出ていらっしゃって、芝居が本当にうまいなと思っていました。あとは、どことなく今田さんに似ている部分、リンクする部分があるなと思い、オファーさせていただきました」と語っている。

 そんなゆずなちゃんに対して、SNSでは「のぶちゃんの子役、今田美桜ちゃんと顔の雰囲気がよく似てる」「天才子役すぎる」「鬼気迫る演技」「朝ドラの子役はどうしてこんなに演技がうまいんだ」などと称賛の声が上がっている。

 一方、嵩役の優来君は、2016年3月25日生まれの9歳。NHKの夜ドラ「VRおじさんの初恋」「柚木さんちの四兄弟。」、同じくNHKのドラマ10「宙わたる教室」など、NHKのドラマにも数多く出演する、いわば“常連”だ。現在公開中の映画「少年と犬」(瀬々敬久監督)での好演も話題となっている。

 そんな優来君は、オーディションで嵩役に抜てきされた。倉崎さんは「(オーディションには)数十人お呼びしたのですが、優来君はまだ小学生なのに哀愁を帯びている。(嵩のモデルとなった)やなせたかしさんは、弟にずっとコンプレックスを持ちながら生きていらっしゃった。そんなやなせさんの実像に非常にリンクする部分を感じましたし、彼ならばやなせさんの幼少期時代に感じた切なさや悲しさ、哀愁も含めて表現できるんじゃないかなと思いました」と選出理由を明かしている。

 また、嵩の本役を演じる北村さんは、優来君の演技について「どこを見ているかわからない視線だったり、ネガティブともポジティブともとれない表情だったり、嵩の大事なルーツの部分を優来君が見事に演じてくれて、すごく不思議な魅力があるなと思いました」と語っている。

 ゆずなちゃんと優来君の10歳にも満たない2人が、今後どのような俳優キャリアを築いていくのか、今から楽しみでならない。

 ◇「即決でした」 澤井梨丘は「ブギウギ」で鮮烈な印象

 ゆずなちゃんのように、朝ドラヒロインの子供時代を演じ、注目を集めた子役として、近年では「ブギウギ」(2023年度後期)の澤井梨丘さん、「舞いあがれ!」(2022年度後期)の浅田芭路さん、「ちむどんどん」(2022年度前期)の稲垣来泉さん、「おちょやん」(2020年度後期)の毎田暖乃さんの名前が挙げられる。

 中でも、約700人が参加したオーディションから選ばれ、「ブギウギ」のヒロイン・鈴子(スズ子、趣里さん)の子供時代を演じた澤井さんは記憶に新しい。同作のチーフ演出を務めた福井充広さんは「僕らの間で即決でした。通常はあまりやらないんですが、オーディションが終わった後にちょっと引き留めて、髪の毛を切れるかと聞いて、すぐ撮影準備に入れる体勢が整うかどうか、確認を取ったくらい、澤井さんは光っていました」と当時、絶賛していた。

 ドラマ出演は「ブギウギ」が初めてだったが、確かな演技力、抜群の歌唱力を発揮し、見る者に鮮烈な印象を残した。福井さんは「お芝居、歌、踊り、そして周囲に愛される人柄を兼ね備えた奇跡の組み合わせの持ち主」とその才能に太鼓判を押した。

 NHKによって“発掘”された澤井さんは、2024年4月期のドラマ「Believe-君にかける橋-」(テレビ朝日系)に入院患者・井本奏美役で出演。木村拓哉さん、天海祐希さんら豪華キャストの出演が話題になった同作で、堂々とした演技を披露していた。

 ◇弱冠13歳の“実力派”毎田暖乃はすでに朝ドラ3作に出演

 “発掘”という意味では、毎田さんの名前も外せない。キャリアの第一歩を踏み出したのは、2019年度後期の朝ドラ「スカーレット」。先述の通り「おちょやん」にも起用され、このときはヒロイン・千代(杉咲花さん)の子供時代と、千代のめいの春子を見事に演じ分け、話題になった。

 毎田さんは「おちょやん」で、約500人が参加したオーディションから千代役に抜てき。同作の制作統括・櫻井壮一さんは「オーディションで見た瞬間、『この子はレベルが違う』と思った。相手のお芝居を見て演技できる子はほとんどいなくて、最初から相手を受けて芝居するのが突出していた。怒鳴ったり、笑ったり、泣いたり、幅の広い芝居ができる」と称賛していた。

 千代役で子役としての知名度をアップさせた毎田さんは、2022年1月期のドラマ「妻、小学生になる。」(TBS系)、同年の8~9月に放送されたNHKの夜ドラ「あなたのブツが、ここに」にもメインキャストで出演。そして、2024年度前期の「虎に翼」で、ヒロイン・寅子(伊藤沙莉さん)の娘・優未役として約3年半ぶりに朝ドラにカムバック。弱冠13歳ながら、抜群の演技力が光る実力派俳優へと成長している。

 今回の「あんぱん」から“朝ドラらしさ”を感じている視聴者も多いと思うが、巧みに配役された子役の生き生きとした演技は、いわば“朝ドラらしさ”の源泉の一つ。その裏にはNHKのキャスティング力、または発掘力があると言えるのではないだろうか。

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