はたらく細胞!!
01「たんこぶ」
12月13日(金)放送分
「第26回手塚治虫文化賞」のマンガ大賞に選ばれたことも話題の魚豊さんのマンガが原作のテレビアニメ「チ。 ―地球の運動について―」が、NHK総合で10月に放送を開始した。原作は、「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で2020~22年に連載され、15世紀のヨーロッパを舞台に異端思想の地動説を命懸けで研究する人々を描く異色のマンガとして話題となった。同作は、地動説が迫害される世界を舞台としたフィクションだが、地動説の証明に挑む登場人物たちの姿は、歴史上に実在していたかのようなリアルさがあり、心を揺さぶられる。「チ。」が見る人の心に迫る理由とは? 原作者の魚豊さんに聞いた。
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「チ。 ―地球の運動について―」は、飛び級で大学への進学を認められた神童・ラファウが、謎めいた学者フベルトと出会うところから始まる。異端思想に基づく禁忌に触れたため拷問を受け、投獄されていたフベルトが研究していたのは、宇宙に関する衝撃的な“ある仮説”地動説だった……と展開する。
作者の魚豊さんは、1997年、東京都生まれ。2018年に陸上競技の100メートル走を題材とした「ひゃくえむ。」(講談社)で連載デビューした。「ひゃくえむ。」に続く連載2作目として「チ。」を描く上で、「役割語を使わない」「登場人物がむやみやたらに泣かない」「好奇心と向上心を肯定する」ということを大切にしたという。
「役割語というのは、『~だわ』『~じゃ』のようなその人の属性を表す言葉。以前読んだ花沢健吾先生のインタビューでも『役割語は使わない』と語られていたのですが、それに影響を受けて。今のところ、自分も読み切り時代から使ってません。ないほうがリアルにしゃべっている感じがあって、読んでいても面白いなと思ったんです。また、そのほうが言葉を受け取る速度も速いと思ったので、役割語を使わないようにしました。ただ、だからこそ、役割語にしか出せないフィクションと文語の良さもあると思いますが」
「登場人物がむやみやたらに泣かない」に関しては、「熱くしすぎずに、冷静でソリッドな演出表現を目指した」と説明する。
「殺伐としている感じをずっと出したくて、その中で頑張る人、情熱みたいなものを描こうとしました。熱い作品はすごく好きなんですけど、熱くするのに失敗している作品はなんともいたたまれない。その緊張感は自分の中にありました。だから温度感のバランスを取って、ブレないようにしたかった」
たしかに、「チ。」では、命を懸けるほどの情熱を持って地動説の証明に挑む人々が描かれているが、一方で、どの登場人物も淡々としている印象もある。魚豊さんは「淡々としている」ことを目指したといい、地動説をテーマにしたからこそ、そうした描き方を意識したという。過剰な演出ではないからこそ、登場人物が静かに燃えているようなリアルさが伝わってくるのかもしれない。
「好奇心と向上心を肯定する」に関しては、「両論併記で終わらせないということは、すごく重要でした」といい、「読者に対して、プラスもあって、マイナスもあって、どちらか君たちが決めてください、というオープンエンドでは終わらなくて、ちゃんと僕の意見を入れる」と語る。
「チ。」は、さまざまな名言が登場し、言葉の力も魅力の一つとなっている。放送されたテレビアニメ第1、2話でも、「不正解は無意味を意味しない」「“美しさ”と“理屈”が落ち合う」といった名言が登場した。魚豊さんは、そうしたせりふは「ほぼ逆張りなんです」と説明する。
「一般的に言われているような価値観に対して逆張りをして、さらにもう一回逆張りする。そうすると、シンプルなところに戻ってこれるんです。シンプルなことを最初に言っただけだと、重みを感じられないし、説得力を感じられないわけですよね。例えば、『愛は大切だよ』と言われても、どうかな?と思う状況の中に、今僕たちはいて、そこに重みをつけるために、最初に『愛は大切じゃない』ということを誰かに言わせておいて、その後に『愛は大切だよ』に戻ると、『やっぱりそうじゃん』と思える。現代において、僕たちはそういう言葉を信じられないような状況になっていると思うので、何か説得力をつけたいと思っています」
「チ。」の各コミックスの裏表紙には、作中に登場した珠玉の言葉がデザインされている。ちなみに、カバーの裏表紙も特徴的で、「地球」「火星」といった惑星などのウィキペディアが掲載されている。
「あれは、『チ。』に登場する人々が頑張って追っている情報は、今すごくオープンになっているという意味で載せています。だから、大学図書館などの情報ではなくて、誰もが簡単にアクセスできて、内容も書き換えられるウィキペディアの情報がよかったんです。そういう状況が達成されている、ということを表したかったんです。誰でも無料で気軽にアクセスできるが故のうろんさはありますが、とはいえ、オープンなのはいいなと」
「チ。」には、「過去にこんな人々がいたんだ」と思わせるほどのリアルさがあり、そして、彼らの戦いが今の自分にもつながっているとすら感じられる。だからこそ、身に迫る物語として心が強く揺さぶられるのかもしれない。
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