海に眠るダイヤモンド
最終話後編(10話)記憶は眠る
12月22日(日)放送分
伊藤沙莉さんが主演を務めたNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「虎に翼」(総合、月~土曜午前8時ほか)が、9月27日に最終回を迎えた。女性の生きづらさや性的マイノリティーなど、さまざまな社会問題を丁寧に描いた脚本がたびたび話題になったが、真っすぐで芯の強い主人公・寅子の魅力が、物語の面白さをより一層際立たせていたように思う。そんな寅子を生き生きと演じきった伊藤さんの“すごさ”とは? 脚本家や制作統括の言葉から、ひもといてみた。
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伊藤さんは1994年5月4日生まれ。9歳のころに子役としてキャリアをスタートさせ、2005年放送の連続ドラマ「女王の教室」(日本テレビ系)などの話題作にも出演。制作陣の間で高い評価を得てきたが、その名前が広く知られるようになったのは、2017年度前期の朝ドラ「ひよっこ」以降だろう。さまざまな作品で主要なキャラクターを演じることもあった伊藤さんだが、「ひよっこ」で彼女の存在を知り、その芸達者ぶりに魅了された人も多いはずだ。
その後も、数々の話題作に出演し、抜群の存在感を放ってきた伊藤さん。そんな伊藤さんが「虎に翼」で演じた寅子は、男性ばかりの法曹の世界に足を踏み入れ、愛する人たちとの別れを経験しながらも、常に弱い立場にある者を尊重し、正義を貫いてきた女性だ。「はて?」が口癖の好奇心旺盛な寅子は、年齢を重ねても決して自分を曲げず、丸くならない。大人になっても、いい意味で根底の部分が“変わらない”キャラクター造形が魅力だったように思う。
歴代の朝ドラでは、主人公の幼少期を描く場合は子役が演じ、その後、主演俳優と交代するケースが多いが、「虎に翼」は、スタート時点で寅子が18歳だったこともあり、伊藤さんが第1回から最終回まで、その人生を見事に演じきった。女学生の寅子が法律を学び、弁護士を経て、裁判官になっていく間に、少しずつ年齢を重ねていくさまを、自然に表現していた。
本作の脚本を務めた吉田恵里香さんは、伊藤さんの演技について「大人になった寅子の演技がすごくいい」と評し、「大人っぽくなりすぎない、やりすぎない自然な演技で、口調は若々しいけれど、所作やまなざし、ほほ笑み方で年齢を演じ分けていらっしゃる。完パケをもらって見るたびに、その繊細な演技に驚かされます」と語っていた。
寅子といえば、豊かな表情も魅力の一つ。重厚なテーマを扱いながらも、最後まで暗い気持ちにならずにドラマを楽しめたのは、伊藤さんのコミカルな演技も要因になっていたように思う。伊藤さんのくるくる変わる表情や、思い切りのいい“変顔”に心を掴まれた視聴者も多いことだろう。
表現力豊かな伊藤さんについて、吉田さんは「しゃべりの演技はもちろん、立っているだけでも感情が見えてしまうような空気感が素晴らしい。一方で、喜怒哀楽を表情だけで“芸”に達するぐらい豊かに演技をされていて、演技の幅がものすごい」とたたえた。
本作の制作統括・尾崎裕和さんは、2022年放送のNHKの特集ドラマ「ももさんと7人のパパゲーノ」で、伊藤さんとタッグを組んだ経験を持つ。昨年2月、「虎に翼」の制作が発表された際には、伊藤さんについて「ずっとこの人を見ていたいという気持ちにさせてくれた俳優」「本当に素晴らしいお芝居をする人」と絶賛していた。
「物語は明るくて、楽しいことばかりではないのですが、そんな中でも寅子は前向きで、チャーミングで、明るいというイメージで考えています。(合うのは)“伊藤さんしかいない”と思い、オファーさせていただきました」と起用理由を明かしていたが、その言葉通り、伊藤さんが演じた寅子はまさにハマり役だった。時にコミカルに、時にシリアスに、寅子の心情を丁寧に演じ、視聴者を画面にくぎ付けにした。
昨年9月にクランクインし、約1年にわたって、寅子を演じてきた伊藤さん。「虎に翼」は終わりを迎えたが、チャーミングでかっこいい寅子の姿は、いつまでも心に残り続けることだろう。今後も、さまざまな役に挑戦するであろう伊藤さんの活躍に注目したい。
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