俳優の鈴木亮平さん主演で、10月15日にスタートするTBS系日曜劇場枠(日曜午後9時)の連続ドラマ「下剋上球児」。ドラマは菊地高弘さんのノンフィクション「下剋上球児」(カンゼン)にインスピレーションを受けたフィクションとして制作されるが、原案となった三重県立白山高校の“下剋上”とは何だったのか。当時の三重大会を振り返りたい。
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三重県の高校野球は、春夏通じて27回の甲子園出場経験のある三重高校を筆頭に、プロ野球・阪神タイガースの西勇輝選手、中日ドラゴンズの岡林勇希選手らを輩出した菰野高校、津田学園、津商業高校、いなべ総合学園など、私立、公立問わず、さまざまな高校がその年ごとに上位に顔を出している。
白山は「全国高校野球選手権」三重大会で2007年から10年連続で初戦敗退。2013年、県立上野高校の監督時代、チームをベスト4に導いた東拓司監督が同校に赴任。部員は9人にも満たず、グラウンドの草むしりからのスタートだった。それでも、監督自ら生徒や周囲の中学校に入部を呼びかけ、少しずつ部員数も増加。地域の人たちの応援を受けながら、2017年には3回戦に進出。翌18年、ついに甲子園初出場を決めた。
筆者は、2018年の三重大会を取材していた。白山はノーシードでの出場だったが、当時から“ダークホース”的な存在と言われ、県大会が始まる前も「もしかしたら……」という雰囲気はあった。
そして、3回戦で、当時2年生だった岡林選手を擁するシード校の菰野に1点差で勝利。「もしかしたら」という気持ちは徐々に現実味を帯びていった。準々決勝、準決勝は最終回に1点差に詰め寄られる展開で「ハラハラドキドキ」の連続だったが、最後は勝ち切る気持ちの強さが、白山ナインにはあったように思う。
決勝戦の相手は古豪・松阪商業高校。序盤から試合を優位に進めた白山は、5回表に一挙6点を奪取。危なげない試合運びで、8対2で勝利した。見事に甲子園への切符をつかみ取った瞬間、あふれんばかりの歓声と拍手がわき起こった。
同年の三重大会で、筆者は専ら松阪商業を取材していた。大会後、「下剋上」「奇跡の甲子園」といった見出しで、白山の優勝は番狂わせだったかのような記事もあった。しかし、松阪商業の監督、コーチたちは口をそろえて「白山は強かった。本当に強かった」と実力差を認め、脱帽していたし、白山と対戦した相手方の話を聞く限り、決してフロックとは思えなかった。東監督と選手たち、スタッフ陣の努力が実を結び、実力で白山が勝ち取った甲子園だった。
ドラマの「下剋上球児」は、登場する人物をはじめ、学校、団体名、あらすじもすべてフィクション。三重県立越山高校に赴任した社会科教員・南雲脩司(鈴木さん)が32歳で大学に再入学。高校教師になった後、廃部寸前の野球部の顧問になり、生活が一変し……という物語だ。
何よりも楽しみなのが「最愛」(同局系、2021年)をはじめ、TBSの数々の人気ドラマを送り出してきた新井順子プロデューサーと塚原あゆ子監督が手がけるということ。
新井プロデューサーは「塚原監督も“野球ドラマ”としても一線を画した作品にできるよう、チャレンジングな演出に取り組んでいます」とコメントしており、見たことないドラマを届けてくれる期待もおのずと高まる。鈴木さんも従来の熱いスポーツドラマとは「良い意味で印象が違う」と語っており、気合や根性のような“スポ根ドラマ”とは違った内容が見られそうだ。
白山をモデルとした越山高校野球部が、紆余(うよ)曲折を経て、どのように甲子園へと突き進んでいくのか。5年前の歓喜の瞬間を思い返し、1話1話噛みしめながら、その瞬間をしっかりと見届けたい。
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