俳優の松山ケンイチさんがかつて実在した伝説のプロ棋士・村山聖九段を演じる映画「聖(さとし)の青春」(森義隆監督)が19日から公開されている。幼少期に「ネフローゼ」という難病に冒されながら将棋の棋士を目指し、ついには史上最強の棋士・羽生善治3冠のライバルとして立ちふさがるまでになった村山九段の生涯を描いた作品で、松山さんが役作りのため体重を約20キロ増量して撮影に臨んだことや、羽生3冠を演じる東出昌大さんが“本人そっくり”なことも評判の話題作だ。自身も将棋好きという松山さんに、撮影エピソードや仕事への思いなどを聞いた。
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映画は、大崎善生さんのノンフィクション小説「聖の青春」(角川文庫、講談社文庫)が原作。「東の羽生、西の村山」と称されるほどの実力を誇りながら、難病のため29歳の若さで亡くなった村山九段の生涯を描いている。染谷将太さん、リリー・フランキーさん、竹下景子さん、安田顕さん、柄本時生さん、鶴見辰吾さん、筒井道隆さんも出演している。
もともと「将棋が好き」で、村山九段は「すごく魅力的に思えた」という松山さん。自ら演じてみたいと思っていたといい、「(村山九段は)生き物としてきれいだから。原作を読んでいたときも、村山さんを感じると自分の汚れが洗い流されるような感じがしました」と語る。腎臓の難病「ネフローゼ」のため幼いころから入退院を繰り返し、勝負の世界で生き続けた村山九段は、松山さんの目に「(自分とは)まったくかけ離れた存在」に映った。「すべてにおいて純粋。そういう人にどれだけ近づけるんだろう、表現できるんだろう、そういう自分の限界を突破したいなと。全身全霊をかけても足りない役に挑戦してみたいという気持ちでアプローチしていきました」と淡々と語る。
ネフローゼに冒されながら、将棋はもとより、全力でマージャンを打ち、全力で酒を飲む。そんな村山九段の生き方に、松山さんも当初は「なんでこの人、こんなに飲むんだろう……と。命を縮めることになりそうなのに」と思ったというが、「でもそれは、お客さんがそれぞれ考えてくれたら面白いなと思う」といい、「生きるということは、お金より、友情とか社会のルールとかよりも、もっともっと崇高なもの、大事なものだということを、村山さんの生き方を見てると考えさせられる」と語る。
「村山さんがどんな景色を見てるんだろう、というのを感じたかった」という松山さん。「それってたぶん、盤面にしかない。人との会話の中ではなくて、盤面の奥深くの中にあるのかなって。そう思って対局シーンに臨みました」と撮影時の心境を振り返る。劇中で重要なシーンとなる村山九段と羽生3冠の対局シーンでは、実際にお互いに1時間の持ち時間で、約2時間にわたって当時の対局の棋譜を再現した。松山さんは「そのときは、『ああ、この感覚か』と、なんとなく、つかめたような気がしました」と笑顔をみせる。
個性的なプロ棋士を演じる上で、特に重視したのは“指し方”だった。松山さんは「それがこの映画のすべて」と言い切る。「それができないと話にならない。四六時中、駒を持って練習していました。あれは本当に苦労しました」と明かす。大阪での撮影の際には村山九段の師匠の森信雄七段が指導に来てくれたといい、「駒を置いたときの音で分かるんですって。表面的な音じゃなく、芯を食う音」と説明する。松山さんは村山九段の駒音は「やや強め」と明かし、「一応グラデーションは付けています。静かにやったり。いろんな指し方を研究していました」と打ち明ける。
松山さんが同作の“ヒロイン”と呼ぶ羽生さんを演じた東出さんとの共演は、将棋が好きな者同士ならではの感覚が共有できた。「東出くんの素晴らしいところは、将棋に対する愛がある。そうじゃなければできないですよね。そこは本当に助かった」と松山さん。2時間の対局シーンも、あっという間に過ぎ去ったといい、「好きに勝るものはないと思いましたね。好きな気持ちはどこまでもいける」と語る。
では、自身にとって将棋の魅力とは何か。松山さんは「受け口が広いですよね。だって爺さんに勝てるんですよ。僕も子供にボコボコにされましたし、本気で子供に対して悔しがることができる。同じ相手と何回もやっても、100%(勝つ)、ということはないですからね」と熱く語る。
「好きに勝るものはない」という松山さんにとって、俳優業も“好き”のひとつなのだろうか。そう問いかけると、「好きでやっているんでしょうけど、生活のためですね」とさらりとした答えが返ってきた。「僕は仕事なんか神聖化したくないから。(でも)仕事の中でも、(俳優は)好きなことができる職業だなと思う。嫌いなものもいっぱいありますけど(笑い)。ある一部が好きだから続けていられる」と胸中を明かす。
映画のタイトルは「聖の青春」。松山さんにとっての青春とは何かと聞くと、「今もやってますよ。青春」と即答し、「子供から大人になると、これがかっこいいとかそういう感覚のものさしってどんどん変わっていく。変わっている限り、青春のような気がするんですよね。そもそも落ち着くつもりもないし。常に新しい感覚を探しているし、それが自分にとって青春だと思う」と語っていた。
<プロフィル>
まつやま・けんいち。1985年生まれ、青森県出身。「男たちの大和/YAMATO」(2005年)の少年兵役で注目され、「デスノート」「デスノート the Last name」(ともに06年)のL役で人気を博す。「デトロイト・メタル・シティ」(08年)、「カムイ外伝」(09年)、「ノルウェイの森」(10年)、「GANTZ」シリーズ(11年)、「天の茶助」(15年)、「珍遊記」(16年)など多数の映画に出演。12年のNHK大河ドラマ「平清盛」、「ど根性ガエル」(15年)などテレビドラマにも出演している。
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