九龍ジェネリックロマンス:白石晴香×杉田智和インタビュー 鯨井令子と重なる思い 欲を捨て工藤発を演じる

「九龍ジェネリックロマンス」に出演する杉田智和さん(左)と白石晴香さん
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「九龍ジェネリックロマンス」に出演する杉田智和さん(左)と白石晴香さん

 「週刊ヤングジャンプ」(集英社)で連載中の眉月じゅんさんのマンガが原作のテレビアニメ「九龍ジェネリックロマンス」が、4月5日からテレビ東京系ほかで放送される。ノスタルジーあふれる街・九龍城砦(クーロン)の不動産屋で働く鯨井令子は、職場の先輩・工藤発(はじめ)に淡い恋心を抱いており、ふと見つけた一枚の写真から、工藤には過去に自分とうり二つの婚約者がいたことを知る。なくした記憶、もう一人の自分の正体、九龍の街に隠された巨大な秘密、過去、現在、未来が交錯する中、恋が秘密を解き明かすことになる。テレビアニメは、白石晴香さんが鯨井令子、杉田智和さんが工藤発をそれぞれ演じ、吉岡里帆さんと水上恒司さんがダブル主演を務める実写映画が今夏に公開されることも話題になっている。白石さん、杉田さんにテレビアニメの収録の裏側を聞いた。

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 ◇ミステリーとラブロマンス どんどん分からなくなる

 ーー作品の印象は?

 白石さん オーディションのお話をいただく前から読んでいた作品だったので、お話をいただいた時にまずびっくりしました。うれしいし、頑張りたい、絶対に決めたい……とうわーっ!となって(笑)。原作の印象としては、ミステリーとラブロマンスのどちらもが楽しく、どっちもどうなっていくの?と気になりますが、それぞれの伏線を追っていくと、どんどん分からなくなって、混乱していくところが楽しくてしょうがないです。これはすごいな!と作品のパワーを感じますし、先生が描かれるこの絵のタッチもすごく好きです。令子の表情一つ一つが美しいですし、全てが魅力的です。ミステリーは今まで携わる機会がなく、あまり触れてこなかったので、こんなに楽しいんだ!と新たな刺激をもらっています。

 杉田さん 思い入れが特別ある作品で、原作の眉月先生とも対談させていただきました。ですが、演じる上ではその気持ちをなるべく表に出さないようにしています。考察する余地がなくなってしまうのが一番よくない。だから、役について考えるとか、そういうことじゃないところがポイントなんだろうと考えています。僕個人としては、九龍といえば閉鎖したゲームセンター、あとはゲームに出てくるイメージ。「九龍ジェネリックロマンス」について考えすぎないことが、結果として考えることに繋がるのかも。

 ーー実写映画も公開されます。アニメと映画のキャストが同時発表されたことも話題になりました。

 白石さん PVという形で共演させていただくとは思っていなかったので、鳥肌が立ちました。間違いなくそれぞれが思う令子、工藤さんがそこにいて、どちらの「九龍ジェネリックロマンス」もすごくいい!とPVを見て確信しました。

 杉田さん なかなかやらないことですよね。どうしたって比較してしまうから。工藤の立ち回りとして一番やらなくていいのは、比較することだと僕は思っています。実写とアニメのどちらも楽しみです。

 白石さん より盛り上がっていくのが楽しみですし、一緒に頑張っていきたいですね。

 ◇工藤さんが収録現場にいた!

 ーー実際に演じる上で、令子の印象は? 急にキスされても、意外と冷静だったりもしますが。

 白石さん 意外と冷静なのは、驚きが強すぎて、うまくリアクションができないところもあったんだと思います。彼女自身は普段、明るく、男女分け隔てなく仲良くできる人です。このお話の中で誰よりも変化していく人ではあるので、最終話まで見ていただくと、びっくりしちゃうはずです。この人は……と説明するのはすごく難しいですね。あえて言うのであれば、視聴者の皆さんに一番近い立ち位置ということです。令子を軸に見ていくと、いろいろな発見がありますし、ミステリーにより一層入り込みやすい。いろいろな変化がある中で、葛藤だったり、動揺だったりもあるので、そこを繊細に表現するために、落ち着いたトーンで演じようとしました。一つ一つのリアクションは豊かですし、演じてみた結果、彼女は面白い人になったと思います。

 ーー工藤は真面目でひょうひょうとしたところもあります。

 杉田さん 本音を隠すのが上手な人です。あまり近寄らず、近づきすぎると本当のことは言わない。離れていると、どこかに行ってしまう。目の前の人と話しているのに、違うことを考えている。普段は、キャラクターの距離で迷うことはそんなにないんですけどね。人が眠っている時に見る夢と同じで、そんなに力を入れて見なくていいんだと思います。考察して、私だけの答えを出してやろうとか、そんなことも考えなくていいです。僕も工藤発を演じるにあたってそういう“欲”は、どこかに捨ててきました(笑)。現場での白石晴香さんや他の共演者のお芝居をしっかり受け止められるよう、良い雰囲気を作ることだけを心がけています。

 白石さん 実は収録前、杉田さんから連絡をいただきました。「明日、よろしくな! 鯨井」と。工藤さんとして連絡をいただいたことで、収録に行った時、スーッと令子になれたし、そこにいるのは杉田さんじゃなくて工藤さんだったんです。収録に入る前から杉田さんがそういう空気作りをしてくださっていたんです。屋上でタバコ吸うシーンの少し距離の近いやりとりにしても、何かを意識するよりも、令子と工藤の2人になれるという不思議な経験をしました。「九龍ジェネリックロマンス」の現場にいらっしゃる杉田さんはどこか工藤さんを感じます。インタビューで答えられる内容も工藤さんへのリスペクトがあって、工藤さんとして答えるなら……という意識を常にお持ちだったりするのかなと感じています。

 杉田さん 工藤のいいところは、下心がないことだと思っています。

 ーー考察しなくても楽しめる作品でもあります。

 杉田さん 探られることが作品にとってノイズになるかもしれない。何かを提示するとそれが一つの答えになってしまう。考察すること自体が大事になってしまって、主題が置いていかれるんです。目的が主題になってしまうと、逆じゃないか?と思うんです。

 ◇全てを背中で語ってくれる杉田智和

 ーー杉田さんから見た白石さんが演じる令子の印象は?

 杉田さん あえて意識しないように演じていました。僕が考えなくてもどんどん鯨井令子になっていく。支配欲、名誉欲、自己顕示欲、全く必要ないです。そのどれもが僕の演技からにじみ出たら工藤発じゃなくなると思っているんですが、白石さんがそのバランスを取ってくれるんです。令子の芝居からはそれが伝わってきました。

 白石さん 私たち以外は実は考察をしながら収録していた方が多かったんです。令子は先を一番知らなくて、振り回されるべき人物でもあるので、途中から原作を読み返すのをやめました。いつもなら、原作を読み込んでから収録に行きますが、あえて読まないようにしました。お話全体を把握してはいるものの、その後の展開が具体的に頭に浮かんでこないように、フラットな状態にして、考察もストップして、自分の目の前にあるシーンに集中しようとしました。

 ーー白石さんから見た杉田さんが演じる工藤の印象は?

 白石さん 杉田さん演じる工藤さんは、背中がすごく格好いい。全てを背中で語ってくれるようでした。哀愁があるし、時には怖い瞬間もあります。でも、ついて行きたくなるような頼りたくなる背中でもあるし、画面に工藤さんがいて、杉田さんの背中から感じる工藤さんもいる。杉田さんが演じられる工藤さんは、ユニークさもありつつ、一歩近づききれない寂しさみたいなものを感じさせてくれます。もっと知りたいのに、もどかしい気持ちにさせてくれます。 絶妙なお芝居がすごかったです。

 杉田さん 今後つらくなった時、この記事を読み返します。縮小して張っておきますよ! こんなに自己肯定感が上がることはない!

 ◇白石晴香はミステリアスなのか?

 ーー白石さんの役者としての印象は?

 杉田さん 寄せ方を悟らせない。不思議な人なんです。ミステリアスなままなんですよ。いい意味で、本人の正体が分からない。だから想像するしかない。優れた役者さんであるということは認識してはいるのですが、どんな人かまでは分からない。知らなくてもいいのかな?

 白石さん えーー!?(笑) でも、何を考えているか分からないと言われることがあります。何か深いこと考えてるわけでも、変なことを考えているわけでもないんですけどね。自分が演じさせていただくキャラクターを意識しながら現場に立っているので、現場によって見せる顔が少しずつ違うのかもしれません。本当の白石晴香ってどれ?と。

 杉田さん 以前、僕があるゲームのキャラクターを考察して、そのキャラクターを白石晴香さんに演じていただいたことがありました。厳しい上司なんだけど、何周か回って言っていることが面白く聞こえる、という複雑なキャラクターを設定したんですが、白石さんならできる!という確信がありました。その時もすごく良かったんです。何やっても尻尾をつかませない。でも、近寄りがたい感じではないというある種矛盾したものを抱えてる。白石さんはそういう印象かな? 

 ーー令子に通じるところもあるのでは?

 白石さん そうなんです! 私は「九龍ジェネリックロマンス」の収録中、ずっと自分探しをしていました。自分が分からなくなった瞬間があって、ちょうど収録の時期と重なったんです。最後の方のストーリーと重なるところもあって、運命的なものを感じました。リアルな体験、その時の気持ちがお芝居に乗ったんです。今までそんなことを感じたことがないくらい、今のリアルな自分と令子の思いが重なって、自分がお芝居してるのか、自分の気持ちを吐露しているのか分からなくなるくらい。自分の気持ちと令子の気持ちがピタッとハマった不思議な感覚で、スーッと言葉が出てきました。ラストは自分でも見るのがちょっと怖いくらいです。

 ーー自分探しとは?

 白石さん 杉田さんが先ほど私のことを「つかみ切れない」とおっしゃっていましたが、私は他人軸で生きてきた人なんです。自分の軸がないわけじゃないけど、一緒にいる相手が楽しければよくて、今までずっとそれで生きてきました。自分の軸を常に持っていないと、いつかポキッとなる瞬間がくるなと何となく察知していていました。自分って何なんだろう?となった時、この作品には自分を大切にする方法、自分軸になるヒントが描かれていたんです。

 鯨井令子と白石さんがリンクした瞬間とは……。テレビアニメ「九龍ジェネリックロマンス」の白石さん、杉田さんの演技に注目してほしい。

 ※クレジット(敬称略)

白石晴香 スタイリスト:内田考昭(A-T)、Takaaki Uchida(A-T)▽ヘアメーク:大久保沙菜 杉田智和 スタイリスト:久芳俊夫▽ヘアメーク:山中 悠樹(eclat)

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