解説:アニメ、地上波回帰のワケ ジャンルとしてのメリットと弱点

民放キー局
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 新年度を前に地上波テレビのラインアップが出そろったが、中でも特徴の一つとなったのがアニメジャンルの伸長だ。ゴールデンタイムからアニメがほとんどなくなる一方、動画配信サービスでも広く親しまれている中、再び地上波でアニメを編成する意義を関係者への取材を元に探った。

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 4月の番組編成で、テレビ朝日、フジテレビが午後11時台のアニメ枠を追加したほか、劇場先行版が200万人を動員した「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」(日本テレビ)など他局でもアニメが存在感を示している。テレビ東京を除くキー局のゴールデンタイムから次々とアニメが消え、DVDが売れなくなったことから深夜アニメも苦戦し始め、アニメ関係者が必死で放送枠を確保しようとしていた2010年代末から考えると隔世の感がある。

 背景として、コロナ禍に伴う巣ごもり需要とマッチした動画配信サービスの普及に伴う「鬼滅の刃」の爆発的なヒットによって、それまでに比べて「アニメ」というジャンルが幅広い層に受け入れられるようになったのはよく知られるところだ。もちろん、SNSとの親和性が強い点も大きく貢献したといえるだろう。

 しかし、そのまま動画配信サービスに移行するかと思われたアニメジャンルだったが、そうではなかった。NETFLIXの「地面師たち」「極悪女王」、ディズニープラスの「SHOGUN 将軍」など、サービスごとに独占配信、先行配信されるオリジナルドラマから社会現象になるほどのヒット作が生まれたが、オリジナルアニメでそこまでの作品は生まれなかった。

 こうした状況もあってか独占配信のアニメは減少。「DMM TV」を運営するDMM.comの村中悠介COOも昨年11月の会見で「以前は先行配信をやっていたが、DMM TVではユーザーが求めていない」と分析。コストがかさむこともあり、なるべく網羅性を優先しているという。大ヒットした「鬼滅の刃」も、数多くの動画配信サービスで配信されたことで国民的な作品となったことも併せて考えると、アニメは多くの視聴者に届けることができる地上波に適したジャンルなのかもしれない。

 また、テレビ局にとってビジネス面での魅力も大きい。CMなどの広告収益は下がっているが、国際的にも評価が高いアニメは、動画配信サービスを介した海外展開や、商品化など放送外収入が見込める。番組関係者は「商品化はそこまで変化はないが、近年の円安で海外販売の収益が爆発的に大きくなっている」と語る。

 しかし、5年前と比べるとアニメを取り巻く状況は大きく変わったといえるが、ジャンルとしての弱点も多い。まずバラエティーやドラマと比べて費用が段違いにかかることだ。深夜のバラエティーであれば1本(1時間)あたり1000万円足らずで制作されることもしばしばだが、アニメは1本(30分)あたり2000万円でもクオリティー的に厳しく、3000~5000万円、中には1本8000万円近い作品もあるといい、今後さらに製作費は上がっていくとみる関係者は多い。

 他ジャンルと比べて倍以上の制作期間を要するのも弱点だ。ドラマであれば1クールで4~6カ月、バラエティーならさらに短期間で制作できるが、現行のアニメ作品は、2~3年前から動き出しているケースがほとんど。3カ月ごとに変化するテレビ業界の編成状況に対応するには小回りがきかず、必然的に編成主導でのハンドリングとなる。また、人手不足から経験が浅いまま重責を担わされるスタッフも増えており、クオリティーと制作期間のバランス取りが難しくなっているという。

 ビジネスの面も好材料だけではない。特に安定した収益を見込めていた中国で検閲が厳しくなり、成り立ちづらくなった。関係者によると「政権を転覆させるような話や、中学生の恋愛を描いた作品がNGになった」という。国内に目を向けても、ドラマやバラエティーと比べて、スポンサーになるナショナルクライアントが少ないといい、ゴールデン・プライムタイムでの放送は難しいようだ。

 さまざまな作品が地上波で、しかも以前より見やすい時間に楽しめるようになった現状は、アニメファンとして素直に歓迎すべきものだろう。今回言及しなかった劇場版アニメ市場の盛り上がりも含め、さまざまな課題はあるが、アニメ業界が5年前よりいい状況であることは間違いない。さらなる盛り上がりとビジネス面での好循環を期待したいところだ。(MANTAN/立山夏行)

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