薬屋のひとりごと
第34話 怪談
3月14日(金)放送分
「第26回手塚治虫文化賞」のマンガ大賞に選ばれたことも話題の魚豊さんのマンガが原作のテレビアニメ「チ。 ―地球の運動について―」。2024年10月にNHK総合で放送をスタートしたアニメは最終章を迎えた。魚豊さんは、陸上競技の100メートル走を題材とした連載デビュー作「ひゃくえむ。」を経て、「チ。」を描き、その後、恋と陰謀論をテーマとした「ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ」を連載した。2018年から2024年にかけて発表されたこの3作品はいずれも“人間”を描いているという。衝撃的な作品を描き続ける魚豊さんに3作品の関係性や現在構想中という次回作、「最近衝撃を受けたこと」を聞いた。
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「チ。」は、「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で2020~22年に連載され、15世紀のヨーロッパを舞台に異端思想の地動説を命懸けで研究する人々を描く異色のマンガとして話題となった。タイトルの「チ。」は、大地の「チ」、血の「チ」、知性の「チ」を意味しており、地動説を題材に“知性と暴力”を描いた。続いて発表された「ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ」のテーマは“恋と陰謀論”。小学館のマンガアプリ「マンガワン」で2023年8月~2024年2月に連載され、なかなか人生がうまくいかない青年が恋と陰謀論に巻き込まれていく……という異色のラブコメディーが描かれた。作品のテイストは違うものの、どちらも「真実を知りたい」人々が描かれている。
魚豊さんは、「チ。」の連載中に「FACT」の構想を練り始めたという。
「『チ。』を描いている時に『次はどうしよう?』と思っていて。その時、すごく陰謀論に興味があったんですけど、マンガで描くとなると、どういう物語にすればいいんだろう?と。それでいろいろな資料などを見ていたら『恋愛と陰謀論って近いんじゃね?』と思ったんです」
恋愛と陰謀論の共通点は「無限に勘ぐること」だという。
「『本当はこうなんじゃね?』と勘ぐりまくる。『現代思想』(青土社)2021年5月号が陰謀論特集で、石戸諭さんが『陰謀論者というのは、認知バイアスの根本的帰属の誤りに陥っている。それは簡単に言うと、深読みしすぎてしまうことなんだ』というようなことを書かれていたのですが、深読みするという点で言うと、恋愛もそうだよなと。『このLINEの本当の意味は?』『このLINEが2時間未読無視の意味は?』と、別に意味なんかないかもしれないけど、『何か意味があるんじゃね?』と思い始めるという。それって実は、理性的思考なんですよね。フィクションを作ることや、ものを理解することともすごく密接に結び付いているので、面白いなと思って描きたいと思いました。『チ。』では『疑うことの大事さを描こう』と思っていたのですが、『FACT』は『信じることの尊さを描こう』と。テーマとして逆のことをやろうというのはありましたね」
「疑う」と「信じる」。「チ。」においても、終盤でラファウが「真理の探究において、最も重要なことだ。信じろ」と語っており、かたやアルベルトの父は「この先、何かを学ぶ時、知りたいと感じた時、これだけは覚えていてくれ。疑うのだ」と語っている。「チ。」と「FACT」のつながりを感じさせるシーンだが、連載デビュー作の「ひゃくえむ。」も含めた3作品につながりがあるという。
「『ひゃくえむ。』は“個人”、『チ。」は“世界”、『FACT』は“社会”の話を描いているんです。それぞれが人間の認識の話になっている。自分が学んできた哲学の分野では、個人、世界、社会の三つの分け方で人間を捉えることがあるのですが、その三つを元に作品を描いたら、それぞれに大きなテーマがあるので面白いかなと思いました。考える発想の基として、その型を使ったという感じです」
人間と世界の関係性を異なる視点で描いた3作品を描き終えた魚豊さんは一時、「やりたいことはもうない」と思ったものの、現在は次回作に向けて動き始めていると語る。
「次は衣・食・住をすごくやりたい。それこそ人間の営みに根本的に関わることですよね。僕はそういう大きいことにしかあまり興味がないので。衣・食・住をトリロジーでやってみようと。その3作品は、死ぬまでには絶対やりたいなと思っています。まずは食からやってみたいですね」
20代で「ひゃくえむ。」「チ。」「FACT」を描き、若き天才マンガ家とも呼ばれる魚豊さん。「チ。」でも一つのキーワードとなったマンガ家としての“信念”について聞いてみた。
「自分がいいと思ったことをやる、というのは大前提です。それを人がいいと思っていないかもしれないからという理由でやらない、ということはしない。逆もしかりで、『これは人がいいと思うだろうな』と思うからやる、みたいなことは絶対しない。だから、媚(こ)びるようなマンガは絶対に描かないと思っています。そうでないと、やっている意味がなくなるので」
自身が「いいと思ったこと」が人に受け入れられない怖さはないのだろうか。
「その怖さはないです。むしろ、それをやらないで死ぬ人生のほうがよっぽど怖い。ただ、もっと合理的な話で、誰かに合わせて自分が好きじゃないものやった場合って、実はその人が好きじゃない可能性があるじゃないですか。でも、自分が好きなものをやった場合、最低限世界に1人はその作品が好きな人がいるということだから、勝率が高いのはこっちだと思います。とはいえ、みんなヒットを出しているから、最近はマーケティングは本当に実在するのかもと思ってきましたが(笑)。でも、僕からするとそれは“魔法”なので、今のところ自分の中で期待値が高いほうをやっているという感じです」
自身に表現したいと思える好きなものがあったことを「幸運」とも感じているといい、「その神様からもらったものは使いたいなと思っています。マンガを描くのもすごく好きなので、神のみわざを感じています」と語っていた。
最後に、魚豊さんに最近刺激を受けた本や映画、音楽などを教えてもらおうと質問したところ、「コンテンツじゃないんですけど……」といい、最近の海外旅行について語ってくれた。それ以前、高校時代のハワイ旅行も「チ。」の制作に影響を与えたのだという。
「ハワイに行った時に夜空を見たらすごく星がきれいで。きれいというか、異常に星がたくさん見えて、怖かったんです。気持ち悪いくらい星があって。その気持ち悪さが『チ。』を描く時に出力された。あとは、昔の人って、星を見て考えただろうなと、いろいろ思うことがあったんです」
そうした経験があったものの、実は魚豊さんは飛行機恐怖症で、海外旅行から遠ざかっていた。「でも、2年ぐらい前から『寝ればいける』ということに気付いたんです。徹夜した後に飛行機に乗って寝る、という技の開発により、どこにでもアクセス可能な半端ない完璧な人生が誕生したんです(笑)」といい、ドバイやギリシャなどさまざまな国を訪れたという。
「それで本当によかったのが、行く予定じゃなかったスペインに行ったことなんです。バルセロナに1泊しかしていないんですけど、異常によくて、住んでみたいなと思ったんですよね。ノリがよかったというか。街の中心にサグラダ・ファミリアがあるということが、この街の人たちのアイデンティティーに影響を与えているだろうなと思って。しかも、ガウディを中心にいろいろな建築のノリができていて、それも実に“妙”というのが、すごく僕の自認と合うというか。僕もそういう人間でいたいと思っているので、いいな!と思って」
訪れた土産店には、ガウディ、ダリ、セルバンテスという偉人たちのグッズが並び「めっちゃ全員変じゃん!このハイパーポップさはマジでいいぞ!」と感じたそうだ。
「その場所に行った時に初めて自分が相対化されて、『こういうのが好きだったんだ』と分かる感覚、『こういう国に住みたい』と思うというのが初めての経験で、めっちゃ衝撃でした。これから国固有の歴史も学んでいきたいですが、それを勉強する前のファーストインプレッションの、街に降りた時の感覚、センスのあるやつが開き直ってる明るさがして、その感じにすごく憧れる。その感覚は勉強して得た情報よりも、結構本質的なものが滲(にじ)む気がして、超いいじゃん!と思ったんです」
「自分の進むべき道はこっちだなと思いました。スペイン的なものが作りたい」と喜々として語っていた魚豊さん。今後、一体どんな作品で私たちを驚かせてくれるのか、期待が高まる。
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