西尾維新:デビュー20周年で新たな挑戦 新作は「そう簡単には死ねなくなる小説」 作家としてのポリシー

西尾維新さんの「ウェルテルタウンでやすらかに R.I.P. werther town」
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西尾維新さんの「ウェルテルタウンでやすらかに R.I.P. werther town」

 アニメも人気の小説「<物語>シリーズ」などで知られる西尾維新さんの完全新作「ウェルテルタウンでやすらかに R.I.P. werther town」が、オーディオブックとしてAmazonの音声コンテンツサービス「Audible(オーディブル)」で2022年12月に配信された。新作は、オーディオブックとして音声で配信した後、書籍として出版する異色の「オーディオファースト作品」として発表された。2022年に作家デビューを迎えた西尾さんが、テーマとして選んだのは「自殺」。

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 犯罪小説家である「私」が主人公で、「私」は、故郷の町・安楽市(あんらくし)が自殺の名所として宣伝されようとしていることを知り、15年ぶりに里帰りし、それを阻止しようとする。声優の鈴村健一さんが朗読を担当した。西尾さんが「そう簡単には死ねなくなる小説」と表現する新作への思いをメールインタビューで聞いた。西尾さんの言葉は原則としてメールの原文のまま掲載する。
 
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 --主人公を犯罪小説家にした理由など、ストーリーを構想されたきっかけ、経緯を教えてください。

 子供の頃から真犯人が謎解きシーンのラストで自殺する推理小説に親しんできたのですが、振り返ってみるとあれは作劇上、逮捕後の複雑な手続きや改めての罪状認否、公正な裁判を省略するための技法だったとも受け取れます。しかしその一方で自殺=有罪とするのはいかにも乱暴で、黒幕の存在すら窺(うかが)わせるわけで、この場合の黒幕とは即ち作者ということになるでしょう。主人公が小説家ではなく犯罪小説家なのは、そういう理由です。

 --新作は、西尾さんご自身が「西尾維新なりの『若きウェルテルの悩み』と言ったところ…か」とコメントされていて、「自殺」がテーマの一つとなっています。「自殺」を取り上げた理由は?

 複数の理由がありますが、執筆中はあまり意識しなかった理由を考えると、こういう小説を書いておけば、最低でも自分の自殺は防げるかなという気持ちがあったかもしれません。説得力がなくなりますからね。作中の主人公とは違うアプローチですが、「この一冊を書けたらもう死んでもいい」という小説はこれまで何冊も書かせていただきましたし、ならば「この一冊を書いたことでそう簡単には死ねなくなる小説」も、あるに越したことはないでしょう。

 --新作は、音声として配信されます。通常の小説の執筆とは異なる部分や、難しさ、面白さを感じたことは?

 まず、作家生活20年を過ぎても、新しい挑戦をさせてもらえたことに感謝します。僕は同音異義語が好きなんですが、オーディオ上では一緒になりかねない危うさに気付かないわけでもないです。なのでそういったレトリックは極力控えるべきかとも思いましたが、オーディオファーストに挑むことで全力を出さなくなるのはまったく違うと思い直し、執筆する上では、いつも通りに、もしかするといつも以上に自由にやらせていただきました。むしろ内容面での意識がありましたね。

 --新作は「若かったあの頃を思い出しながら、今の私で執筆しました」とのこと。執筆しながら、どんなことを思い出しましたか?

 作中の餓飢堂きせき(主人公が安楽市で出会う人気歌い手)の気持ちに共感するのが犯罪小説家にとって難しかったように、今となっては十代だった頃の自分の気持ちに共感するのも不可能に近いのですが、だからこそ客観的に、他人事のように振り返ることができると思いました。特に思い出したのは、20歳までに小説家になれなければ死ぬしかないと思っていた強烈な気持ちですね。死ぬしかないことはないよ、西尾くん。

 --作家業20年を振り返り、最も大変だったこと、最もうれしかったことは?

 最も大変だったのは「週刊少年ジャンプ」で連載をしながら小説をたくさん書いていた頃。今も同じことをさせてもらっていますが。最も嬉しかったことも同じですね。

 --作中では主人公が「全人類に向ける小説より独りよがりの小説を」と語る場面があります。西尾さんが作品作りでポリシーとしていること、心がけていることをお教えください。

 あんまりないですけれど、そう言えば自作を「作品」と呼ばないっていうのがありました。謙虚なようでいて自意識過剰ですよね、これ。「作品」と言うと遊びじゃなくなっちゃう感じが嫌なんでしょうか。ただし「りぽぐら!」だけは「作品」と言ってもいいかもしれません。誰がどう見ても遊びですから。オーディオブック化してほしい一冊ですね。

 --新作で自身にとって挑戦となったことは?

 オーディオファーストであることとは別の、内容的な視点として、「小説があったから生きてこられた」が真なら「小説があったから死んでしまった」も真になりかねず、またその生存者バイアスを、小説を読んだことのない餓飢堂きせきのような人間にどう適応する? みたいな点が新しい執筆でした。

 --最後にファンへメッセージをお願いします。

 20年間ありがとうございました。オーディオファースト「ウェルテルタウンでやすらかに」で初めて聞いたというかたにもお礼を言いたいです。いわゆる物語シリーズもオーディオブック化していただいてますので、そちらも是非。21年目以降、西尾維新がどんな活動をするのかは今のところ白紙の状態なので、色々楽しみです。またどこかでご縁がありましたら、どうぞよろしくお願いします。

 「Audible」は、小説やビジネス書といった人気書籍などをプロのナレーターが朗読した音声コンテンツで、スマートフォンやパソコンなどで楽しむことができる。配信中の「ウェルテルタウンでやすらかに R.I.P. werther town」のほか、同じく西尾さんの著作「<物語>シリーズ」をアニメの声優陣が朗読するオーディオブックシリーズが2021年2月から順次配信されている。今後は、早見沙織さんが朗読する「余物語」が3月17日、堀江由衣さんが朗読する「扇物語」が4月21日に配信予定。

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