UFC281:アデサニヤVSペレイラは「スリリングでハイレベルな戦い」に “世界のTK”高阪剛が見どころ語る

イズラエル・アデサニヤ選手(左)とアレックス・ペレイラ選手/Getty Images
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イズラエル・アデサニヤ選手(左)とアレックス・ペレイラ選手/Getty Images

 総合格闘技のイベント「UFC281」が現地時間の11月12日、米ニューヨークで行われる。メインイベントは、ミドル級王者のイズラエル・アデサニヤ選手が、かつてキックボクシングのルールでKO負けを喫したアレックス・ペレイラ選手を迎える6回目の王座防衛戦だ。WOWOWの「UFC-究極格闘技-」解説者で、“世界のTK”こと高阪剛さんが、見どころを語った。

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 --王者アデサニヤVS挑戦者ペレイラのミドル級タイトルマッチが実現します。アデサニヤにとってペレイラは因縁の相手と言っていいですよね。

 そうですね。キックボクシングルールで2度敗れていて、しかも2戦目は完全にKOされていますから。自分もあの映像は見ましたけど、そんな昔の試合でもないんですよね。

 --アデサニヤがKO負けしたのは2017年3月で、翌18年2月からUFC参戦ですからね。

 だから、アデサニヤがまだMMA(総合格闘技)と並行して、キックボクシングのリングにも上がっていた時期だったんだなと思って、そこに合点がいったんですよ。MMAとキックボクシングの打撃って、似ているようで違うので、アデサニヤはキックボクシングの打撃からMMAの打撃にアジャストしている最中に、あの試合をやってるんですよね。MMAだと打撃だけじゃなく、相手の組みも警戒しながら試合しなきゃいけないので、それを自分の打撃スタイルにうまく当てはめることを模索している状態だったんだと思うんですよ。だから、キックでのペレイラ戦では、相手との距離を詰める際に半歩深くて、バックステップされた時に前のめりに崩れていた。アデサニヤがキックボクシングしか頭になかったら、ああいう体の崩れはなかったんじゃないかと思うんですよね。

 --ある意味で、キックボクサーとMMAファイターがキックの試合をやった感じになっていた、と。

 そんなことが起こっていたと思うんですよ。そして、ペレイラの方は、自分が見た感じだと、自分の距離設定と自分のタイミングじゃないとパンチを出さないタイプの選手なんです。ちゃんと当てられる状況でのみ打撃を出して無駄打ちしない、選んで打っているという印象がありますよね。対してアデサニヤの方は、どちらかというと、どんどんプレッシャーをかけていって、フェイントを入れたり、自分から攻撃をして崩そうとしたりしている。それでペレイラ戦ではカウンターをもらってしまっているんですね。

 --今回は、それがMMAルールになったらどうなるか、ということですよね。

 そういうことですね。ペレイラのUFCに来てからの戦いを見ると、キックボクシング時代とおおよそ変わってないんですよ。自分からバンバン手を出しながら前に出ていくというよりは、距離を保ちながら、“的”が射程範囲内に入ってきた時に、針の穴に糸を通すようにパンチを打ち抜く。打って、それが当たるべきところに当たってない打撃の方が、たぶん少ないんじゃないかな。

 --相当な命中率の高さだ、と。

 パンチをボディーにも散らしますけど、基本、顔面のガードが一瞬開いたところに、自分のタイミングでパーンと打ちにいくという、精密機械のような試合のやり方をやってますよね。ペレイラの他のキックの試合も見たんですけど、自分のタイミングになった瞬間のハンドスピードと当てる感覚はすごく優れたものがあると思いましたね。

 --GLORY(キックボクシング)のライトヘビー級、ミドル級の2階級制覇しているのはだてじゃないわけですね。

 そういう選手がMMAに来て、どんな戦いをしているかといえば、自分が見る限り「総合の試合」をほぼやってない。キックボクシングのつもりでやってる感じがするんですよ。UFCデビュー戦のアンドレアス・マイカライディス戦では、キックボクシング時代にも使っていた2段式の跳び膝蹴りでKOしてるんですけど、相手がダウンした時に追撃のパウンドをしてないんですよ。キックボクシングなら、あそこでダウンカウントが始まるので。だからペレイラはUFCのオクタゴンにいながら、頭の中は「キックボクサー」なんだと思います。

 --前回のショーン・ストリックランド戦も、パウンドをたたき込んでのTKOではなく、打撃で倒した瞬間に終わるKOでした。

 あれは左フックでしたけど、一瞬フェイントをかけてステップインで左フックという、あれもキック時代によく使っていた技ですよね。だから言ってしまえば、ほぼキックボクシングで培った技術だけで、UFCというMMA最高峰の舞台で通用して、なおかつ、タイトルマッチまで来てしまったといえると思います。

 --「キックボクサー」がUFCの頂点に立ってしまうかもしれないわけですね。

 アデサニヤの方はというと、同じキックボクシング出身のストライカーですけど、今はそのキックの技術をMMAに落とし込めている状態だと思うんですよ。スタンドでの距離の詰め方とか、MMAをすごく研究して努力しているからこそ、いろんなタイプのトップファイターたちに勝つことができている。MMAファイターとしての完成度なら、アデサニヤの方が上ですよね。ペレイラの方は、例えば、何でもできるロバート・ウィテカーみたいな選手とやって、打撃だけじゃなくタックルや組みをいろいろ交ぜられたら苦戦するかもしれないし、デレク・ブランソンのようなゴリゴリのレスラーや、パウロ・コスタのような打撃も強い柔術家とやったらどうなるかは未知数。でも、王者であるアデサニヤに対しては、ペレイラは自信を持って戦えると思うんですよ。そこがこの試合の面白さですね。

 --MMAのキャリアは浅くても同じキックボクシングベースのストライカー相手だったら、GLORY王者の自分に分があるという。

 だから、もしかしたら、アデサニヤにとってペレイラは天敵のような存在かもしれないですね。アデサニヤって、UFCミドル級屈指の長身でリーチも長い。そこが打撃技術と並んで、対戦相手に対する大きなアドバンテージにもなってきたと思うんですけど、ペレイラは、身長もリーチもアデサニヤとほぼ一緒なんですよ。それを踏まえて、アデサニヤがどういう試合作りをするのか。そこにすごく興味がありますね。

 --身長、リーチというアドバンテージがなく、打撃技術も自分と同等かそれ以上かもしれない相手と戦うわけですからね。

 もしかしたら、アデサニヤが自分からタックルに行くかもしれない。ペレイラも、タックルに対して初動が遅れるところがあるので、うまく相手の攻撃をもらわないでタックルに入ったら、削ることはできると思うんですよね。アデサニヤも、自分のプライドとして打撃でKOしたいという気持ちはあると思うんですけど、これはMMAだから、タックルを選択肢として持っていてほしい希望は、自分の中にありますけどね。

 --早い段階でテイクダウンできて、グラウンドで削ることができたら、かなりの優位になるでしょうからね。

 ペレイラは一発の破壊力があるので、それを弱めることをアデサニヤも考えていると思うんですけど、それが何なのか。普通に考えたら、組んで削るというのがかなり有効だと思いますから。

 --アデサニヤは柔術世界王者アンドレ・ガウバオンの指導も受けていますしね。

 アデサニヤはウィテカー戦やマービン・ベットーリ戦なんかを見ても、柔術やグラップリングをしっかりやってないとできない動きを随所に見せていましたからね。だから今回、ペレイラという最強のキックボクサーを相手に、アデサニヤがまた新たに覚醒する姿が見られるんじゃないかと期待しています。それと同時に、ペレイラもMMAファイターとしての成長度合いも未知数なので、この試合で真の実力が見られるかもしれない。

 --ペレイラはグローバー・テイシェイラのチームですしね。

 ペレイラも、絶対にグラップリングのトレーニングも積んでるはずなんです。だけど、試合になったら思いっきりキックボクサーになっている。よっぽど打撃で倒せる自信があるんでしょうね。アデサニヤ相手でもそのままいけるかどうか。いずれにしても、ものすごくスリリングでハイレベルな戦いが見られることは間違いないと思います。

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 UFC281の模様は「生中継!UFC-究極格闘技- UFC281 in ニューヨーク いよいよ激突!アデサニヤVSペレイラ」と題し、WOWOWで独占生中継・生配信。いずれも日本時間で11月13日正午からWOWOWライブ・WOWOWオンデマンドで生中継・生配信、16日午前8時からWOWOWライブ・WOWOWオンデマンドでリピート放送・配信する。

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