UFC268:最強王者ウスマンは「パンチの殺傷能力が飛躍的」 挑戦者コビントンも「化け始めている」 高阪剛が見どころ語る

(左から)カマル・ウスマン選手、コルビー・コビントン選手、 ローズ・ナマユナス選手、ジャン・ウェイリー選手(C)GettyImages
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(左から)カマル・ウスマン選手、コルビー・コビントン選手、 ローズ・ナマユナス選手、ジャン・ウェイリー選手(C)GettyImages

 日本時間の11月7日に米ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで開催される総合格闘技(MMA)イベント「UFC268」。メインとなるのは、2019年12月以来の再戦となる王者カマル・ウスマン選手と挑戦者コルビー・コビントン選手のウエルター級タイトルマッチ。3度王座を防衛し、現在UFCパウンド・フォー・パウンドランキング1位でもある最強王者ウスマン選手に、コビントン選手はどう立ち向かうのか。WOWOW「UFC-究極格闘技-」解説者としても知られる“世界のTK”高阪剛さんが、両選手による試合の見どころを語った。

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 --「UFC268」のメインイベントはウスマン選手対コビントン選手のウエルター級タイトルマッチ。この一戦を高阪さんは、どう見ていますか?

 この試合は1年11カ月ぶりの再戦ですけど、単なる再戦ではないな、という気がするんですよ。というのも、このところウスマン選手のパンチの“殺傷能力”が飛躍的に伸びてるんですよね。

 --今年2月のギルバート・バーンズ選手戦、4月のホルヘ・マスビダル選手戦と、パンチで圧倒して完全KOしています。

 以前のウスマン選手は、強いんだけど、いまいち相手を倒し切れてないイメージがあったじゃないですか。もちろん、強すぎるが故に相手がなかなか前に出られなかったからでもあるんですけど、相手に攻撃をさせない難攻不落感があった。

 --確かに以前は、“地味強”のイメージがありました。

 それがここにきて、明らかに打撃の殺傷能力が増している。前回のマスビダル選手戦後のインタビューで、“ボクシング技術を磨いてきた”という発言があったと思います。以前から的確なジャブなど、パンチの技術にも定評があったウスマン選手が、しっかり倒すフィニッシュブローを身につけ、ハマってきた感じがあるんですよね。マスビダル選手戦の最後の右ストレートなんかでも、一切迷いがない打ち方でしたから。

 --踏み込んで、全体重を右の拳に乗せたようなストレートでした。

 それを踏まえて、改めて前回のウスマン選手対コビントン選手の試合映像を見返してみたんですよ。そうしたら、だいぶ記憶と印象が違ったんです。記憶では、4ラウンドまでコビントン選手が健闘して接戦だったのが、5ラウンドにようやくウスマン選手がダウンを奪って勝ち切ったというイメージだったんですが、改めて見ると4ラウンドまでも、実はパンチを当てている数はウスマン選手の方が圧倒的に多いんですよ。

 --特に序盤はコビントン選手の手数が優勢に見えましたが、実はウスマン選手のほうが当たっていた、と。

 それはコビントン選手の顔のダメージにも現れているんですよ。出血したり、腫れたりしていたので。でも、見ている人の多くは“なんでコビントン選手、こんな顔になってるの?”と思うような、そんな印象だったと思うんですよね。

 --ボコボコにはされてないはずなのに、なぜか腫れているみたいな。

 またコビントン選手の打撃は強打で、ウスマン選手をグラつかせたシーンもあったので、余計“コビントン選手がやや優勢”という印象が、特に前半は強かったと思うんですよ。ところが実際は、ウスマン選手がしっかりとダメージを与え続けていた。だから5ラウンドの最後のシーンも強烈なフィニッシュブローが当たったというよりは、コビントン選手が4ラウンドまで削られてしまったところに、いい打撃が入ったというのが正直なところだと思うんですよね。

 --実際は“ダメ押し”みたいなものだった、と。

 例えば、最後と同じパンチを2ラウンド目くらいでもらっても、コビントン選手は倒れてなかったと思うんですよね。あくまで、時間をかけてダメージが蓄積したからこそ倒れた。でも、いまのウスマン選手は、早いラウンドからでも倒し切れるくらいにパンチを磨き上げてると思うんですよね。だから、ウスマン選手はまだまだ余力、伸びしろを残したまま、チャンピオンになったんだなって。

 --チャンピオンになってから、さらに化けたという。

 その化けるスピードもちょっと尋常じゃないな、と。こうなると身体能力がそもそも高くて、レスリングはトップクラスに強くて、スタミナは化け物だし、それで殺傷能力の高い打撃まで身につけたら、もう手が付けられない状態になってきてますよ。

 --まさにパウンド・フォー・パウンドと呼ぶにふさわしいですね。

 だから、今のウスマン選手に勝つのは相当至難のワザだと思うんですよ。ただ、挑戦者のコビントン選手もまた、化け始めているんです。前回(2020年9月)、前王者のタイロン・ウッドリー選手との試合で、ばんばんテイクダウンを奪って、完全にグラウンドで押さえつける試合をやって完勝した。もちろんコビントン選手はもともとレスリングが強い選手ですけど、これまでのパンチ主体の戦いではなく、自分の戦いの幅を広げるためにも、あえてウッドリー選手のようなテイクダウンディフェンスが固い相手に対して、テイクダウンを駆使して勝ちにいったのかな、と思ったんですよ。

 --ウッドリー選手もかつてのウスマン選手と同様に、なかなかテイクダウンされなくて守りが固い、難攻不落の王者と言われていました。ある意味で“仮想ウスマン”を意識しての試合だったかもしれないですね。

 そうじゃないかと思うんですよ。だから、コビントン選手もまた、前回のウスマン選手戦とは、違った戦い方をしてくるんじゃないかな。ウスマン選手からテイクダウンを奪うっていうのは、ちょっと考えにくいですけど、組みを混ぜれば、テイクダウンが取れないにしても、ウスマン選手の独特の距離設定を崩すことにもなると思うんです。ウスマン選手はリーチも長くて脚も長い、だから相手からすると“ここなら大丈夫だろう”と思うような遠い距離でも、速いジャブがしっかり届いてくる。

 前回、コビントン選手はそのジャブをだいぶもらってしまったので、あのウスマン選手のジャブだけが届く距離を潰すためにも、組んで一回距離をゼロにする。そうすると離れた後、ウスマン選手はもう一度距離を作り直さなきゃいけなくなるので、戦略としてはありかなと思いますね。

 --逆に言うと、前回とは違った展開を考えないと、打撃まで飛躍的に向上したウスマン選手に勝つのは難しいと。

 そうですね。もう強さがヤバい段階まできてますから。あのウスマン選手と組んで戦うという戦略を入れるのは、コビントンサイドとしてもギャンブルだとは思うんです。前回、KOされた感触というのは、間違いなくコビントン選手の中に残っているわけで。

 しかも、ウスマン選手は2年前より飛躍的に打撃の殺傷能力が上がっているとなれば、普通に考えて、戦略は変えざるをえない。だからコビントン陣営が、一体どんな戦略を練ってくるのか、そこがポイントだと思います。いずれにしても、今回の再戦は、前回を上回るハイレベルな戦いになることは間違いないですね。

 *……試合の模様は、「UFC‐究極格闘技‐ UFC268 in ニューヨーク ウェルター級ウスマン&女子ストロー級ナマユナス、因縁の防衛戦!」と題し、11月7日午前11時からWOWOWライブ・WOWOWオンデマンドで生中継・同時配信。11日午後10時からリピート放送・配信もされる。

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