伊藤健太郎:「東京ラブストーリー」なぜカンチ役? 「昼顔」で“発掘”したドラマPが語る魅力

伊藤健太郎さんが主演を務める連続ドラマ「東京ラブストーリー」のワンシーン(C)柴門ふみ/小学館 フジテレビジョン
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伊藤健太郎さんが主演を務める連続ドラマ「東京ラブストーリー」のワンシーン(C)柴門ふみ/小学館 フジテレビジョン

 柴門ふみさんの同名マンガを約29年ぶりに再ドラマ化した連続ドラマ「東京ラブストーリー」で主人公の永尾完治(カンチ)を好演した俳優の伊藤健太郎さん。「東京ラブストーリー」の清水一幸プロデューサーは、伊藤さんがドラマデビューした連続ドラマ「昼顔~平日午後3時の恋人たち~」(フジテレビ系、2014年7月期放送)でもプロデューサーを務めていた。今作のいわゆる“令和版”のカンチについて「普通オブ普通」の男と説明し、同役を演じられるのは「伊藤さんしか浮かばなかった」という清水プロデューサーに起用理由と伊藤さんの魅力を聞いた。

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 ◇マイルドな顔、体形、雰囲気などが“味”

 ドラマの物語は、愛媛から上京してきた完治、自由気ままな性格で、完治に好意を寄せる赤名リカ、完治の高校の同級生の三上健一、同じく同級生で完治が思いを寄せる関口さとみ、三上の大学の同級生・長崎尚子が織りなすラブストーリーだ。1991年に鈴木保奈美さんと織田裕二さん共演で制作された“平成版”は、最高視聴率32.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)、期間平均視聴率22.9%(同)をマーク。小田和正さんが歌った主題歌「ラブ・ストーリーは突然に」も大ヒットした。

 “令和版”は原作と同様、完治が主人公。しかし、原作の完治は女性に慣れている部分があり、プレーボーイの三上と差別化できなくなるため、“平成版”と同様、優柔不断で優しく温かいという設定だ。清水プロデューサーは「田舎から上京し、どこにでもいるような男の完治を誰が演じたら面白いかと考えたときに、伊藤さんにしかできないと思った」と言い切るほど、強い気持ちでオファーした。

 その裏には「“普通の男”を上手に演じられる俳優はなかなかいない」という理由があった。「伊藤さんの顔はマイルドなので、優柔不断な完治が戸惑う姿などにいやらしさがない。“普通に見せる演技”は演じようと思ってもなかなかできるものではありません。体形を含めた雰囲気など、全てが彼の“味”」と、“普通の男”を体現させることができる要素を明かした。

 ◇「昼顔」はオーディションで 「今日俺」、朝ドラにも

 では、伊藤さんは“普通に見せる演技”をどのように手にしていったのか。伊藤さんは「健太郎」名義で2014年放送の「昼顔~」でドラマデビュー。上戸彩さん扮(ふん)する主人公が、夫がいない平日昼間に不倫をする姿を描く同作で、伊藤さんは母親の不倫が原因で家庭が崩壊した木下啓太役をオーディションで勝ち取った。清水プロデューサーは、大人たちに反発する木下を迫真の演技で表現した伊藤さんについて「オーディションで見た演技で、監督と相談して彼に決めた。演技は本当にすてきでした」と振り返る。

 その後、2015年に放送された「学校のカイダン」(日本テレビ系)では、スクールカーストの上位に位置する高校生、2016年放送の「仰げば尊し」(TBS系)では、吹奏楽部の顧問を信用していなかったが徐々に感化されていく副部長を演じた。2017年9月に放送されたNHKの連続ドラマ「アシガール」では、原作ファンから人気の高い若君・羽木九八郎忠清を演じて高評価を得た。

 「アシガール」でブレークした同年、伊藤さんは、清水プロデューサーが企画したドラマ「パパ活」(dTV、FOD)にも出演。ヒロインに思いを寄せながらも複数の女性と遊ぶコック見習いを演じ、ヒロインに対する心の機微を巧みに表現。清水プロデューサーは「とても素晴らしかったです。世の中にこういう男いるよなって思わせるような演技を見せてくれました」と絶賛している。

 伊藤さんにとって、大きな転機となったのが2018年の21歳の誕生日を機に本名の「伊藤健太郎」に改名して出演した「今日から俺は!!」(日本テレビ系)だろう。三橋貴志(賀来賢人さん)をはじめ、個性が強いキャラクターたちが躍動する中で、トゲトゲ頭のツッパリ高校生・伊藤真司を演じた伊藤さんは、正義感が強く真面目な伊藤を“普通”にしっかりと演じてほかの登場人物とのいいコントラストとなり、存在感を示した。

 翌年9月から放送されたNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「スカーレット」では“朝ドラデビュー”にも関わらず、ヒロイン・川原喜美子(戸田恵梨香さん)の息子・武志を好演。過酷な運命に揺れる武志の心優しい部分を深く理解した伊藤さんの繊細な演技は、卓越した演技力で知られる戸田さんを前にしても遜色なく、多くの視聴者の涙を誘った。

 ◇各作品のプロデューサーが認める演技力 カメラが止まっているときも“普通”?

 大人に反発する学生、ツッパリ、真面目な青年とさまざまなタイプのキャラクターを演じられるだけでなく、アプローチが異なるとされる時代劇でも高評価を得た伊藤さんの演技について、清水プロデューサーは「僕も含めたプロデューサーが、彼の演技力を高く評価している」と断言。「演技という部分で見いだされ、彼がどんな役にでも向き合ってきた真摯(しんし)な姿勢がとにかくすごい」とたたえた。

 “令和版”での「普通オブ普通」の完治を演じるには、伊藤さんが持つ“味”と、さまざまなタイプのキャラクターを通じて磨き続けた「演技力」が必要だったと説明する清水プロデューサー。しかし、カメラが止まっていたときに「完治なのか、伊藤さんなのか、分からないときがあった」と明かし、「それぐらい“普通に見せる”というのは、彼の演技力なのかもしれないし、素の部分なのかもしれません。(次回、一緒に仕事をした時に)聞いてみたい」と語っていた。新人のころから何度も起用しているプロデューサーが分からないというのも俳優としての底知れなさをうかがわせる。

 伊藤さんが演じた“令和版”のカンチは、「普通オブ普通」ながら、決して“平凡”ではなく、魅力的なキャラクターに仕上がっている。そんなカンチだからこそ、リカをはじめとした“濃い”キャラクターたちを相手にしても、かすむことなくどこか心引かれてしまうのだ。物語は、最終第11話が「Amazon Prime Video」と「FOD」で配信され、すでに完結している。伊藤さんが演じた唯一無二の「普通オブ普通」の男の恋模様を、最後まで見守りたい。

 

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