小野憲史のゲーム時評:業界の人材不足 新作の本数減も問題に

「1DAYプログラミングキャンプ in CEDEC」でゲームのプログラムを学ぶ子供たち
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「1DAYプログラミングキャンプ in CEDEC」でゲームのプログラムを学ぶ子供たち

 超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、ゲーム業界の人材不足について語ります。

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 夏秋は学会やイベントのシーズンだ。8月にゲーム開発者会議のCEDEC2018、9月に日本デジタルゲーム学会の夏期研究大会と東京ゲームショウが開催された。根底に流れていたのがゲームクリエーターの人材育成に関する取り組みだ。

 CEDECでは、基調講演で任天堂の宮本茂さんが若手にエールを送った。横浜市とのコラボで小学校高学年向けの「1DAYプログラミングキャンプ in CEDEC」が開催された。スマイルブーム(札幌市北区)が開発中のプログラミング環境「プチコン4 SmileBASIC」を活用し、参加者はニンテンドースイッチ上で動作する教育用プログラミング言語「BASIC」を使用し、アクションゲームの制作に挑戦した。

 日本デジタルゲーム学会ではバンダイナムコスタジオの兵藤岳史さんが、ゲームの保存や収集に関する取り組みについて発表した。同社は1980年代のゲーム開発資料の保存と収集を進めている。兵藤さんは「文化遺産であり、人材教育にも活用できる」と考察した。

 ゲームの展示会は埼玉県川口市で開催中の「あそぶ!ゲーム展」をはじめ世界的な盛り上がりを見せているが、展示資料の元となる企業側の意識は低いのが実情。兵藤さんは「一般公開も視野に入れつつ、業界全体での理解推進にも期待したい」と明かす。

 東京ゲームショウでは、日本ゲーム大賞アマチュアゲーム部門で、応募者に18歳以下の年齢制限を設ける「U18部門」の決勝大会があり、徳島市立高等学校3年生の渡邉大誠さんが制作したアクションゲーム「モチ上ガール」が金賞を受賞した。

 全国25都道府県から100件以上の応募があり、最年少の応募者は9歳。審査員を務めたレベルファイブの日野晃博社長は「自分がゲーム制作を始めたのも小学生のころで、当時のことを懐かしく思い出した」と振り返った。

 一連の取り組みの背景には、ゲームクリエーターの高齢化と、人材教育の停滞感がある。理由の一つに挙げられるのが、ゲーム開発の大作化や運営の長期化に伴って、新作ゲームの制作本数が減少していることだ。日本のゲーム開発現場では長く、職務を通した人材育成を重視してきたため、新規ゲーム開発に必要なベテランのノウハウを、若手に効果的に伝えるのが難しくなりつつある。

 ゲーム業界は人気産業であるが故に、長く一定水準以上の人材を確保できた点も大きい。しかし、ゲーム開発技術が高度化・専門化する一方で、少子化に伴い若年層の絶対数が減少している。その結果、一部の優秀な人材を他業界や海外企業と取り合っているのが現状だ。

 鍵を握る人件費だが、ゲーム業界には逆風が吹いている。ヒットタイトルの有無で業績が大きく左右される不安定さに加えて、開発費が年々上昇している。地方のゲーム会社では基本給が最低賃金すれすれというケースもあり、これが学生を遠ざける要因になっている。

 もっとも、優秀な若手人材の確保はゲーム業界に限らず社会全体の課題だ。こうした中、遅まきながら業界が人材育成に本腰を入れ始めた点は評価できる。その上で求められるのが、企業と教育機関の連携による連続的なキャリアの形成だ。実際、入社した社員が「燃え尽き症候群」に陥ったり、トレンドの変化についていけない「ゾンビクリエーター」の存在が隠れた問題になりつつある。企業や組織を超えた相互交流・知見共有などを通して、より実践的・横断的な取り組みを期待したい。

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 おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚して妻と猫4匹を支える主夫に。11~16年に国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表として活躍。退任後も事務局長として活動している。

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