のみとり侍:阿部寛と前田敦子に聞く(下) 「結構楽しかった」ラブシーン撮影秘話

映画「のみとり侍」について語る阿部寛さん(左)と前田敦子さん
1 / 18
映画「のみとり侍」について語る阿部寛さん(左)と前田敦子さん

 俳優の阿部寛さん主演の映画「のみとり侍」(鶴橋康夫監督)が全国で公開中だ。十代将軍・徳川家治治世の江戸の町を舞台に、主君の逆鱗(げきりん)に触れ、猫の「のみとり業」に左遷された男の奮闘ぶりをコミカルに描いている。主人公の小林寛之進を演じた阿部さんと共演の前田敦子さんに話を聞いた。

あなたにオススメ

 ◇阿部の声が「大好き」

 猫ののみとりとは、実は、女性に愛のご奉仕をする“添い寝業”という裏の顔があった。生真面目な寛之進は、戸惑いながらものみとり稼業に取り組んでいく。そんな彼に、女性の喜ばせ方を指南するのが、豊川悦司さん演じる小間物問屋「近江屋」の入り婿(むこ)、清兵衛だ。前田さんはその清兵衛の妻おちえを演じている。

 阿部さんが印象に残るシーンに挙げたのは、うなぎ屋で寛之進が清兵衛からおちえの恐妻ぶりを聞かされる場面。「あれは豊川さんとの最初のシーンでしたから、結構難しいシーンでしたが面白かったですね。あとは豊川さんの“行為”をのぞいているシーン。撮影はまるまる1日あったんですけど、ああいう経験はないですから面白かったです(笑い)」と打ち明ける

 阿部さんにも、寺島しのぶさんが演じる女性とのラブシーンがあるが、恥ずかしさはなかったという。「過去の鶴橋監督の作品を見ていましたから、きっとすごくきれいに撮ってくださるだろうなと思っていました。それに応えたいと思ったし、僕の場合、豊川さんの(行為の)“丸写し”という、勉強しながらやっているというコミカルさがあったので、普通とはまた違うぎこちなさがあっていいし、あれは結構楽しかったです(笑い)」とやりがいと楽しさのほうが勝ったようだ。

 前田さんが印象深いと挙げたのは、阿部さんの声。阿部さんは今回、寛之進の心境を表現するナレーションも担当している。前田さんはその声が「大好き」で、しかも「その声に合わせて盛り上がる、阿部さんと豊川さんの面白いシーンに出させてもらえたのがすごく幸せでした」と喜びを隠さない。

 ◇時代劇の楽しみは…

 時代劇に出演することについて、阿部さんは「たたずまいとかいろんな難しいことはたくさんありますが、一つ一つそういうことを勉強して、表現していけるというのはありがたいです。それに、男の世界や人物をきっちり描いているところが気持ちいいですよね。日本の伝統でもあるし、職人さんの技術がふんだんに生かされるから、日本人として時代劇を演じるときには、他の作品のときとは違う気持ちになります」と俳優として襟を正す。

 一方、前田さんは、映画の時代劇出演が初めてなら、京都の撮影所に行くのも初めて。「全部、そばで教えていただきながら」演じたというが、阿部さんは「着物(の所作)、上手だったなあ」とか、「へえ、(初めてだったなんて)すごいなあ」と感嘆。

 その上で、「柔軟ですよね。(AKB48時代は)センターで、トップにいた人が、(芝居の世界に)移ってきて、自分を真っ白にして、すっと入っていくというのは、なかなかできることではないと思います。それができる方なんですよね。今回も京都に初めて来て、そこにすっと入って、確実に存在している。僕だったらいろんな思いが邪魔しちゃってガチガチですよ(笑い)。本当にすごいなと思います」と、横で恐縮する前田さんを手放しでたたえた。

 ◇監督からもらった「自信」

 今回の作品で得たものを、前田さんは「たくさんあります」とした上で、「先輩方ばかりの中にこうやって出させていただいて、また、その先輩方の背中を見られたことは本当に幸せでした。まだそこにいたい、先輩たちの背中をもっとたくさん見ていたいと思いました」と、またとない機会を与えてもらったことに感謝してもしきれない様子。

 一方の阿部さんは、30年前に芸能事務所に入ったばかりのころ、たまたま鶴橋監督と食事をする機会があり、以来、鶴橋監督とはいつか仕事ができたらいいと願っていたという。途中、テレビドラマで仕事をする機会はあったが、がっちり組むのは今回が初めて。喜びと同時に「責任感」を胸に、今回の現場に入った。

 そして、作品が完成した今、「晴れ晴れとした気持ちです」と笑顔を見せる。「ぱっと思い浮かぶのは、現場での監督の校長先生のような温かい空気。ですから、自分の勘違いかもしれないけれど、監督からはこの年になって自信をいただきました」と充実の表情を浮かべる。

 ◇「昼間の湯上がり」なみの爽快感

 今作は、若い女性には腰が引ける作品かもしれない。しかし前田さんは「構えを一回捨てて見てほしいです。本当に面白いですから。カッコいい大人の男性が可愛いと思えるんです。阿部さんも、真面目な役なのにすごいことをやっていますし(笑い)」とアピール。

 すると阿部さんも「若い方が見ると、きっと哀れで面白いですよ(笑い)。本当に楽しい作品だと思います」と賛同しつつ、「艶の部分もきれいだしね。(ラブシーンは)デー(昼間の)シーンで撮っている。ナイトシーンじゃないからいやらしくないんです。色鮮やかだし、『昼間の湯上がり』みたいな爽快感があります(笑い)。そこに、人間のいろんな部分が入りこんで、生きていること自体が面白いという喜劇になっているので、ひたすら笑える作品になっています」とさらにアピール。前田さんも「何人かで見てほしいですよね。一人で見ると、(面白さを)共有したくなっちゃう」と続けると、阿部さんも「そうだね、そうだね」と大きくうなずいていた。

 <阿部寛さんのプロフィル>

 あべ・ひろし 1964年6月22日生まれ、神奈川県出身。モデルを経て、87年に映画デビュー。主な映画作品に「トリック劇場版」シリーズ(2002、06、10、14年)、「歩いても 歩いても」(08年)、「麒麟の翼~劇場版・新参者~」(11年)、「テルマエ・ロマエ」シリーズ(12、14年)、「柘榴坂の仇討」(14年)、「エヴェレスト 神々の山嶺」「海よりもまだ深く」(共に16年)、「恋妻家宮本」(17年)、「祈りの幕が下りる時」「空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎」「北の桜守」(いずれも18年)がある。

 <前田敦子さんのプロフィル>

 まえだ・あつこ 1991年7月10日生まれ、千葉県出身。アイドルグループ「AKB48」で活躍し、2007年、映画「あしたの私のつくり方」で女優デビュー。「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(11年)で映画初主演。主な映画作品に「苦役列車」(12年)、「もらとりあむタマ子」(13年)、「シン・ゴジラ」(16年)、「武曲 MUKOKU」「散歩する侵略者」「探偵はBARにいる3」(いずれも17年)、「素敵なダイナマイトスキャンダル」(18年)がある。

 (取材・文・撮影/りんたいこ)

写真を見る全 18 枚

映画 最新記事