渡辺信一郎監督インタビュー(1):アニメ「LAZARUS ラザロ」誕生の裏側 新しいアクションを

「LAZARUS ラザロ」のビジュアル(左)と渡辺信一郎監督(c)2024 The Cartoon Network,Inc. All Rights Reserved
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「LAZARUS ラザロ」のビジュアル(左)と渡辺信一郎監督(c)2024 The Cartoon Network,Inc. All Rights Reserved

 アニメ「カウボーイビバップ」などで知られる渡辺信一郎監督のオリジナルアニメ「LAZARUS ラザロ」がテレビ東京系で4月6日から毎週日曜午後11時45分に放送される。世界中から集められた5人のエージェントチーム「ラザロ」が、人類を救うために、服用から3年後に死に至らしめる鎮痛剤・ハプナを開発した脳神経学博士スキナーを追う……というストーリーで、「呪術廻戦」「チェンソーマン」などのMAPPAが制作する。国内外のクリエイターたちが参加し、迫力のアクションと緻密なドラマを描くというが、一体どのように生まれた作品なのだろうか? 渡辺監督に聞いた。

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 ◇オピオイド危機からインスパイアされた

 「マクロスプラス」「カウボーイビバップ」「サムライチャンプルー」「スペース☆ダンディ」「キャロル&チューズデイ」など、渡辺監督の作品は日本のみならず、海外での人気も高い。「ラザロ」は、海外からの提案で企画が始動したという。

 「これは原作のないオリジナルアニメなので、自分をはじめとしたスタッフがゼロから作ってます。最初にカートゥーン・ネットワークという米国でアニメを放送している会社からオファーがありまして、『全額出資するので、オリジナル・アニメを作ってほしい』と。社長のジェイソン・デマルコさんは、『カウボーイビバップ』の大ファンで、なおかつすごい音楽マニアらしくて。『俺には分かる。この監督の音楽の使い方は普通じゃない。ぜひそんな作品をやってほしい』『サイファイ(SF)アクションでお願いしたい』というオファーでした。『スペース☆ダンディ』みたいなやつでいい?と聞いたら『ノー、もっとシリアスなやつで』と言われましたが」

 オーダーは「シリアス」ということだけで、自由に制作することができた。

 「基本的に彼らは監督を信用してくれて、内容について細かく言われることはなかったですね。米国との仕事はいろいろ口出しされる場合が多いけど、今回は割と自由に作ることができた」

 舞台となるのは、西暦2052年で、世界はかつてない平和な時代を迎え、脳神経学博士スキナーの開発した鎮痛剤・ハプナが、副作用のない“奇跡の薬”として世界中に広まり、人類を苦痛から解放していた開発者であるスキナーが突如姿を消し、その行方は誰も知らなかった。ハプナは服用から3年後に死に至らしめる薬で、仕掛けられた罠だったことが明らかになる。スキナーは「あと30日。それまでに私の居場所を見つけだせば、人類は生き延びられる」という言葉を残す。たった一つのワクチンを使用するしか助かる道はなく、世界中から集められた5人のエージェントチーム「ラザロ」がスキナーを追うことになる。

 「日本ではあまりなじみがないでしょうけど、米国とか海外ではオピオイド危機というものが大きな問題としてクローズアップされていて、そこにインスパイアされています。それは医者から処方された正式な鎮痛剤なのに、多くの人がそれが原因で死んでいる。例えばマイケル・ジャクソンの死もオピオイドが原因と言われているし、ほかにも多くのミュージシャンたちの命を奪ってしまった。音楽好きの自分にとっても大問題なんです。違法な薬物でもないのに、おかしいんじゃないか。なぜこの薬が認可されたのか? あるいはそういう薬を、故意に作ってばらまけば多くの人を殺せるんじゃないか?というインスピレーションから始まりました」

 “奇跡の薬”の真実が明らかになることで、社会の闇があぶり出されることになる。現実にも起こりそうでもある。近年、似たようなこともあったではないか……と考えさせられる。

 「いや、このストーリー自体はパンデミックの前に作られたものです。そういう、考えてたアイデアに似たことが現実に起きるってことがアニメには時々あるんですけど、今回は作る前に現実に追いつかれてしまった」

 ◇リアリティー、スクリーン栄えするアクション

 アクション監修として映画「ジョン・ウィック」シリーズの監督であり、スタントマンとしても知られるチャド・スタエルスキさんが参加している。第1話ではアクロバティックな派手なアクションも話題になっているが……。

 「アクションものを久しぶにやるのなら、アップデートされた新しいものにしたかったんです。でも実は、チャドさんたちが参加しているのは第2話からなんです。第1話は彼らの参加が決まる前から動き始めていたので、第1話のアクションは実力派アニメーターの関弘光さん、小田剛生さんの力です。アニメーターの中には、彼らのようにすごくアクションにこだわりのある人がいて、彼らが実写でいうアクション監督とかアクション・コーディネーターみたいな感じで担当してくれてます。チャドさんたちの構築したシーンに一歩もひけを取らない、素晴らしいシーンにしてくれたと思ってます。

 第2話以降、チャドさんが本格参加した。具体的に何を監修したのだろうか?

 「彼らが実写のアクションを作るのと同じように、スタントマンを使って実際にアクションを撮影・編集してムービーを作ってくれてます。実写の場合はそこから、本物の俳優を使って本番テイクを撮影するわけだけど、我々の場合はそのムービーを参考に、アニメーターが手描きで作画しているんです。だから、実際は監修というレベルじゃないですね。彼らも忙しい合間を縫ってできる限りの話数に参加してくれてますけど、全話数をやってもらっているわけではないので監修扱いになってるだけです。あとは、最初にチャドさんが自分たちアニメチームの前で、アクションに対する考え方みたいなものを、じっくり話してくれたんですね。アクションの師匠が、弟子たちに教えるような感じで。だから、チャドさんたちが参加してない話数にも、チャド師匠のスピリットが入ってるんじゃないかな」

 “新しいアクション”を実現するためには、チャドさんの参加は不可欠だった。

 「彼らは何十年もアクション一筋でやってきたわけですから、すごくアイデアが豊富なんです。例えば机で向き合って座っている人がいるとする。机の上に鉛筆が一本あったとして、それを使って相手を殺す方法を『20通りくらいすぐに提示できる』って言ってました。それくらいアクションにこだわってるチームなんですね。彼らの作るアクションはちゃんと理屈があって、確実に敵を倒したい場合は頭を狙うはずだ、みたいなリアリティーがあるんですね。でもリアル一辺倒で地味なアクションになってしまわないように、ちゃんとスクリーン栄えするように時には大げさに見せるってこともできる、素晴らしいチームだと思います」

 インタビュー(2)では“アニメと音楽の関係”について聞く。

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