黒執事:小野大輔×岡田堅二朗監督×伊藤泰斗プロデューサーインタビュー(2) 「緑の魔女編」の新たなアプローチ

「黒執事 -緑の魔女編-」の一場面(C)Yana Toboso/SQUARE ENIX,Project Black Butler
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「黒執事 -緑の魔女編-」の一場面(C)Yana Toboso/SQUARE ENIX,Project Black Butler

 インタビュー(1)の続き。枢やなさんのマンガが原作のアニメ「黒執事」シリーズの「黒執事 -緑の魔女編-」が4月5日から放送される。「黒執事」は2006年9月から月刊「Gファンタジー」(スクウェア・エニックス)で連載中のマンガ。英国の名門貴族ファントムハイヴ家主人のシエル・ファントムハイヴに仕える完全無欠の執事セバスチャン・ミカエリスの活躍を描いている。2024年4~6月に放送された「寄宿学校編」は、2014年放送の「黒執事 Book of Circus」以来、約10年ぶりのテレビアニメの新シリーズとなったことも話題になった。「寄宿学校編」はこれまでとはまた違うアプローチで制作されたという。セバスチャン・ミカエリス役の声優の小野大輔さん、「寄宿学校編」「緑の魔女編」を手掛ける岡田堅二朗監督、アニメを制作するCloverWorksの伊藤泰斗プロデューサーに、制作の裏側を聞いた。

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 ◇絶対に間違いない!と小野大輔がシビれた

 ーー「緑の魔女編」の収録は?

 伊藤さん 監督はドイツ語にこだわっていましたよね。

 小野さん キャストサイドも全部やるの?となって(笑)。

 岡田監督 シエルが何をしゃべっているか分からない人に囲まれる状況を、聴覚的にも分かるようにしたかったんです。ドイツ語ができる駒田航さんに参加していただき、駒田さんにドイツ語を監修していただいています。

 小野さん 駒田君のこだわりもすごいんです。感情表現をちゃんと入れた形で教えてくれるんです。「ここは息が荒くなります。」「ここはニュアンスをつけるなら、もうちょっと語尾を上げてみてください」と、感情を入れたドイツ語を教えてくれたんです。なので時間をかけて収録しました。原作の再現を追求すると避けられないことですし、僕らもやりがいがあります。これまでもセバスチャンとしてフランス語、ラテン語があって、よどみなく表現しないといけませんでしたが、それは「黒執事」の肝でもあります。だから、そこをしっかりやりたいと監督が言ってくださることは、すごく意味があります。

 岡田監督 「緑の魔女編」はセバスチャンとシエルのドラマが大きく動くエピソードもありますし、坂本さん(シエル役の坂本真綾さん)と小野さんに、熱の入ったお芝居をしていただいてすごくうれしかったです。

 小野さん 「緑の魔女編」は、シエルが過去を乗り越えるシリーズでもあります。これまでにない熱量があって、セバスチャンも初めて露にする感情があります。逆に言うと、シエルに対する信頼があるから、そういう感情になるんです。収録でも「やっていいよ」と背中を押してくださり、これまでにない熱い感情を引き出していただきました。このスタッフでこだわりを持って積み重ねてきてよかったと感じました。

 岡田監督 あくまで執事という引いたポジションだったところから、一歩踏み込んできますから。

 小野さん ずっと演じたかったシーンでもありました。早く見たいです。絶対に間違いない! 収録の時点でシビれていました。

 伊藤さん 映像についても、作画など現場のスタッフから「本当にこの表現で進めていいんですか?」といった質問をよく受けました。これは「緑の魔女編」で行っているアプローチが、通常の映像作りだと避ける表現が多いためです。

 岡田監督 作品によってアプローチは変えますが、「黒執事」は原作に込められている熱量のすごさを感じていたので、アニメにする時に落としたくなかった。 カットの見せ方に関してアングル、ポージング、表情など拾えるところはなるべくこぼさないというスタンスでやっていますね。

 小野さん 原作を忠実に再現するだけでなく、要所要所でより研ぎ澄ませたり、膨らませたりしているところもありますよね。

 岡田監督 クオリティーを落とさないことが大前提としてあった上で、プラスアルファでアニメとしての何かできないかと考えています。

 小野さん 本当に大変だと思います。そぎ落とすことも大変ですが、そのままやった上で、さらに膨らませるわけですから。それをずっとやっている。何なんだ!このスタッフさんたちは!(笑)

 岡田監督 毎回せめぎ合いはあります。

 小野さん バランスが絶妙です。セバスチャンを演じている時、ずっと引き算で作っていました。ただ、周りは足し算をしてきます。「寄宿学校編」では、諏訪部順一さんが演じる葬儀屋(アンダーテイカー)の個性が強く、お芝居も強いんです。そこに立ち向かっていく際、セバスチャンは引き算の美学でバランスを取っていきます。それが自分の役目だと思ってやってきました。映像を見ると、音の付け方で足すところは足す、引くところは引くことで、結果的に原作そのままの世界観になっています。そのバランスがあるから、「黒執事」らしくなっている。スタッフ陣の異常なほどこだわりがあるからこそだと思っています。

 ◇釘宮理恵、小林親弘のすごさ

 ーー岡田監督は小野さんと作品について話をしてきた?

 岡田監督 昨年、Anime Expoでロスに行った時も映像作りに関して何かいろいろな話をしましたよね。

 小野さん 「黒執事」の世界に出てきそうなホテルのカフェでお茶しながら、監督、伊藤さんとずっと話をしていました。例えば「緑の魔女編」の原作コミックの扉絵を見ると、モノクロの中に1点だけ緑が入っていたりします。その扉絵が好きで、色彩の話もしましたよね。

 岡田監督 引き算の美学という話に通ずるところもあると思いますが、アニメーションは全体的にカラフルになりがちなことも多いですが、「黒執事」の原作は、彩度を少し抑え、重要な色だけ立てていると感じることがあります。僕もそういう色使いや画面作りが好きで、本編でもそこは意識しています。例えばシエルの髪色は、これまでのアニメシリーズよりも青みを抑えています。黒髪に近く、意図的にやっていることですが、彩度を絞り、立てたい色だけ立てようとしています。画面全体が引き締まり19世紀感が出て、シックな画面になります。

 小野さん そんな話を小一時間くらいしていたんです。うれしくて!

 岡田監督 「緑の魔女編」は、よりゴシックホラーの世界になってくるので、少し暗くして、落ち着いた雰囲気にしています。ミステリーな要素があったり、ドラマ的にもシリアスになってくるので、意識的によりマンガ風な表現を抑えた映像にしています。アクションシーンがあったり、「寄宿学校編」とは印象が異なりますし、ほとんど別の作品と言ってもいいくらいです。女性も出てきますからね。

 小野さん シリーズ中一番女性が出てくるかもしれません。

 岡田監督 ジークリンデ・サリヴァン役として釘宮理恵さんも出演します。

 小野さん 昔から一緒にお仕事をさせてもらっていて、彼女だったら、サリヴァンを完璧に演じてくれるだろうという期待がありました。彼女だったらいいなという一ファンとしての思いもあって、キャスティングを聞いた時は「ありがとう!」という気持ちでした。サリヴァンはただあのままの可愛い声を作るということではない気がします。それだとやっぱり嘘になってしまう。くぎみー(釘宮さん)のお芝居は、熱量も感じ、聞いていてやっぱり心を掴まれる。あの年齢感を作り込んだり、ことさら可愛くしよう、表現を大きくしようとしているわけではない。そこに寄り添うヴォルフラムは、サリヴァンと同じかそれ以上に純粋です。小林君(ヴォルフラム役の小林親弘さん)はその性質を持っているんですよね。小林君は、そのまんまです。どこかまだ完成されていない若さ、青さがある。これ以上ないですよ! 「緑の魔女編」はそのままの2人が現場の空気感を作ってくれています。すごく優しくて、温かい現場ですね。

 岡田監督 「緑の魔女編」では、サリヴァンとヴォルフラムは、もう一組の主人公です。2人の関係、変化、成長、抱える苦悩を重点的に描きます。なのでサリヴァンとヴォルフラムの物語は大きく動きますし、一方でセバスチャンとシエルの物語も大きく動きます。

 ◇細部へのこだわりも

 ーー作品を通してと、『緑の魔女編』の見どころは?

 岡田監督 キャラクターの表情ですかね。眉毛の角度など原作の表情にはなかなか到達しづらいところもあって難しくはありますが。また、「寄宿学校編」は19世紀の英国をイメージしていましたが、「緑の魔女編」は舞台の特異性もあり、そのオリジナルの世界観をいかにアニメーションとして表現するのかを考えています。

 伊藤さん 今までの技術をベースに置きつつ、「緑の魔女編」では新しいこともやっています。どうしたら監督がやりたいことを実現できるのかを常に考えていますね。これは「寄宿学校編」からですが、どういうやり方がいいのか考えた末、実写の映像制作をしている人からアイディアをもらったり、山縣瑠衣さんという現代美術のアーティストに協力を仰いで、1カットの想像力と説得力を作りにいったりしました。あとで聞いたのですが、学生時代から「黒執事」が好きで参加できてうれしかったと。

 岡田監督 「緑の魔女編」でもまた新しく描いていただいていますね。

 伊藤さん 映像の幅を広げてくださっています。ほかにも関わっていただいているスタッフの方それぞれが、シリーズごとに作品に向き合って臨んでいます。今回「寄宿学校」とは違う「緑の魔女編」特有の禍々しさを感じられると思いますので、楽しんでほしいと思います。

 岡田監督 「緑の魔女編」でも新しい映像表現に挑んでいるので、ぜひいろいろな人に見てほしいです。

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