解説:「御上先生」異色の学園ドラマとして成功した三つの理由

「御上先生」最終話の一場面(C)TBS
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「御上先生」最終話の一場面(C)TBS

 松坂桃李さん主演のTBS系日曜劇場「御上先生」(日曜午後9時)の最終話が3月23日に放送され、ドラマは大団円を迎えた。文科省官僚から私立隣徳学院の教壇に立つことになった御上(松坂さん)、国家公務員採用総合職試験の会場で殺人事件を起こした弓弦(堀田真由さん)、文科省で塚田(及川光博さん)の下で働く槙野(岡田将生さん)の三つの軸が一つに交わり、希望を見いだせるラストになった。“異色の学園ドラマ”と話題になった「御上先生」が成功した理由を、これまでの関係者のコメントから探った。

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 ◇教育学部出身の飯田Pの学園ドラマへの強い思い

 ドラマは、日本の教育を変えようという思いを持つ文科省官僚の御上孝(松坂さん)が、自ら私立高校の教壇に立ち、令和の時代を生きる18歳の高校生を導きながら、権力に立ち向かっていく、オリジナルの“大逆転教育再生ストーリー”。松坂さんの主演映画「新聞記者」(2019年)以来のタッグとなる詩森ろばさんが脚本を担当。「アンチヒーロー」(2024年)、「VIVANT」(2023年)など話題になった日曜劇場を担当してきた飯田和孝さんがプロデューサーを務めた。

 成功した一つ目の理由は、プロデューサーの飯田さんの学園ドラマに対する思いの強さがある。

 「学園ものにするのは大学の教育学部出身で教員資格も持っている飯田プロデューサーの発案だった」と脚本を担当した詩森さんは明かした。

 飯田さんには「金八先生の第5シリーズで風間俊介さんが演じる兼末健次郎の回を見て学校の先生になりたいと……」という思いがあり、いつか学園ドラマをやりたいと考えていたところ、今回の主題歌を手掛けた「ONE OK ROCK」の「18祭」(2016年)の映像と出合った。コロナ禍で見たその映像の「1000人もの若者たちが涙を流し、全力で叫ぶ姿に心を揺さぶられ」て、今回のドラマの企画を立案したという。

 飯田さんは「“金八”への憧れがどうしてもあり」、扱う内容を今の時代にする学園ドラマだと、「“憧れ”を超えられないなと思った」という。そこで「新たな切り口を詩森さんと考え、“官僚”の教師にしたんです」と明かした。

 こんな経緯で、これまでの学園ドラマの「先生VS生徒」の枠組みから離れて、先生と生徒が一体となって巨悪や社会問題に立ち向かう展開で“学園もの”の新境地を開いた。

 ◇昨年中に書き上げられていた脚本 逆算して役を演じることができた

 もう一つの理由は、脚本が最終話まで昨年中に書き上げられており、キャストがラストから“逆算”して芝居することができたことだ。これによって、それぞれのキャラクターに深みが生まれた。

 生徒役29人を全員オーディションで選んだことも功を奏した。オーディション台本は、「御上(松坂さん)と神崎(奥平大兼さん)のシーン、神崎と次元(窪塚愛流さん)のシーン。女性キャストは富永(蒔田彩珠さん)と東雲(上坂樹里さん)のシーン。あと、神崎、富永、次元のシーンなど4パターンぐらいをみんなに演じていただいた」(飯田さん)といい、選んだ後、「選ばれた人の特性などをキャラクターに肉付けしていった」という。

 18歳の高校生役だが、年齢にそこまでこだわらず、演じられる力とキャラクターに合った個性を選んだ結果の29人。これも脚本が先にできていたからこそなせる技だっただろう。

 ◇一貫したテーマを「考えて」と導く御上先生

 もう一つの理由はテーマが明確だったことだろう。詩森さんが「私にとっては割とデイリーな言葉」という「The personal is political(個人的なことは政治的なこと)」が一環として描かれてきた。

 登場人物には、教科書検定、生理の貧困、ヤングケアラー、DV、性被害などオンタイムな社会問題が次々に降りかかった。それらに対して御上先生は、解決策を与えるのではなく、「考えて」と自分たちで悩んでつかみとる力を導いていた。

 隣徳学院が県内随一の進学校という設定も、生徒の自主自律を重んじる校風、「考えて」自分から動く力を持っている生徒たちをリアリティーをもって描くのに役立ったに違いない。

 「御上先生」は最終回を迎えたが、御上先生から3年2組の生徒が最後に受け取った言葉「答えの出ない質問」を、視聴者の私たちも“考え”続けなければいけないのかもしれない。そんな人生の重要なメッセージを受け取れた秀逸なドラマだった。

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