魚豊:「チ。」アニメ化は「不思議な感覚」 牛尾憲輔の音楽は「冥土の土産に」 最終章は?

「チ。 ―地球の運動について―」の一場面(C)魚豊/小学館/チ。-地球の運動について-製作委員会
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「チ。 ―地球の運動について―」の一場面(C)魚豊/小学館/チ。-地球の運動について-製作委員会

 「第26回手塚治虫文化賞」のマンガ大賞に選ばれたことも話題の魚豊さんのマンガが原作のテレビアニメ「チ。 ―地球の運動について―」。原作は、「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で2020~22年に連載され、15世紀のヨーロッパを舞台に地動説を命懸けで研究する人々を描いた。テレビアニメは2024年10月にNHK総合で放送をスタートし、地動説を巡る人々の生き様、死が多くの視聴者に衝撃を与えている。クライマックスに向けて、作者の魚豊さんにアニメ化が自身に与えた影響について聞いた。

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 ◇“音”がついた「チ。」 “中世の中”で考えられた音楽

 テレビアニメ放送前に魚豊さんに取材した際は、自身の作品がアニメ化されることが夢だったといい、「プロの方にプロの仕事をしていただいているので、僕の中で期待は既に達成されている感じです」と語っていた。実際、アニメを見て、どう感じているのだろう。

 「ありがたいですね。キャラクターがしゃべっているだけでうれしいというか。あと、アクションシーンがマンガ以上に凝っているので、すごくいいなと思います」

 中でも印象に残っているのは、「完璧な天動説の証明」に生涯をかけたピャスト伯、ヨレンタの先輩のコルベのシーンだという。

 「回想シーンでは、浪川(大輔)さんがピャスト伯を演じてくれたんですけど、すごくよかったです。好きな声優さんでしたし、自分が思っている以上にキャラクターが立体的になったと感じてうれしかったです。また、コルベは、マンガを描いている時から好きなキャラクターだったのですが、島崎(信長)さんがすごくいい演技をしてくださって、より善人というか、よりリアルに感じられました」

 声優陣の演技はもちろん、アニメ化により“音”が付いたことに大いに感銘を受けたという魚豊さん。牛尾憲輔さんが手掛けた劇伴については「本当に冥土の土産というか、これができただけでもこの作品をやった価値がある」と感じているという。魚豊さんは元々、牛尾さんの音楽のファンで、アニメ化に際して唯一要望を伝えたのが、牛尾さんに音楽を担当してもらうことだった。

 「牛尾さんに最高の仕事をいつも通りしていただきました。『チ。』の音楽について、何回かやり取りをさせてもらったのですが、超面白いコンセプトのお話をしてくださったんです。牛尾さんがそういうことを考えてくださるきっかけの一つに『チ。』がなったのなら、すごくうれしいなと思います」

 牛尾さんは「チ。」の音楽を制作する上で、舞台となっている中世の音楽を独自に研究したのだという。

 「当時の楽譜の読み方は完全に分かりきっていないですし、教会の中で作ることが前提だったので、現代の音響空間の中で当時の楽譜を奏でても再現できないという問題があったのですが、牛尾さんはそこを独自に研究されていました。それは、僕が目指していたけどやれなかった、すごく素晴らしい考え方の一つでした。ウンベルト・エーコという中世を舞台にした小説を書いた人がいるのですが、彼が自分の小説に対して言っていたのが、『中世を書いたのではなくて、中世の中で書いた』ということ。牛尾さんはまさにそれをやっていて、『中世の中で考えたんだな』と思ったんです。本当に半端ない制作をしていただきました」

 ◇自身と作品が切り離される面白さ 最終章は「これしかない」

 魚豊さんは、手掛けた作品と自身を「分けて考えている」といい、「チ。」のアニメ化により「そうした自分の心性が強化された」と語る。

 「昔より『僕の作品』という印象はなくなりました。それはすごく不思議な感覚ですね。マンガに関しては、自分でコントロールしたいタイプでしたし、自分の意見を100%反映させて作ったのですが、アニメでは、自分以外の人たちが、自分のコントロール下にあるものを再現している。他人事になっていく感じは面白いです。他人事になっていくんだけど、マンガの『チ。』自体がアニメと混ざっているわけではないので、そういうところも含めて『原作者って、こういう気持ちになれるんだ』と、すごく勉強になりました。ありがたい経験だなと思います」

 作品が自身と切り離された感覚が強まっていることを「楽しい」とも感じるという。

 「マンガに対しても、アニメに対しても『自分ごと』という感覚がマジでないんです。アニメの現場に行かせてもらったことがあるのですが、僕はここで何と言えばいいんだろう?と。アニメは監督の作品なので、僕が『ありがとうございます』と言って領土を主張するのもおかしいと思うので、結果『楽しみです』というのが一番自分の気持ちに適切な言葉だなと。『楽しみ』って、すごく他人事なので。それが強化されていっているのは面白いです」

 魚豊さんがそう感じられるのも、アニメが原作を「完璧に再現してくれたから」だという。

 「もし全然違うものにされたら『これどういうこと?』と思っているだろうし。すごく作品をリスペクトしてくださったから、自分はこういう立場でいられるのだろうなと思います。何の不満もないですし、ただただマンガを超えてくださっている。ありがたいです」

 アニメ「チ。」は、いよいよクライマックスを迎えようとしている。これまでの第1~3章では、舞台設定は「15世紀(前期) P王国」とされていたが、最終章では「1468年 ポーランド王国都市部」と具体的な年号、国となる。

 「最終章の展開に関しては、『これしかないだろう』と思って描きました。ただ、そこにどういう意味があるかは、見て、感じていただければいいかなと思います」

 ことあるごとに見る者に衝撃を与えてきた「チ。」。物語がどのような終着を迎えるのか、注目したい。

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