劇場版プロジェクトセカイ:畑博之監督、脚本・米内山陽子インタビュー アニメだから表現できたこと 制作の裏側

「劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク」の一場面(c)「劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク」製作委員会
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「劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク」の一場面(c)「劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク」製作委員会

 人気スマートフォン向けゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク(プロセカ)」の初の劇場版アニメ「劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク」。劇場版は、完全オリジナルストーリーで、ゲームでは描かれていない“新しい初音ミク”が「プロセカ」のキャラクターたちと出会い、成長していく姿が描かれている。監督を務める畑博之さん、脚本を担当する米内山陽子さんに、制作の裏側を聞いた。

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 ◇一人一人のキャラクターを大事にする

 ーー「プロセカ」や初音ミクへの想いを教えてください。

 畑監督 「プロセカ」はキャラクターが多い中で、それぞれのユニットで共通認識を持っていない点が魅力だと感じています。それぞれのユニットは、それぞれのセカイがあることを知らない状態なので、ユニット間の独特の絡みが生まれるところも面白いと思います。ミクさんは、自分にはとって癒やしで、話すと止まらないので……。

 米内山さん 止まらない語りをしてもいいと思いますが(笑)。

 畑監督 初期からほぼ毎日聴いていますし、ライブやボーマスなどのイベントにもいろいろ参加したりしています。つらい時、しんどい時とかは、いつも曲を聴いて元気をもらっています。

 米内山さん 息子が「プロセカ」をプレーしていて、車の中でかけている曲が「プロセカ」の曲だったんだ……とお引き受けするタイミングで知りました。私は畑監督と同い年なんですけど、初音ミクさんの存在は知りつつ、1、2曲は知っているという距離感でした。シナリオ作業中は、畑監督の情熱や知識に助けられました。好きになって、熱がないと書けないので、ゲームをプレーして、ミクさんの曲も聴いて、好きになった状態で始めました。

 ーー劇場版アニメには“閉ざされた窓のセカイの初音ミク”が登場します。

 米内山さん 閉ざされた窓のセカイのミクさんのアイデアは企画の立ち上げの段階からあったので、私がジョインした時は、そこからお話を広げていきました。5つのユニットが登場し、お互いのセカイがあることを認識していない状態で、ミクさんとどう関わっていくのか? ただ、ユニット同士の関わりがないわけでもなく、さじ加減が難しく、繊細に作っていきました。キャラクターが多い作品は、経験がないわけではなかったですし、キャラクターが多い作品で何を大事にするかというと、やっぱりキャラクターなんですね。一人一人のことをどれだけ大事にできるかというのが、映画化するにあたり、すごく大事なところだろうなと思っていました。

 畑監督 閉ざされた窓のセカイのミクさんをどういうキャラクターにするのかを決めていきましたよね。

 米内山さん ストーリーの根幹に関わってくるキャラクターですし、このキャラクターが変わると、お話自体が変わっていきます。キャラクターとストーリーを並行して作っていきました。ミクさんありきで、各ユニットの反応によって、それぞれのユニットらしさを出していけたらいいなと考えていました。そのキャラクターがやらなさそうなことは、やらないようにもしています。そこは原作のColorful Paletteさんに監修していただきつつ、キャラクターがブレないようにしました。

 ーーキャラクター数が多い作品でもあります。

 米内山さん 誰がしゃべっていて、誰がしゃべっていないのかと混乱することもあって、助けていただきながら書いていました。それぞれが同じくらい大事なセリフを言っているようにもしようとしました。

 ◇意味のある掛け合いを

 ーーアニメを作る中で難しさもあった?

 畑監督 バーチャル・シンガーたちはセリフがボーカロイドの音声なので、長いセリフを避けるようにしました。

 米内山さん ありましたね。そこが念頭にあって、聞いて分かるようなセリフにしようとしました。ミクさんに限らずバーチャル・シンガーのみんなに気を付けていたところです。

 畑監督 感情の起伏が激しいセリフは難しいと思っていたので、ちょっとおとなしめにしたところもあります。

 米内山さん ゲームの中には、いろいろなセカイのミクさんがいて、人によっていろいろなミクさん像があるので、あまりキャラクターを固めすぎないようにすることが大事だと思っていました。劇場版のミクは、動機に従って動くことを大事にして書いていました。

 畑監督 ミクさんを好きな方は、いろいろなミクさんがいることを分かっているはずですしね。

 ーーアニメだから表現できたことは?

 畑監督 キャラが動くこと、表情ですね。全身で表現できますので、見せ幅が広がるのが大きいところです。音の演出も含めて空気感も出せます。

 米内山さん 掛け合いによってキャラクター性、関係性が出てきます。たくさんキャラクターがいて、それぞれが学校の同級生だったり、バイトが一緒だったり、それぞれの距離感があって、日々を生きているので、その距離感を整理しつつ、ほっこりしたり、スパイスが効いていたりするような、意味のあるやり取りを書こうと頑張りました。

 畑監督 掛け合いはムードメーカーのキャラが大事になってきますよね。

 米内山さん 天然でボケてくれるキャラクターがいれば、突っ走ってくれるキャラクター、ツッコミの立場のキャラクターもいて、ユニット内でのポジションを大事にして書いたつもりです。

 畑監督 基本的に演出は多種多様なので、間違いと言えることはあっても、正解は一つじゃないんですよね。劇場作品だとシリーズとは違う起伏の付け方を意識しました。個人的な好みではもっと引きカメラを増やしたいところですけれど、プロセカという作品を考えて寄りカットも多めに入れたりもしつつ。

 ーーライブシーンも見どころです。

 畑監督 最後はメドレーと決まっていたので、そこに向けて構築していこうとしました。ユニットそれぞれの違いも見どころです。それぞれの特性を出したので、楽しく見ていただけるとうれしいです。

 米内山さん 出来上がったものに感動しています。期待してください!と声を大にして言いたいです。

 ◇初音ミクは新しい世界の扉を開く鍵

 ーー2人のお話を聞いていると、コンビネーションの良さも感じます。

 米内山さん うれしいです。毎晩話していましたよね。

 畑監督 25時ディスコードで、のチャンネルで夜な夜な……。やらなきゃいけないことがすごく多い作品でしたが、うまくまとめていただいて感謝しています。

 米内山さん 畑監督は、シナリオの段階からフルコミットで、話したいことがあれば、夜中でもお付き合いしていただき、すごく助かりました。畑監督はすごく穏やかな方で、こだわりもあって、さまざまなアイデアをいただきました。安心していました。すごく大変ではあったのですが、プロデューサーの山本さんを含めて作戦会議をしたり、一緒にできたことがありがたく、頑張れた要因の大きな一つです。一緒にできて本当に良かったなと思っています。

 畑監督 これだけのものをまとめるに辺り、米内山さんは本当に大変そうで……。

 米内山さん 畑監督の方が大変だったと思いますよ。キャラクターがしっかりある作品ですし、私たちの共通見解がしっかりしていないと難しいんです。本当に助けられました。本当に素晴らしいフィルムになっていたので、畑監督はすごい!と感じていました。

 畑監督 制作陣をはじめ、最後までスタッフの皆さんが粘って頑張ってくれたおかげです。自分は一人の時だと「ツライ、しんどい、もぉムリ……」って独り言をブツブツと(笑)。

 米内山さん 私が言うのも変ですが、全員野球だったんじゃないかなと思いますよ。

 ーー作品と向き合うことで、ご自身の中の初音ミクという存在は変化した?

 畑監督 新しいミクさんが一人増えた、というところではいつも通りではあるのですが、がっつり関わって作り上げたせいか、今回のミクさんは大切で、特別に感じます。

 米内山さん 私はもっと近くなったような感覚があります。存在するのは、ずっと知っていたのですが、こんなにも世の中にあふれていて、関わる人もたくさんいるんだなって。私にとっては新しい世界の扉を開く鍵のような存在です。


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