かつて魔法少女と悪は敵対していた。:藤原ここあさんの未完の名作 アニメ化の挑戦 “胸がギュッとなる瞬間”を映像に

「かつて魔法少女と悪は敵対していた。」の一場面(C)藤原ここあ/SQUARE ENIX・まほあく製作委員会
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「かつて魔法少女と悪は敵対していた。」の一場面(C)藤原ここあ/SQUARE ENIX・まほあく製作委員会

 テレビアニメ化された「妖狐×僕SS(いぬぼくシークレットサービス)」で知られる故・藤原ここあさんのラブコメディーマンガが原作のテレビアニメ「かつて魔法少女と悪は敵対していた。(まほあく)」が、9月24日にTOKYO MXほかで放送される第12回で最終回を迎える。藤原さんの繊細で美麗な絵を再現した映像と、原作愛を感じさせるストーリー構成は、多くのファンを魅了している。藤原さんが2015年に急逝したため絶筆となった“未完の名作”をアニメ化する上で、制作陣の中には「ファンを喜ばせたい」「物語が途中で終わる寂しさを感じてほしくない」という思いがあった。アニメを手掛けた大橋明代監督に制作の裏側を聞いた。

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 ◇ファンに喜んでもらえるアニメに

 「まほあく」は、「ガンガンコミックス JOKER」(スクウェア・エニックス)で2013~15年に連載されたラブコメディーマンガ。世界を滅ぼそうとする悪の参謀・ミラが、世界を守るために戦う魔法少女・深森白夜に一目ボレしてしまう……という展開。敵対するはずの二人の“殺し愛(あ)わない”日々がコミカルに描かれた。コミックスが第3巻まで発売されている。

 大橋監督が原作から感じたのは、作品に流れる「楽しさ」と「切なさ」だった。

 「キャラクターがすごく可愛いのですが、ただ可愛いだけじゃなくて、みんなちょっと変で、そうしたキャラクターがわちゃわちゃと交わっていく様子がすごく面白いのですが、その中に、思わずギュッと胸が苦しくなるようなシーンがちりばめられていて、それが作品の根底にあるような感じがしました。また、『もう続きが読めない』というファンの方の寂しさも感じて、それが物語のちょっと切ない部分と大きい意味でリンクしているように思えて、『何か切ない、でも楽しい』という印象を受けました」

 原作は、基本は4コマでコミカルにストーリーが進んでいくが、随所に4コマではない通常のコマ割で白夜とミラの胸がキュンとするようなシーンが描かれている。

 「ここあ先生の『ここがキュンだよ』『ここを見て』というのがすごく分かりやすい。4コマも細切れではなく、全てが地続きになるように描かれているので、テレビアニメで描く際も、ぶつ切りにはしないで、没入感を持って話を追ってもらえるようにしたい、地続きの話として見せたいと思っていました」

 大橋監督ら制作陣が、「まほあく」をアニメ化する上で最も大切にしたのは「ファンの方に喜んでもらえるものを作りたい」ということだった。テレビアニメは各話15分となっているが、そのフォーマットを採用したのも「余計なものを足さない」という方針からだった。ミラ役の小野友樹さん、白夜役の中原麻衣さんら声優陣も、2015年に発売されたドラマCDからの続投となった。

 「ドラマCDもここあ先生が全て監修されていて、シナリオもここあ先生が書いてらっしゃって、アフレコにも立ち会われたということでした。ここあ先生とお仕事をしたことがある声優さんが入ってくださるということは、とても心強いので、ぜひそのままでやっていただきたかったですし、ファンの方もきっとそれを望んでらっしゃるだろうなと」

 ◇思わず胸がギュッとなる特別なシーン 恥ずかしい二人をそばで目撃するような

 アニメは、白夜とミラの胸キュンシーンなど特別なシーンが美しく表現されている。大橋監督は、原作の「思わずギュッと胸が苦しくなるようなシーン」をアニメでも際立たせたいと考えた。

 「原作の4コマ部分に当たるわちゃわちゃと楽しいところは、漫符(まんぷ)もあるし、イメージBG(背景)も入れるし、チビキャラにもなるというように、原作の雰囲気はそのまま残しつつ、ここあ先生が4コマではない普通のコマ割で描いてらっしゃるところは、先生自身も読者にグッと入ってもらいたいと思って描いてらっしゃるように感じたので、それをうまく両立させられないかなと思って。マンガっぽいところも残しつつ、光の表現をきちんと入れつつ、ちょっと雰囲気が変わったような感じで、皆さんが息を止めてじっと見るようなカットを入れたいと思っていました」

 そうした特別なシーンでは、光の表現、線、色にもこだわった。

 「現場では、『特殊実線』と呼んでいたんですけど、特別なシーンでは、他のカットと実線を変えるという取り組みをしていました。やはり、そのカットは線の数も増えるし、色も多くなるので、手間はすごくかかったと思います。ギャグシーンとの対比もあって、皆さんの印象に残るシーンにできたのかなと思っています」

 さらに、特別なシーンでは、あえて劇伴を抑え、「白夜とミラの恥ずかしいやり取りをそばで目撃しているような感覚」を味わってほしいと考えた。

 「第9回の白夜とミラがクリスマスの夜を一緒に過ごすエピソードで、二人が『ミラさん』『白夜さん』と呼び合うシーンがあったのですが、そこも劇伴を入れないことで、見ている人が否応なしにその場にいるような感覚になって、あの二人の恥ずかしいやり取りをそばで目撃して、『いたたまれない、いつ終わるのこれ?』みたいな感じになってほしいと思いました。あのエピソードは、打ち合わせの時も、カッティングの時も、いい大人が集まって『恥ずかしい……!』『よそでやれよ』と言いながらやっていたんです(笑)。恥ずかしいものを恥ずかしいまま見てもらえるように、劇伴を削ってもらいました」

 ◇変身シーンのこだわり 最終回は?

 原作へのリスペクトを持って制作されたアニメ「まほあく」で、アニメならではのシーンとして描かれているのが、魔法少女の白夜と篝火花の変身シーンだ。原作では、変身シーンが描かれたイラストが少なく、わずかなヒントから、変身シーンを形作っていったという。

 「ここあ先生が変身シーンをお描きになっている絵が1枚くらいしかなくて、そこから想像するしかなかったのですが、当時の先生の担当編集の方から、先生が変身シーンについて、『キューティーハニーのようなセクシーな感じよりは、セーラームーンのような可愛い系だよね』と語っていたというアドバイスをいただいたんです。私やほかのスタッフもセーラームーン世代で、あの変身シーンをすり込まれているところもあるので、セーラームーン先輩から血肉を分けてもらって、作っていきました」

 子供たちが見てもワクワクするような演出にもこだわった。

 「変身シーンは、変身バンクがあって、イメージBGに変わっていく流れが多いと思うのですが、『まほあく』では、現実に白夜ちゃんがいて、そこから地続きで変身していくような感じにしたいと思いました。まず、現実世界に光の階段が現れて、それを昇って、星の海にドボンと入ると、変身空間になる。現実から地続きに描くことで、小さい子供が見てもワクワクするといいなと思いました」

 藤原ここあさんが遺した未完の原作の魅力を最大限に盛り込んだアニメ「まほあく」。最後に最終回の見どころを聞いた。

 「アニメの制作当初から、最終回でアニメは終わってしまうけど、“物語は続いていく”という終わり方にできないだろうかと考えていました。ファンの方は、アニメが始まってきっと喜んでくださると思っていましたが、終わるとまた寂しくなってしまうというか。ファンの方に、原作が途中で終わってしまったあの時の思いをまたアニメでさせてしまうのは、すごく心苦しいと思っていて。最終回は、白夜ちゃんとミラの二人らしいラストになっていると思いますし、第1回から成長した白夜ちゃんがラストにどんな表情を見せるのか、見届けていただけたらうれしいなと思います」

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