機動戦士ガンダムSEED FREEDOM:MSの“SEEDらしさ”とは? CGで表現したこと 重田智インタビュー

「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」の一場面(c)創通・サンライズ
1 / 22
「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」の一場面(c)創通・サンライズ

 人気アニメ「機動戦士ガンダムSEED」シリーズの完全新作「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」。劇場版として1月26日に公開され、「ガンダム」シリーズの劇場版の歴代最高興行収入記録を約42年ぶりに更新するなど大ヒットしている。福田己津央監督やキャラクターデザインの平井久司さん、メカニカルアニメーションディレクターの重田智さんらスタッフが再集結しつつも、新たなスタッフも参加している。テレビシリーズのモビルスーツ(MS)は、作画が中心だったが、「SEED FREEDOM」ではCGが多用された。新旧スタッフの力を結集し、CGの強みを生かしつつ“SEEDらしい”表現を目指した。そもそも“SEEDらしさ”とは何か? 重田さんに制作の裏側を聞いた。

ウナギノボリ

 ◇MSのモデルができるまで

 「機動戦士ガンダムSEED」は2002年10月~2003年9月、続編「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」は2004年10月~2005年10月に放送された。劇場版は、2006年に制作が発表され、その後は長らく続報が途絶えていたが、発表から約18年を経て公開された。

 「SEED FREEDOM」のMSのCGモデルは、メカニカルデザインの大河原邦男さんの設定画を基に、メカニカルアニメーションディレクターの重田智さんが監修して制作された。重田さんとCGチームは、モデルチェックを何度もすり合わせることで、理想のプロポーションバランスを目指した。手掛けたモデルはMSと艦船を合わせて約60体にもおよんだ。

 「MS、戦艦、武装などもあったので、モデルチェックがなかなか終わらなくて。用意する3Dモデルの数の相場が分からないので、『これは多いのかな?』とCG制作の方に聞いたら『多いですよ』と言われまして(笑い)。毎週、定例でモデルチェックがあって、去年の10月くらいまでモデリング作業をしていました。CGアニメーション作業に入る段階でもモデリングのチェックが終わっていなくて、トータルでモデルチェックは2年以上かかったんじゃないかと思います」

 作画が中心だったテレビシリーズの時とは違い、MSはCGが中心となった。

 「作画であれば、自分が机に向かって、時間が許す限り修正作業をしますが、今回は『こう修正してほしい』と言っているだけで、なんだか申し訳なかったように思いますね。CGカット担当者の彼らはそこからムービーを直さないといけない。自分が実作業をするわけではないので、作業が終わって3カ月以上たったんですが、テレビシリーズの時のように、描いても描いても終わらないメカ作監作業に追われるような大変さは、自分としてはあまり感じられなかったですね」

 「SEED」シリーズのメカを知り尽くしている重田さんがかじを取ったが、これまでと勝手が違うところもあった。

 「大河原さんのデザインを基に、最初に3Dモデラーの方がモデルを作り、それに自分が修正を入れていくというスタイルでした。自分はデジタルでやっていないので、3Dモデルを出力してもらってそこに修正をしていきました。線だけではなく、プロポーションやボリューム感などこういう意味があると、説明も入れていました。線だけを拾うのではなく、デザインの意図をくんだ上で3Dモデルの構築をしてほしかったんですね。フィギュアやプラモデルの監修をしている時と一緒です。意図というか意味が分かれば、もっといいものにしてもらえるかもしれませんし。ただ、自分の語彙(ごい)力の問題もあって、言葉で説明するよりも、描いてしまった方が早いとどうしても思ってしまうんですね。話すよりも描いていた方が楽だからアニメーターをやっているつもりだったりもしますし、とにかく説明が難しかったですね。結局、とにかくこんな感じで分かってね!と紙に描いていました」

 ◇“SEEDらしさ”のギャップ

 「CGチームの人は『SEED』直撃世代が多かったんです」という。CGチームは「SEED」シリーズのことをよく知っているようだが、重田さんや福田監督が考える“SEEDらしさ”とギャップを感じるところもあったという。

 「今作は『SEED』『SEED DESTINY』の延長線上にあるものなので、メカ描写の所作というか段取りを一から説明する必要はありませんでした。ただ福田さんとも言っていたのですけれど、『SEED』シリーズって、こういうふうに受け止められているんだな……と感じることが結構ありましたね。派手な見切りの決めポーズがあって、主役機でも脇役の機体でも同じようなポーズがつけられていて、どんなMSもどんなシーンでもパースが付いていて、ひたすら格好よく!!的なイメージだったようで……それは一面なんですよ。今回の序盤の夜間戦闘シーンなどは、それとは違います。福田さんは、映画の最初と最後でギャップを出そうとしていたのでとにかく前半パートのチェックでは『リアルに』という言葉が飛び交っていました。冒頭のミレニアムからライジングフリーダムが発進するシーンで、いつものようにクルッと回転して変形させたくなるけれど、それではヒロイズムが出てしまいすぎる。後半は、それを使ってもいいけど、前半はリアルにしてほしいということでした」

 冒頭の夜間戦闘では、巨大なMSが現れ、人々が逃げ回る。MSに怖さを感じるところもある。

 「冒頭の夜間戦闘シーンは格好いい戦闘シーンを見せたいのではなくて、人の目の高さにカメラがある戦場の中で、MSを見上げると兵器として怖さを感じる。戦争に巻き込まれている自分が潰されるような怖さを見せたかったんですね。MSが格好悪くなってしまっては困りますが、ここではとにかく怖く見えないといけない。ダガーが頭を撃ち抜かれるシーンでは、逆光シルエット的に真っ黒に塗りつぶされ、ダガーの目だけしか光っていないですよね。これによって見ている人は作中の群衆と同じ様に恐怖を感じるように演出しています。現状の戦場のように戦争に巻き込まれる市井の人々の感じる怖さの気分が伝わるようになっていなければならないですよね」

 「SEED」シリーズといえば、派手な戦闘シーンのイメージがあるかもしれないが、それだけではない魅力がある。「SEED FREEDOM」は、冒頭の夜間戦闘、後半の派手な戦闘シーンなど同シリーズの魅力が詰め込まれている。

 「CGチームの方々が最初にイメージしていた『SEED』的な描写とは違ったのですが、作業に慣れてきた中盤から後半は、最初にイメージしていたようなダイナミックなメカシーンが増えていきます。暗中模索でやってきていて、大変だったと思いますけれど、後半は、逆にこれでは地味だな……と直してもらったところもあります。担当者によって違うとは思うのですが、CGスタッフの方は、フレームに対してキレイに収めて対象物をきっちり見せるような作り方が多かったんですね。そういうカットも必要ではあるのですが、メカアニメーションとしては画面からはみ出したり、形がゆがんでいたりしていた方がいい場合もあります。中盤から後半は、逆にまだまだ地味だな……と修正をお願いすることが多々ありました」

 「SEED FREEDOM」は、CGの強みを生かしつつ、作画のようなケレン味のある映像に仕上がっている。

 「作画とCGの区別がつかなかったと言っていただけることもあり、自分ではそうなのかな?とよく分からないところもあるのですが、そう思っていただけるのはうれしいですね。基本的にセルシェードを掛けて、セルっぽい質感にしていますし、画面の作り方、動かし方、パースの付け方をこれまでやってきたようなロボットアニメに近付けるために、なるべくやっているところがあります。必要な画(レイアウト)にするためには、プラモデルをジオラマに置いて撮るような作り方ではなく、らしく見える映像の為には結構なウソ(過大な表現)をつかないといけない。狭い画面(フレーム)をいっぱい使ったようなアクションにしないと、迫力が欠けてしまう。3Dモデルを作る段階で “SEEDらしい”アクション描写をするため、必要のあるパースが表現できるようにするために、3Dモデル内にギミックを仕込んでおいてもらいました。3Dモデラーの方も3Dアニメーションの方もそこを分かってやってくれていました」

 重田さんは「根本的には作画もCGも同じ」とも語る。

 「アニメーションでカットを作っていくには絵コンテから何が求められて、どうすればいいのか?と考えなければいけない。絵がうまいだけでは難しいんですよね。CGワークも多分一緒だと思うんです。使っているツールが違うだけで、根本的な映像(カット)を作る技術論、考え方は同じだと思うんです。アニメーションは演出と映像を成立させるために大ウソをつくこともありますよね。映像を見て、ワクワクするかどうかが大事で、ウソをつかずに理路整然と作っていったら、印象の残るカットになるかというと、そうでもないんですね。小さな16:9のビスタフレームの中で、何が表現できるのか?を考え、言葉が悪いですが、ウソのつき方がうまくないといけないと思うんです。丁寧に時間かけて一生懸命細かいとこまでキチンと成立させて描いたとしても、それが地味すぎると困るわけです。じゃあ、どうするのか、どこまでキッチリ描写して、どこからダイナミックにウソをついてゆくのか?と考えると、映像(カット)を描くのが楽になるし、面白くなると思います。そうやって切り替えると、作業で思考か硬直しないで済むと思うんですよね」

 ◇自分の絵は華があるとは思っていない

 重田さんは「SEED」シリーズ以外にも数々のロボ、メカアニメで手腕を振るってきた。

 「自分では自分の絵にそんなに特徴があるとは思っていないんですよ。大張(正己)さん、山根(理宏)さんとか中谷(誠一)さんたちと比べても、全然ついていけていないな……と思ってしまいますし。自分の絵は華があるとは思っていなくて、俗に言う“SEEDらしさ”というのは、福田さんの絵コンテの芝居に引っ張られているところがあると思います。仕事としては一生懸命に描いているつもりではあるんですけど、何が自分の個性なのかは分からないですね」

 福田監督とは「新世紀GPXサイバーフォーミュラ」シリーズなどでも一緒に仕事をしてきた。重田さんは「福田さんは、僕に対してほったらかしですから」とも話し、信頼されているようだが……。

 「『サイバーフォーミュラ』の頃からずっとそうで、信頼とはちょっと違うと思いますが……。福田さんが目指している演出や映像の方向とはそんなにズレていないはずだから、プラスでメカ作画的に盛れるところはプラスで盛ってしまって大丈夫と安心しているところはあります。『サイバーフォーミュラ』のビデオシリーズの最終巻(『SIN』5巻)を作っている時に、福田さんと久行(宏和)さんは次の『GEAR戦士電童』の先行作業があって、時間的に大丈夫かな?と思っていたんですよ。毎月毎月、福田さんの机にチェック行のレイアウトがどんどん積まれていって……ある日、福田さんが仕事場に来て、レイアウトの山を持っていったので自宅作業でチェックするのかと思っていたら、入れ替わりに制作がメカ作監チェック行のレイアウトを持ってきたんです。そのレイアウトの中に福田さん専用の修正用紙で『あとはよろしく』って書いてあって(笑い)。『よろしく』って何だよ!とも思ったのですが、『俺が何か書いても好きに描いちゃうでしょ』と(笑い)」

 発表から約18年を経て公開された「SEED FREEDOM」について「福田さんの思いが全部詰まっています」と話す。

 「テレビシリーズだったらカットを割って、段取りで見せるところを、今作ではワンカットで込み入った芝居が入っていたりしますし、劇場ならではの絵作りやお芝居をかなり意識していたと思います。テレビシリーズのカット割りと違って、一カットの尺(秒数)が長かったりしますし、次から次へと畳み掛ける様にアクションが進みますし、CGチームは大変だったはずです。福田さんの一番のこだわりは戦艦ですよね。福田さんは戦艦が好きなので、ミレニアムへの思い入れも強い。『SEED DESTINY』の時も洋上戦があったけど、テレビシリーズの『ガンダム』で戦艦や艦隊戦、洋上戦をあれだけ描いているのはあんまりないと思います」

 最後に、重田さん自身の「SEED」シリーズへの思いを聞いた。

 「こんなこと言うと『SEED』ファンの方ががっかりするかもしれませんが、思い入れがあるかというと、ちょっと難しいところなんですね。やりながら作品や作画に対するテンションが上がっていくタイプだと思うので、思い入れとかがないわけじゃないんですよ。作品によってはどうしてもやりたいという気持ちもあるのですが、いただいた仕事をどう楽しんでやるか、どんな完成形に持っていくか?と考えているので、あまり自分がこういうシーンを描きたい!という強烈なものがあるわけでもなくて、コンテで指示されたものをどうカットとして成立させるかが仕事だと思っています。なるべく丁寧に一生懸命やろうとはしているのですが……今回CGワークの下支え的な作業がメインとなってしまって、メカ作監的作業はあまりできなかったことが自分的には心残りではありますが、CGのメカシーンのクオリティーも含めてファンの方々に、この『FREEDOM』という作品が喜んでもらえたのでしたらうれしいですし、長い間『SEED』に関わってきて良かったと思っています」


写真を見る全 22 枚

アニメ 最新記事