超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回も、小野さんの「ゲーム批評」時代の思い出を語ってもらいます。
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筆者が新卒で配属され、創刊から携わった雑誌「ゲーム批評」には、「ゲームの売り上げより作品性を重視する」という編集方針があった(創刊編集長が決めた)。そこには「ヒットしたゲームだけが、おもしろいわけではなく、市場で埋没したゲームにも、評価に値する作品がある」という問題意識があった。もっとも、ゲームの評価に対する共通認識はなかった。そのため、毎号ライターと編集部、さらには編集部内でも、喧々諤々(けんけんごうごう)の議論が続いた。
例として「スーパーマリオブラザーズ」をあげてみよう。名作アクションゲームという評価の一方で、男女の社会的役割の固定化を助長する(ピーチ姫はマリオに救出されるのを待つだけの存在)という批判もできる。この時、両者は切り口が異なるだけで、どちらも正しい。その一方で紙幅は有限で、「読者が読みたい=商品価値が高い」批評を載せる必要があった。このように「作品主義」を掲げた方で、雑誌自体は「商品主義」から逃れられない矛盾があった。
実際、創刊当初はもっとライターに、自由に批評を書かせるべきだという議論があった。しかし、事実誤認や名誉毀損のリスク(そして雑誌の売り上げ)を考えると、編集部による内容のコントロールが求められた。他にも季刊(後に隔月化)という刊行サイクルを考えると、遊んで「おもしろい/つまらない」にとどまらない、より深い考察が求められた。では、ゲームの批評とはどうあるべきか。走りながら考える時期が続いた。
こうした中で徐々に固まってきたのが、商品企画にもとづく批評だ。ゲームには「ターゲットユーザー」と「プレーを通してユーザーに想起させたい感情」と、「感情を生み出すための仕掛け(=ルール)」が存在する。これらが一気通貫しているのが良質なゲームというわけだ。当時はここまで言語化できていなかったが、少なくとも「ゲームの企画意図を読み取り、批評の材料にする」という意識はあった。それ以外に共通認識が持てなかったからだ。
手がかりになったのが、ゲームクリエーターのインタビュー記事だ。1990年代後半はゲームクリエイターに注目が集まった時期で、多くのゲーム雑誌で、さまざまなインタビュー記事が掲載されていた。一方でゲーム批評では、発売後のゲームソフトをプレーして評価するという立場から、発売前のゲーム情報は、あまり扱わなかった。ここから自然に、他誌のインタビュー記事を参考にゲームを遊び、そのうえで批評を行うという慣例が生まれていった。
ただし、こうした「作家主義」による批評は限界もあった。第一に多くのインタビュー記事は宣伝目的で雑誌に掲載されるため、必ずしもクリエイターの本音が掲載されていたわけではなかった。また、ゲームの大作主義の進展で、ゲームクリエイター個人の意図が希薄化されていった。とどめをさしたのがソーシャルゲームの台頭だ。開発者の顔が見えなくなっていったのに伴い、読者の側でも開発者について意識することが減少したように感じられる。
一方で近年、インディー(独立系)ゲームの台頭に伴い、ゲームの作家性が再注目されてきた。こうしたゲームには、個人や少人数で開発されるものも多い。また、ゲームの評価軸についても、認知心理学的な立場から批評したり、ゲーム自体ではなく、ユーザーレビューの分析を通して批評したりと、多様化が見られるようになった。ゲーム批評に関する議論は、世界的に見ても始まったばかりであり、自分としてもさらなる精進を重ねていきたい。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーランスで活躍。2011からNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の中核メンバー、2020年から東京国際工科専門職大学講師として人材育成に尽力している。
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