ちいかわ
第233話 黒い流れ星・後編(12)
1月7日(火)放送分
中国のアニメ制作会社・FANTAWILDが制作したフルCGアニメ「兵馬俑(へいばよう)の城」の日本語吹き替え版が、6月16日に公開された。2021年に中国で公開され、第24回上海国際映画祭の最優秀アニメーション作品賞にノミネートされた話題作。同作の日本語吹き替え版で主人公の心を持った兵馬俑・モンユエンを演じたのが人気声優の福山潤さんだ。これまで多くの人気作で王道主人公から個性的なキャラクターまでさまざまな役を演じてきた福山さんだが、主人公の少年を演じるのは久々だったという。収録の裏側を聞いた。
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「兵馬俑の城」は、神から命を授けられた兵馬俑たちが暮らす広大な地下世界を舞台に、兵馬俑のモンユエンと人間の少女・シーユイとの恋模様や、兵俑と霊獣との戦いを描くファンタジー。兵俑の雑用係のモンユエンが住む秦陽城は、凶暴な霊獣たちの襲撃に悩まされており、霊獣と戦う精鋭部隊・鋭士に憧れるモンユエンは、将軍・シアホウから霊獣・地吼(ディーホウ)を捕まえることができれば入隊を許すという条件を出される。霊獣を追う途中、モンユエンは謎多き少女・シーユイと出会い、共に旅をすることになる。
同作はハイクオリティーな映像も話題になった。福山さんは、映像を見てエンターテインメント作品としてのクオリティーの高さを感じたという。
「中国のCGアニメはとにかくレベルが高いということは情報として知っていましたし、CGだけでなく2Dの作品でも中国製の映像の美しさは実感していたので、今作も『やはりクオリティーが高いのだろうな』と思って見たのですが、純粋にエンターテインメント作品として面白かったです。ストーリーとしては王道で、見ていて分からない部分もない。僕は声優ですから、ハイクオリティーな作品に声を当てられるという作業自体がとても楽しかったです」
モンユエンは、雑用係でありながら自分の未来を運命に任せず、兵馬俑軍の精鋭部隊・鋭士になることを夢見る主人公。福山さんは、オーディションではモンユエン役のほかに、お調子者のヤギのキャラクター・シャオバオ役を受けたといい、モンユエン役が決まり、驚いたという。「コードギアス」シリーズのルルーシュ役、「中二病でも恋がしたい!」の富樫勇太役など、さまざまな人気作で主人公を演じてきた福山さんだが、「最近はモンユエンのような真ん中に立つ少年を演じることはあまりなかった」と話す。どのような思いで収録に臨んだのだろうか。
「むしろ初心に返って『今自分が物語の中心に立つ少年を演じたらどうなるのだろうか?』と。頭で考えるよりも、実際自分で演じてみた感覚を中心にして、モンユエンのキャラクターを組み上げていきました。この作品は、未熟なモンユエンという少年の成長物語なので、彼が発する冗談や、背伸びをしているようなせりふも、実体が伴っていない言葉にしなければいけない。例えば、戦場に行く時の『やってやるぞ』という気持ちにどこまで実感があるのか?と。そこをやりすぎてしまうと経験者のように見えてしまうので、経験値をなくした状態で、しっかりは演じるのだけど、強くならないように、というのが難しかったです。若い頃の一生懸命やれば良かった時とはまた違う感覚がありました」
「兵馬俑の城」の日本語吹き替え版は、BGM、効果音も入った完成した映像を見ながらの収録だったため、福山さんは「見て感じたもの」を演技に組み込もうとした。
「キャラクターの表情の変化も細やかに描かれていて、アクション自体も滑らかだったので、声に表情をしっかりとつけなければ映像に置いていかれてしまうかなと感じました。今回は、中国語の原音に助けられた部分も多々あります。ハイテンポな中国語が、自分の演じる中で、追い風になりました。テンポの速いお芝居に声を当てていくとなると、急いでしまって、音よりも意味が後ろにいってしまうということが多いんですけど、言葉にリズムがしっかりとあるので、言葉の頭にちゃんとニュアンスが乗せやすいというのは、とても感じました」
福山さんは、今作の映像のクオリティーの高さを「全体的にカロリーの低いシーンが少ない」と表現し、その中心に立つモンユエンを演じ、「ここまで大変な収録はそうそうない」と感じたという。モンユエンは、アクションシーンや会話のシーンなどほぼ全てのシーンに登場し、せりふも多い。今作の収録では「改めて『言葉をしっかりと伝える』ということをものすごく注意しました」と語る。
「僕自身、表現を新しくするということは、この何年かは何もないのですが、それが一つのポイントかなと思うんです。『兵馬俑の城』は映像も音響もすごいクオリティーだと感じましたが、声のお芝居に関してはアナログでしかないんですよね。アウトプットした声が技術の革新などで変化することはあるかもしれませんが、アウトプットするまでの段階では、結局声優が人間であることは変わらないので、新しい表現というのは、もしかしたらないのだろうなと思っているんです。だから、映像表現や音楽表現がハイクオリティーになればなるほど、最後に残された“くそアナログな声”というものは変わらない方がいいんだろうなと思っています」
映像表現が進化する中、“声”がアナログでなくなってしまったら「安心できなくなるのではないか」とも語る。
「声はいじればいじるほど、多分おかしなことになっていくのだろうなと思うので。今後、映像表現で『声をどうしていくのか?』というのは、結構大きなテーマになっていくと思うんです」
福山さんは「僕は新しいことはせずに、感じたままに思いきりやっています。でも、それでいいのかなと」と、作品と向き合い、全力で役を演じることを大切にしているという。
「『兵馬俑の城』の場合は、中国語で作られている作品なので、原音の中に声の表情が変化するポイントがあるのですが、僕らは日本語に翻訳されている中でも、そのポイントは変えずに、かつ日本語で表現をする。それを聴く人が普通に感じるのが一番なんですよね。当たり前のことを大切にやるという感じですね」
作品に真摯(しんし)に向き合う福山さんが体力勝負で挑んだという「兵馬俑の城」。映像美はもちろん、福山さんら声優陣の全力の演技に注目したい。
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