はまじあきさんの4コママンガが原作のテレビアニメ「ぼっち・ざ・ろっく！」。2022年10～12月に放送され、アニメが放送された毎週土曜深夜には、SNSで関連ワードが続々とトレンド入りするなど人気を集めた。原作は「まんがタイムきららMAX」（芳文社）の人気作ではあるが、テレビアニメの放送前は、大きく注目されていたわけではない。じわじわ人気が広がり、「2022年秋アニメの最大のヒット」とも言われるほどになった。アニメを手掛けたアニプレックスの石川達也プロデューサー、宣伝プロデューサーの田中瑛さんに、ヒットの裏側を聞いた。

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　◇放送前は話題作に埋もれていたが…

　「ぼっち・ざ・ろっく！」は、2018年から連載中の音楽マンガ。極度の陰キャ女子高生の“ぼっちちゃん”こと後藤ひとりらによるバンド「結束バンド」の青春を描いている。

　「その着せ替え人形は恋をする」「明日ちゃんのセーラー服」などのCloverWorksがアニメを制作し、ギャグシーン、ライブシーンなどの演出力の高さなどが話題になった。音楽マンガが原作ということもあり、音楽にも力が入っている。バンド「THE YOUTH」の三井律郎さん、シンガー・ソングライターの音羽-otoha-さん、樋口愛さんやバンド「KANA-BOON」の谷口鮪さん、バンド「tricot（トリコ）」の中嶋イッキュウさん、「the peggies」の北澤ゆうほさんら豪華クリエーターが楽曲を提供した。

　石川さんは「純粋にフィルムが面白かった。演出力がすごい。デザインもすごいんです」、田中さんは「前提として原作が素晴らしく、CloverWorksさんの作る映像、豪華な音楽などによって素晴らしい形でアニメ化されました」と話すように、クオリティーの高さが際立っており、ヒットした。ただ、放送前は、話題作もたくさんあり、苦戦した。

　2022年秋アニメは大豊作だった。「ガンダム」シリーズの新作「機動戦士ガンダム 水星の魔女」、藤本タツキさんの人気マンガが原作の「チェンソーマン」など数々の話題作が放送された。

　石川さんは「ビッグタイトル、注目作が多い中、期待値はそんなに高くなかったと感じていました。視聴者の方からすると、例えが正しくないかもしれないけど、ふらっと入った定食屋が、めちゃくちゃおいしかった！という感じなのかもしれません」と語る。

　一方、田中さんは「大ヒットする」という確信があったという。

　「CloverWorksさんのチームを見て、すごいものになる！と思っていました。スタッフの作品愛がすごいんです。プロデューサーの梅原翔太さんを含めて、皆さんがこれまで手掛けてきたのは、作品愛がすごいものばかりです。音楽チームもすごかった。絶対にいい作品になるという確信がありました。宣伝としては各話のサプライズを演出したくて、事前に楽曲などの情報を出し過ぎないようにしました。配信もありますし、リアルタイムでアニメ見ない人もいますが、リアルタイムで見ないと何が起きるか分からないようなドキドキ感を大切にしようとしました」

　◇先行上映会の熱気

　2022年10月5日、新宿バルト9（東京都新宿区）で先行上映会が開催された。上映会を取材した際、本編上映後、会場の空気が上映前と変わっていたようにも感じた。コロナ禍ということもあり、来場者は声を出せない。それでも、会場に集まった人が「すごいものを見た……」と感じている熱気が伝わってきた。田中さんは「これはすごいことになるかもしれない」と確信を強めたという。

　テレビアニメがスタートすると、放送中にツイッターで“ネタ画像”を投稿したり、放送後に楽曲をすぐに配信するなど丁寧な施策で、ファンを楽しませた。多くの人が「ぼっち・ざ・ろっく！」の面白さに気付き、それがSNSで拡散され、大ヒットした。

　放送が終わっても熱は冷めなかった。放送終了後、2022年12月28日に発売された劇中バンド「結束バンド」のアルバム「結束バンド」が、1月9日付のオリコンの週間合算アルバムランキング、週間アルバムランキング、週間デジタルアルバムランキングで首位に輝き、3冠を達成。ブルーレイディスクやDVDも好調という。

　石川さんが「話題作が多い中で、それに必死に追いつこうとしたわけではなかったんです。結果としてよかったのですが、事前告知を抑えたのはばくちでした」と話すように、さまざまな要素が絶妙にかみ合ったことによって「ぼっち・ざ・ろっく！」はヒットした。そして「ヒットする」と確信していたスタッフの作品愛もヒットの要因になっているはずだ。