機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島:安彦良和監督の“すごさ” 次元が違うスピード、クオリティー 温かみも

「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」の一場面(C)創通・サンライズ
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「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」の一場面(C)創通・サンライズ

 アニメ「機動戦士ガンダム(ファーストガンダム)」のアニメーションディレクターやキャラクターデザインなどを担当した安彦良和さんが監督を務める劇場版アニメ「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」。6月3日に公開され、興行収入が8億5000万円、観客動員数が43万人を突破するなどヒットしている。安彦監督はマンガ家としても活躍する74歳の大ベテランだ。同作のスタッフを取材する中で「安彦監督のすごさ”を改めて感じた」という声を聞くことが多かった。生ける伝説である安彦監督が“すごい”ことは分かってはいるが、その仕事ぶりを目の当たりにすることで、圧倒されたスタッフが多かったようだ。スタッフの証言から安彦監督の“すごさ”に迫る。

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 ◇衰え知らず ほかの人が半年でできなかったものを2日で

 「ククルス・ドアンの島」は、1979年に放送されたファーストガンダムの第15話のエピソードで、主人公のアムロ・レイ、敵対するジオン軍の脱走兵ドアンの交流を通じて、戦争の哀愁が描かれた。劇場版では第15話を改めて描く。

 安彦監督は、2001~11年に「ガンダムエース」(KADOKAWA)でファーストガンダムを再構成したマンガ「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」を連載。同作は連載終了後、OVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)としてアニメ化され、安彦監督は、約25年ぶりにアニメの現場に復帰した。「THE ORIGIN」のOVAに続き、「ククルス・ドアンの島」でも監督を務めることになった。

 安彦監督は大ベテランではあるが、総作画監督・キャラクターデザインの田村篤さんは「全く衰え知らずです」と驚いたという。

 「原画も描いてくださってるんですけど、とんでもないスピードで、とんでもないクオリティーなんです。なんてことない鳥や煙を描いてもらったんです。ほかの人に頼んでたんだけど、間に合わなくて、どうしよう……となっていた時に、安彦さんが『僕がやるから』と言ってくださって、次の日にはもう出来上がっていました。ほかの人が半年かけてできなかったものを2日でやったり。本当に惜しいですよ。普通にアニメーターをやってほしいと思ってしまう。安彦さんのすごさを目の当たりにして、すごくいい経験をさせていただきました」

 田村さんはスタジオジブリ出身で、「天気の子」の作画監督を務めたことで知られている。「これまでも、すごい人の作品に参加させていただいてきて、みんなすごいですけど、安彦さんもやっぱりすごかった」と話していたことも印象的だった。

 美術監督の金子雄司さんも安彦監督の“すごさ”を目の当たりにした一人だ。

 「安彦さんは、本当に速いし、正確なんです。サラッとレベルが高いことを言うので、自分の引き出しを総動員しながらやらせていただきました」

 イムガヒ副監督は。安彦監督について「何でも受け入れてくださる“海のような方”」と語る。

 「安彦さんは『自分で考えなさい』というスタンスですし、最初は大変でした。私たちがやったことを見届けて、受け入れてくださるし、『最後に責任を持つ』とおっしゃっていただけます。意見がぶつかる時もありました。でも、後から考えてみると、やっぱり安彦さんが正しかったと気付かされました。安彦さんの海の中で自由に泳いでいるみたいでした。安彦さんの原画展を見ても思ったのですが、やっぱり次元が違うんです。それなのに、いまだにご自身の仕事にも満足してない。『私はそんなに大したことない。ただ速いだけ』とおっしゃるんです。『ここは作業的に難しそうですが……』と相談に行くと『描けばいいんじゃないの』となる。すごい方ですが、自分がすごいことに気付いていないんです。自分が普通だと思っているみたいで(笑い)」

 ◇形が決まっていない 安彦監督だから成立するバランス

 総作画監督・キャラクターデザインの田村さんは、安彦監督の描くキャラクターを「特殊」とも感じているという。

 「すごく難しいんです。安彦さんの絵は、形が決まっていないっていうか、決められないんです。気分を表しているものなので、気分によって形が変わるんです。アニメーションで、そこをいかに拾うか?というのが、すごく難しい。ちょっと口の位置がずれるだけで、気分が変わってしまう。原画でできても、動画がダメになってしまうことがあります。海辺の砂の城を作るみたいな感じですね。波ですぐ崩れてしまいそうになるけど、何とか形を保つ。ちょっと無茶だなとは思いつつ、何とかやった感じですね。正直に言うと、安彦さん本人しか描けないんです。でも、魅力的なので、作りたい!という気持ちになる」

 「安彦さんは本当にすごいです。安彦さんが描くと、温かみが出る」と語るのは、3D演出を担当したCGアニメーションスタジオ「YAMATOWORKS」の森田修平さんだ。

 「安彦さんだから成立するバランスがあって、少しでも違うと、顔が変わる。ガンダムの顔もヒーローらしくなり、優しくもなりますしね。まねできない絵を描かれています。田村さんはよく表現できるなあ……と思いますね。田村さんもすごいんです。僕らは安彦さんにはなれないけど、安彦さんになったつもりでやる。安彦さんや(メカニカルデザインの)カトキ(ハジメ)さんの良さを表現することに集中していました」

 田村さんは「『THE ORIGIN』以降、コンテを描くし、カットのチェックもするけど、一歩引いているようにも見えます。任せていただいたので、現場としては、作業に打ち込めます。ただ、違うところは、きっちり言ってくださいます。そのスタンスもいいですよね。信用してくださっている以上は裏切れない。だからこそ精いっぱい頑張ろうとするんです」とも話していた。

 安彦監督は、自身にとって「ガンダム」の映像化は「これで最後かもしれない」「思い残すことはない」と語ってきたが、スタッフの話を聞いていると、まだまだ見てみたい……と感じてしまう。“安彦ガンダム”の一つの区切りになるかもしれない「ククルス・ドアンの島」の映像を目に焼き付けてほしい。

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