小野憲史のゲーム時評:超大型買収に感じたマイクロソフトのビジョン

Activision Blizzardの人気タイトル
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Activision Blizzardの人気タイトル

 超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、マイクロソフトによるActivision Blizzardの買収について語ります。

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 「勝つまでやめないマイクロソフト」

 日本マイクロソフト(現マイクロソフト)で国内Xbox事業を牽引(けんいん)した大浦博久常務(当時)の言葉だ。初代Xboxの売上が伸び悩み、ライバルのソニーから「ゲーム機戦争は終わった」とコメントされた2002年夏のことで、「ライバルに勝利するまで事業をやめることはない」と気を吐いた。かつてのOS戦争、ブラウザ戦争になぞらえたものだ。1月18日に米マイクロソフトが「Call of Duty」「Diablo」シリーズなどで知られるActivision Blizzardの買収計画を発表した際、このエピソードが思い出された。

 報道によると買収額は総額687億ドル(約7.8兆円)で、2023年度内での買収完了をめざす。マイクロソフトは2020年夏に、「Fallout」「The Elder Scrolls」シリーズなどで知られるベセスダ・ソフトワークスの親会社、ZeniMax Mediaを75億ドル(約8,500億円)で買収し、業界を震撼させたが、それと比べても桁違いの金額だ。連邦取引委員会と司法省がIT企業大手の監視を強める中、買収が難航する恐れもあるが、買収が完了するとテンセント、ソニーに続く世界第3位のゲーム会社が誕生することになる。

 マイクロソフトがゲーム会社への投資を強める背景に、前世代機のXbox OneがライバルのPlayStation 4に後塵(こうじん)を拝した経緯があるだろう。理由の一つが独占ソフトの弱さで、現世代機のXbox Series X/Sを展開するにあたり、スタジオ買収を続けてきた。これにはゲームの充実もさることながら、IP(知的財産権)とファンコミュニティーの獲得がある。2014年にMojang Studioを25億ドル(約2700億円)で買収したのは好例だ。同社が開発した「マインクラフト」は、今や世界最大級のゲームに成長し、大きな成功体験をもたらした。

 もっとも、今日のゲームビジネスは大きく変化している。キーワードはサブスクリプション(定額課金)制度とストリーミング配信で、マイクロソフトが進める会員制サービス「Xbox Game Pass」は最右翼だ。加入者はゲーム機やOSの垣根を越えて、さまざまなゲームを定額で楽しめる。Xbox事業を牽引するフィル・スペンサー氏は四半期ごとに一つ以上の独自タイトルをXbox Game Passで配信する意向を表明しており、Activision Blizzardの買収完了に伴い、同社の人気ゲーム群も投入される可能性が高い。会員増加に貢献しそうだ。

 そのうえで、中長期的にみればメタバースへの布石の一つだと考えられる。メタバースの定義は曖昧だが、それゆえに各社が強みを生かして、さまざまな方面から投資を進めている。ゲームエンジン、XRデバイス、仮想通貨、オンラインゲーム、ロボット、AI技術などだ。マイクロソフトの強みはWindows OSとXbox Game Passを支えるクラウド技術で、ゲームはこうしたインフラを最大限に酷使する試金石としての役割も期待される。具体的な成果が出るのは5~10年後だと思われるが、引き続き一定の投資が行われていくだろう。

 もっとも、ここでの「勝ち」とは何だろうか。いわゆるシェア競争とは異なり、現時点で明確な基準があるわけではない。そもそもXbox Game Passを開始した時点で、マイクロソフトは純粋なゲーム機の拡販競争からは距離を置いている。Xbox Series X/Sを購入しなくても、Xbox Game Passの会員であれば、PCやスマートフォンで対応ゲームが安価に楽しめるからだ。統合ソフトのオフィスがクラウド対応になり、さまざまなハードで使えるのと同じように、同社にとってのメタバースも、ハードやデバイスの垣根を越えた存在になる可能性が高い。

 これまでマイクロソフトは「ソフトウェアでハードウェアの垣根を越える」をモットーに成長してきた。MS-DOSもWindowsも、ゲームユーザーには馴染みが深いDirect Xも、すべてこの思想を受け継いでいる。今、その役割を担っているのがクラウドサービス「アジュール」で、この使用料を徴収することが、アプリケーション販売に変わる新たな収益源となっている。もっとも、そうして垣根を越えた先に何があるのか、まだ不透明だ。大型買収の先に何を目指すのか、「勝った」世界には何が広がるのか、同社のビジョンに注目したい。

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 おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーランスで活躍。2011年からNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の中核メンバー、2020年から東京国際工科専門職大学講師として人材育成に尽力している。

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