SAO:劇場版「プログレッシブ」の魅力 等身大の10代描く テレビシリーズのリスペクトと進化

「劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア」の一場面(C)2020 川原 礫/KADOKAWA/SAO-P Project
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「劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア」の一場面(C)2020 川原 礫/KADOKAWA/SAO-P Project

 川原礫(れき)さんの人気ライトノベル「ソードアート・オンライン(SAO)」シリーズの「ソードアート・オンライン プログレッシブ」が原作の劇場版アニメ「劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア」(河野亜矢子監督)。10月30日に公開され、10月30、31日の映画観客動員ランキング(興行通信社調べ)で1位を記録するなど大ヒットしている。「SAO」の主人公はキリトだが、新作はこれまでのテレビシリーズや劇場版とは異なり、アスナの視点で物語が描かれている。アスナ、キリト、劇場版のオリジナルキャラクターのミトにフォーカスしつつ、等身大の10代を描いた同作の魅力に迫る。ネタバレを含むので、未見の方は注意してほしい。(桜見諒一)

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 ◇アニメの表現の進化を感じる

 「プログレッシブ」は「テレビシリーズのリスペクト」と「技術の進化」を感じる。テレビシリーズ第1期の<アインクラッド>編の第1話と第2話をアスナの視点で描き、テレビシリーズでは描かれなかったアスナとキリトの出会うまでの物語を楽しめる。ミトの登場といった新要素はあるが、あえてテレビシリーズに構図を寄せたカットやディテールもある。

 例えば、第1話でゲームマスターであるアバターの茅場晶彦が登場し、ゲーム「SAO」での死が現実世界での死とイコールになることを告げるシーン。茅場登場時の演出はテレビシリーズに近いが、茅場の顔部分から漂う煙がより濃厚になり、キャラクターたちが強制転移されたり、ゲーム内のアバターが現実と同じになったりする際のエフェクトがアップデートされている。アニメの表現の進化を感じるシーンだ。

 プレーヤーたちのメニュー画面が、テレビシリーズよりも若干厚みのあるデザインになっているなど細かな変更点もある。第1層のフロアボスのイルファング・ザ・コボルドロードのデザインもアップデートされ、ボス戦後にキリトを糾弾するキャラクターが、本編で後に登場する因縁のキャラクターになっているなどファンがニヤリとするポイントがちりばめられている。

 テレビシリーズが放送された約9年前、視聴者だったという河野監督は、9月に開催された京都国際マンガ・アニメフェア2021(京まふ)で「放送当時の自分が本作を見て楽しくなかったらダメだし、初めて見る方にも興味を持っていただきたい。むしろ見終わった後にテレビシリーズを見たくなるように作るというのを考えに考えた」とも話していた。テレビシリーズへのリスペクトを感じる発言だ。

 ◇アスナと河野監督がリンク

 アスナが「SAO」にログインし、ビギナーから“閃光のアスナ”に成長する姿が描かれているのも大きな見どころの一つだ。アスナがピンチに陥るシーンなどは画(え)の力を感じるし、アスナ役の戸松遥さんの鬼気迫る演技により、先のストーリーを知っていても、思わず身を乗り出してしまうような緊迫感がある。“閃光のアスナ”として羨望(せんぼう)を集める血盟騎士団副団長、キリトを奮い立たせてきたりんとした姿とは異なる一面を見せる。「あのアスナですらこんな時代があったんだ」と見る側が身近な存在に感じる描写もある。アスナはなぜ強くなったのか? つらい過去を乗り越えて成長してきた転機が丁寧に描かれている。

 河野監督は、本作が監督デビュー作。京まふで河野監督は「産みの苦しみというか、そつなくこなすことが美しいとは限らなくて、現場のスタッフにも作っている最中に『とにかくあらがえ』と伝えていました」と一筋縄ではいかなかった制作の裏側を明かしていた。丹羽将己プロデューサーは、そんな河野監督が成長していく姿を見ていたようで「本作がアスナが成長して強さを手に入れていく話なので、リアルに河野さんがアスナに重なった部分があった」とも話していた。アスナと河野監督がシンクロすることで、共感性の高いドラマになったのかもしれない。

 ◇アスナの変化 ミトのもろさ

 「SAO」の主人公・キリトは、アスナに大きな影響を与えたキャラクターだ。テレビシリーズでは、第2話の第1層フロアボス攻略会議でアスナが初登場し、そこでキリトとパーティーを組んだところから2人の関係が始まった。本作には、それ以前のキリトも登場。テレビシリーズよりも線が細いキャラクターデザインも印象的だ。テレビシリーズでは、キリトの強さが際立っているが、本作では「14歳の少年」としての可愛らしい一面も垣間見られる。

 本作とテレビシリーズを両方見ることで、キリトとアスナの物語、そしてキリトがアスナにどんな影響を与えたかをより深く知ることができる。アスナは「もう生き方なんて選べない。でも、死に方くらいは選べる」と無茶な攻略をするようになる。一方、キリトは、テレビシリーズ第1話の「仮想空間なのにさ、現実世界より生きてるって感じがする」という言葉にも現れているが、「SAO」の世界で充実した生活を送ろうとする。キリトは「SAO」を「ただのゲーム」と捉えずに「今、自分たちが生きている世界」として捉える。アスナもそんなキリトに影響を受け、「どう生き抜くか」と考え方を変えていく。

 河野監督は、オリジナルキャラクターのミトについて「今まででてきたことのない『SAO』の女性キャラクター」がテーマで「芯の強さがありつつ、どこかもろさもある」と語っていた。武器が身の丈ほどの鎌であるところも異彩を放っている。

 ミトとキリトは似ているところがある。キリトがクラインにソードスキルを教えたように、ミトがアスナに教え、「絶対にアスナを死なせない」と誓う。ただ、ミトとキリトには大きな違いがある。キリトやアスナには、ここぞという時の爆発力、意志の強さがあるが、ミトはもろい。等身大の10代であることが魅力で、共感できるところも多いはずだ。

 ◇続編はどうなる!?

 続編「劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 冥き夕闇のスケルツォ」が、2022年に公開されることも発表されている。「星なき夜のアリア」はテレビシリーズとは異なる展開があったため、今後の展開が気になるところ。

 2022年は、劇中でゲーム「SAO」の正式サービスがスタートする記念すべき年でもある。川原さんがこの物語を書き始めてから既に20年が経過しており、ツイッターで「2009年に電撃文庫版1巻を出版する時、担当の三木(一馬)さんと『2022年にしとけば(刊行中に)追いついてしまうことはマァなかろうて』みたいな話をした気がしますね」 とも語っていた。ナーヴギアのようなフルダイブ型の家庭用ゲーム機は発売されていないが、VRが身近になり、メタバースが注目を集める現在、「SAO」で描かれている世界は着実に迫っている。デスゲーム抜きの「SAO」のようなゲームが実現する世界を夢想しつつ、「星なき夜のアリア」やこれまでのアニメ、原作やコミカライズを楽しみながら、アニバーサリーイヤーに向けて万全の準備を整えるのも「醍醐味(だいごみ)の一つ」 だろう。

 <プロフィル>

 桜見諒一 パブリシストとして国内外の実写映画、劇場版アニメを中心に幅広い作品の宣伝業務を行う傍ら、ライターとして活動している。ツイッター:@Ohmi_Ryoichi

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