宮崎吾朗監督:スタジオジブリ「アーヤと魔女」 3DCGで作る理由 原点受け継ぎ新たな挑戦

「アーヤと魔女」の宮崎吾朗監督
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「アーヤと魔女」の宮崎吾朗監督

 スタジオジブリが作る初の全編3DCG長編アニメ「アーヤと魔女」が、12月30日午後7時半からNHK総合で放送される。監督を務めるのが、劇場版アニメ「ゲド戦記」「コクリコ坂から」で知られる宮崎吾朗さんだ。宮崎吾朗監督は、「スタジオジブリにとって新しいことをやることが必要」と感じているといい、「アーヤと魔女」では「子供たちのために作る。高畑勲から始まって宮崎駿たちがやってきた自然は自然のものとして美しく描く」という原点を大切にしながら、新たな表現に挑んだという。スタジオジブリが作る3DCGアニメとは……。

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 ◇未完成の原作を膨らませる ロックを取り入れた理由

 「アーヤと魔女」は、劇場版アニメ「ハウルの動く城」の原作を書いた英国作家の故・ダイアナ・ウィン・ジョーンズさんの児童文学「アーヤと魔女」が原作。自分が魔女の娘とは知らずに孤児院で育った10歳の少女・アーヤがある日、奇妙な家に引き取られ、意地悪な魔女と怪しげな男と共に暮らすことになる。誰もが自分の思い通りにしてくれる孤児院で育ったアーヤは、生まれて初めて“思い通りにならない”という壁にぶつかるも、周囲の人を操り自分の思い通り思いさせるという特技で反撃を始める。

 2016年ごろ、宮崎吾朗監督は、鈴木敏夫プロデューサーに原作を渡され、「次、これどう?」と言われたことをきっかけに「アーヤと魔女」は制作されることになった。宮崎吾朗監督はそれ以前に、鈴木プロデューサーが宮崎駿さんのアトリエから原作の本を持って出てくるのを目撃し、「これは何かありそうだな」と、先に原作を読んでいたといい、「長いことやっていますからね。話を振られる前には勘が働くんですよ」と笑顔を見せる。

 宮崎吾朗監督は原作を読み、「未完成というか、隙間(すきま)が多い」と感じたという。

 「ダイアナ・ウィン・ジョーンズさんの作品は相当練られているお話が多い。そんな中にあって、未完成というか、隙間が多いなと思いました。というのも、後から聞いた話なのですが、『アーヤと魔女』はダイアナさんの書きかけの作品で、後で手を入れようと置いておいた原稿だったらしいんです。それを亡くなる前に『これはそのまま出版してもいい』と残されたものだった。子供のために何かを作るという意味では、ちょうどいい長さでしたし、短いものを膨らませていったほうがいいんじゃないかと考えました」

 原作ではアーヤの母親に関する描写はないが、アニメでは母親が過去にロックバンドの活動をやっていたなどオリジナルの要素が加えられている。宮崎吾朗監督は、「ゲド戦記」「コクリコ坂から」でも劇中で印象的な挿入曲を使用してきた。今回はなぜロックだったのか。

 「舞台は、1990年代のイギリスというところからスタートしたんです。まだスマホや携帯電話がない時代にしようと。アーヤが魔女の家に閉じ込められるという設定なので、スマホを持っていたら外に連絡しちゃうじゃないですか。そういうことがない時代と考えると1990年代頭ぐらいで、アーヤが生まれたのが1980年代。そうするとお母さんたちの若かりし頃は、イギリスのロックが華やかだった1970年代なので、バンドをやっていたという人間関係がいいかもしれないと。音楽を担当してくれた武部聡志さんも以前『高校生の頃はプログレ(プログレッシブ・ロック)を結構聴いていた』とおっしゃっていたので、その合致もありました。僕自身がキャラクターが主体的な形で音楽をやっているというのを作品の中でやってみたかったというのもありますね」

 さらに、ダイアナさんはミュージシャンのデヴィッド・ボウイさんのファンで、「ハウルの動く城」の主人公・ハウルのモデルになったという話もあり、宮崎吾朗監督は「ここでもロックだ」と共通点を感じたという。

 ◇スタジオジブリの原点 キャラクターを豊かにする3DCGの可能性

 宮崎吾朗監督は、スタジオジブリを離れ、初めて手掛けたテレビアニメ「山賊の娘ローニャ」(2014年)で3DCGに初挑戦した。同作は3DCGによってセルアニメ調のタッチを表現したセルルックという手法で制作された。「アーヤと魔女」でフル3DCGに挑戦したことには「スタジオジブリとして新しいことをやるべき」という思いがあった。

 「スタジオジブリは宮崎駿に映画を作らせるために鈴木敏夫が作ったスタジオです。だから二人のもの。とはいえ、宮崎駿も来年で80歳ですし、鈴木敏夫も70代で、いつまでもこの二人でやっているということもないと思うんです。スタジオを続けていくのだとしたら、彼らがやったことをマネしてやっていても結局先がないし、縮小再生産にしかならない。うまくいってよくできたコピーにしかならないだろうという感覚がどこかにありました。やはり挑戦していく感覚を持たないと長続きしないんじゃないか。そこで、『ローニャ』の経験もあったので、僕はジブリでもCGをやるべきだろうと。もちろん、一方で手描きのアニメーションもやっていけばいいんだと考えています」

 宮崎吾朗監督は、3DCGで「アーヤと魔女」を描く上で、スタジオジブリの「子供たちのためにアニメを作る」「自然は自然のものとして描く」という原点を大切にしたという。

 「高畑勲から始まって宮崎駿たちがやってきたことは、自然は自然のものとして美しく描くということ。自然派という表現をずっと追求してきているので、そこは3DCGを作る上でもつなぎたい。例えば、アーヤが暮らす家の裏には、草がボーボーと生い茂っていますが、それがCG的な記号化されたものではなくて、ちゃんと草に、木々に見える、なおかつキレイ、美しいと思えるような表現にしたい。空や雲の表現には皆さんが思う『ジブリっぽさ』があったりするので、美しい空、美しい雲にしたほうがいい。そのため、空は基本的には全て手描きで、木々などもCGプラス手描きのミックスで制作しました」

 宮崎吾朗監督は、3DCGの可能性を「キャラクターの芝居を突き詰められる」と感じているという。「山賊の娘ローニャ」の経験でも、「CGは地味な日常芝居に意外と向いている」という発見があった。

 「手描きのアニメーションでは、ちゃんとした絵を描きながら、それを動かさなければいけないので、相当な技量が求められるし、簡単そうなカットにひと月かかることもある。例えば、手描きでキャラクターが口を動かしながら振り向くという動きを描くのは意外と大変なのですが、CGではキャラクターがしゃべりながら動き回るようなことも自由自在です。細かい表情、動きをさせやすい。アーヤは毎日魔女に手伝いをさせられているので、草を刻んだり、液体をかき混ぜたりと日常のお芝居が多い。そうした芝居をどれだけそれらしくできるか、表情が細やかに変わっていくか。地味なのですが、そこが挑戦でした」

 CGアニメーションの中には、フルCGで製作された「ライオン・キング」のようなフォトリアルな表現もあるが、宮崎吾朗監督は「キャラクターも実写に近いものは、僕らがやりたいアニメーションじゃない」と話す。「アーヤと魔女」では、スタジオライカの「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」に近い“人形アニメーション”を目指した。

 「フォトリアルな方向に行ってしまうと際限が無い。『アーヤと魔女』では、キャラクターを人形っぽい感じにあえてしたほうがいいだろうと。だから、舞台設定やいろいろなデザインも少しデフォルメして、セットを作るようにしました。キャラクターの髪の毛もCG的なヘアにすると本物のようには見えますが、それでは逆に面白くない。キャラクターデザインの近藤勝也が描いた髪のボリューム感を再現するために、一本一本ではなく塊で表現する。粘土造形のような髪の表現にした方が面白いだろうと考えました」

 さらに、アーヤの眉間(みけん)にシワを寄せたり、口が大きく開いたり、目が三白眼になったりと、「マンガ的な表現もやろうとした」と語る。宮崎吾朗監督は、「アーヤと魔女」を語る上で「そのほうが面白い」と何度も口にした。それは、子供たちが見ていて「楽しい」「面白い」を追求し続けているからではないか。スタジオジブリの原点を大切にし、3DCGで新たな表現に挑んだ「アーヤと魔女」。生き生きとした動き、表情を見せるキャラクター、美しい自然の描写に注目したい。

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