佐藤順一監督:アニメで子供に伝えたい「気付き」 世界は「思っていたよりすてきかもしれない」

「泣きたい私は猫をかぶる」の佐藤順一監督
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「泣きたい私は猫をかぶる」の佐藤順一監督

 劇場版アニメ「ペンギン・ハイウェイ」などで知られるスタジオコロリドが手がける最新作「泣きたい私は猫をかぶる」(泣き猫)が、動画配信サービス「Netflix(ネットフリックス)」で配信中だ。今作が長編アニメ監督デビューとなる柴山智隆さんと共に、監督を務めた佐藤順一さん。1990年代に「美少女戦士セーラームーン」「おジャ魔女どれみ」など名作アニメを多く手がけ、子供たちが抱える葛藤、家族の問題を丁寧に描いてきた佐藤監督が「泣き猫」で伝えたかったこと、子供たちへの思いとは……。

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 ◇自分を演じることが上手な子供たち 「自然に仮面を付けている」 

 「泣きたい私は猫をかぶる」は、愛知県常滑市が舞台で、ムゲ(無限大謎人間)と呼ばれる中学2年生の笹木美代が、猫に変身できる不思議なお面で猫の太郎になり、思いを寄せるクラスメートの日之出賢人に会いに行く……というストーリー。「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」などの岡田麿里さんが脚本を手がけた。女優の志田未来さんがヒロインで中学2年生のムゲ、花江夏樹さんが日之出をそれぞれ演じた。

 「泣き猫」は、「仮面をかぶる」ということが大きな作品の軸となっている。主人公のムゲは、不思議なお面をかぶって猫になり、猫の太郎として日之出に可愛がってもらうという「普段はできないこと」をする。佐藤監督は「実はムゲは普段から学校や家で日常を荒らさないようにずっと仮面をかぶっているんです」と話す。

 「ムゲは、仮面を付けて猫になった時に一番自分らしい行動をしているんです。何の遠慮もなくしゃべったり、学校では素っ気ない態度を取られる日之出にも甘えたいように甘える。逆転の構図なんです。今の中学生も小学生も、それぞれの日常の中で波風を立てないようにいい感じに自分を演じることが上手で、とくに問題がなければ違和感も感じないぐらい自然に仮面を付けている」

 ただ、器用に仮面をかぶって過ごしていても、恋愛や将来について悩んだりと波風が立った時、「どうしていいか分からないぐらい混乱してしまうということが結構あるのではないか」と分析する。

 「日常の中で普通に仮面をかぶっている人たちが、もう一度自分がいる場所を見直した時に、そこに当たり前にいた人、当たり前にあった空間が思っていたよりもすてきだったりするかもしれない、と気付くきっかけになればいいなと考えました」

 ◇子供たちに伝えられることを見つけていく作業

 佐藤監督は、作品を作る上で、自身が「こうやりたい」ということは、「何の意味もない」と語る。

 「東映動画(現・東映アニメーション)にいたころは、3~5歳ぐらいの女の子、男の子に見せる作品が多いので、『オレがこうやりたいんだ』ということには何の意味もなくてですね。『この子たちが楽しいものはこれだろ? だったら、やることはこれだろう』『シナリオに求められるのはこういう要素だ』と出していく。ターゲットが何かということを理解して、その的に当てていくという作業はずっと自然にやってきました。特別なことをやっているわけではない」

 1990年代から子供向けアニメ作品に関わってきた佐藤監督。社会や子供たちの置かれる環境が変化する中、アニメで描く子供たちも変わってきているのだろうか。

 「変わるもの、変わらないものはあるんですよね。子供たちに対しては、その時、その時に気になっているものがあって。今回の『泣き猫』は、最近の子たちが家の中、家族、友達もそうですが、波風を立てないように仮面をかぶって自分の場所でちゃんと演じていくということに対して、あんまりストレスを感じていないかもしれない。すごく自然にやっていて、自分が仮面をかぶっていることにすら気付いてないかもしれないなと気になっていた」

 佐藤監督は常に子供たちに対して「気になっていることを自分なりにアプローチしている」という。例として親の離婚に悩む小学生の女児を描いた劇場版アニメ「ユンカース・カム・ヒア」(1995年)を挙げる。

 「当時、親が離婚するという時、それは大人としての自由であって、子供のために犠牲にしたり、我慢するのはいかがなものか?というドラマがありました。そこでは、物わかりのいい子供が描かれていたんです。『お父さん、お母さんがやりたいように生きる。私はそれに干渉しない』と。でも、『そうなの?』と疑問を感じた。だから、『ユンカース・カム・ヒア』では、『本当は(離婚するのは)嫌だった』と吐露する小学生を描きました。『それでいいんだよ』ということなんですよね」

 今回の「泣き猫」でも、主人公のムゲの両親は離婚をしており、ムゲは父親とその婚約者の薫と同居している。ムゲは家の中で“仮面”をかぶり、物わかりのいい子を演じ、薫もそんなムゲに気を使っているような描写がある。

 「日常で、何かのスイッチが切り替わった時に、混乱したり、『本当の自分ってどうだったんだ?』となることがあるのかなと考えました。そんな子たちに『別にそれは特別なことじゃないよ』と。ちょっと目線を変えて、当たり前に周囲にいた人たちが何を考えているか、自分をどう見てくれていたかについて、ちょっと考えてみると視野が広がったりする」

 さまざまな作品に関わる上で「その都度、子供たちに伝えること」を大切にしているという佐藤監督。そのメッセージは、一見器用に見える今の子供たちが自分を見つめ直すきっかけを与えているように思える。それが押しつけではなく自然とアニメの中で描かれているのは、佐藤監督が子供たちを優しい目線で見つめ続けてきたからかもしれない。アニメが伝えるメッセージは、子供たちはもちろん、大人たちにも「気付き」があるのではないだろうか。

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