ポケモン:「アニポケ」新作がW主人公である意味

今回の「アニポケ」のモデルチェンジは、世界観を広げた結果なのだと思います。
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今回の「アニポケ」のモデルチェンジは、世界観を広げた結果なのだと思います。

 テレビアニメ「ポケットモンスター」の最新シリーズとなる「ポケットモンスター」が11月17日からテレビ東京系でスタートする。これまでのサブタイトルを廃して「ポケットモンスター」と名付けられた新シリーズは、これまでのサトシに加え、全てのポケモンをゲットするという夢を持つ10歳の少年ゴウも新たな主人公として加わる初のダブル主人公制を採用するなど、大きく様変わりしそうだ。アニメコラムニストの小新井涼さんが独自の視点で分析する。

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 テレビアニメ「ポケットモンスター」、通称「アニポケ」の新シリーズが、いよいよ11月17日からスタートします。タイトルはずばり「ポケットモンスター」と、初代シリーズへの原点回帰が行われ、その一方で、歴代全ての地方を舞台に展開する「サトシ」と「ゴウ」のダブル主人公という新体制が始まります。

 先日、サトシが「アニポケ」22年の歴史の中で初のポケモンリーグ優勝を果たした際は、新シリーズでの主人公交代もうわさされたものの、今回こうしてダブル主人公という形がとられたのは一体なぜなのでしょうか。

 まずは本作でもサトシが主人公を続投する理由について。それには歴代「アニポケ」シリーズの視聴者の存在が大きいように思います。

 「ベイブレード」や「妖怪ウォッチ」、「プリキュア」や「アイカツ!」、「プリティー」シリーズといった、ホビーと連動するキッズ・ファミリー向けアニメは、シリーズが長く続くとメインターゲットの子供たちの成長・世代交代に合わせて、“主人公を変えて”番組の内容をモデルチェンジすることがほとんどです。一方の「アニポケ」でも、原作ゲームの最新作発売に合わせて、数年周期でのモデルチェンジが行われてきましたが、舞台となる地方や旅の仲間(やクラスメート)といったメインキャラが変わるのみで、サトシが主人公の座から降りることはありませんでした。この主人公を据え置く独自のモデルチェンジによって、「アニポケ」は22年の超ご長寿ホビーアニメにもかかわらず、どの世代の、どのシリーズを見ていた視聴者にとっても“サトシの物語”であるという、稀有(けう)な存在となったのです。

 こうした「アニポケ」の形は、「ベイブレード」や「妖怪ウォッチ」といった前述のホビー系アニメよりは、「ドラえもん」や「ONE PIECE」といった、主人公が変わらないマンガ原作の長寿アニメに近く、一旦離れたとしても、生活習慣の変化や自分の子供が視聴し始めたことなどをきっかけに、いつでもどこからでも、また作品を追いかけやすくなります。22年もの間、“サトシの物語”で育ってきた幅広い世代の歴代「アニポケ」ファンの存在は大きく、サトシが主人公であり続けることが、一度離れたファンに対しても引き続き「アニポケ」への門戸を開いたままにしておける要因でしょう。そしてそれが今回の主人公続投の大きな理由になっているのではないでしょうか。

 では、そうしてサトシが主人公を続投するのなら、なぜ今回のゴウが従来のようなライバルでも旅の仲間でもなく、もう一人の主人公なのでしょうか。それには従来とは違うルート「ポケモンGO(ポケGO)」から「ポケモン」の世界に入ったユーザーにも、「アニポケ」への門戸を開くためだと思います。

 情報発表時から一部でささやかれていた通り、ゴウは今や原作ゲームと同じかそれ以上の普及率をみせる「ポケGO」を意識したキャラとみてまず間違いないでしょう。ゴウという名前はもちろん、「夢はポケモンマスター」であるサトシと違い、「全てのポケモンをゲットするという夢」を持つゴウは、(バトルシステムもあるものの、)世界を歩き回ってポケモンをゲットすることが主な目的の「ポケGO」ユーザーと同じ目線の主人公となり得ます。

 これまでは、子供たちが「ポケモン」の世界に初めて触れるのは、原作ゲームからか、それとほぼ同じ歴史を持つ「アニポケ」からというのがほとんどでした。しかし今後は、スマホの無料ゲームという手軽さから、「ポケGO」で初めて「ポケモン」に触れたというユーザーも間違いなく増えていくことでしょう。つまりゴウは、これまで原作ゲームと「アニポケ」の主な目的であった「ポケモンマスターになる」だけでなく、「全てのポケモンをゲットする」目的で「ポケモン」の世界に入った人にも「アニポケ」の間口を広げるための主人公であると考えられるのです。

 「ポケモン」の誕生から23年、原作ゲームのハードがゲームボーイからニンテンドースイッチに変わっただけでなく、スマホやアプリの影響で、ユーザーの幅はもちろん、“ポケモンの楽しみ方”もアニメ放送開始当初と比べて大きく広がりました。今回の「アニポケ」のモデルチェンジは、そうして広がる「ポケモン」の楽しみ方やユーザーの多様化に合わせて、単純に世代交代をするのではなく、原作シリーズに加えてアプリゲームにまでその世界観を広げた結果なのだと思います。

 特番として放送された「ポケットモンスター THE ORIGIN」やYouTubeで配信された「ポケモンジェネレーションズ」のように“サトシの物語”ではないシリーズを新しく始めるでもなく、ライバルや旅の仲間といった立ち位置とも違うもう一人の主人公を登場させたのには、これまでの、そしてこれからのファンにも「アニポケ」を楽しんでもらうためのスケールアップという大きな意味と意図があると考えています。

 ◇プロフィル

 こあらい・りょう 埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。明治大学大学院情報コミュニケーション研究科で、修士論文「ネットワークとしての〈アニメ〉」で修士学位を取得。ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)の全アニメを視聴して、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続中。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、現在は北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程に在籍し、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。

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