ダンダダン
第5話「タマはどこじゃんよ」
10月31日(木)放送分
シリーズ最高記録となった前作「ゼロの執行人」超えの好スタートを記録して話題の劇場版アニメ「名探偵コナン 紺青の拳」や、「キンプリ」の愛称で親しまれている人気アニメの劇場版最新作「KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-」など、リピーターが作品のヒットに貢献するケースが増えてきている。どうして人は同じ作品を何度も見に行くのか。自身もリピーターとして両作品を何度も鑑賞しているというアニメコラムニストの小新井涼さんがファン心理を分析する。
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劇場版「名探偵コナン 紺青の拳」が、前作「ゼロの執行人」を超える好スタートを切り、物語の舞台であるシンガポールにちなんで“出国する(=映画を見る)”人が続々と増えています。一方、応援上映ブームの火付け役となった“アニメの「キンプリ」”の最新作「KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-」も、上映館の少なさやテレビ放送の先行上映であるにも関わらず、興収3憶円を突破する好調ぶりです。
元々のファンの母数や知名度の差はあるものの、この2作のヒットには、ファンのリピート率の高さが少なからず関係しているという共通点があります。何度も見たいくらい作品が面白いのはもちろんですが、それにしても数回どころか何十回、何百回と、同じ映画を見るためにファンが映画館に通ってしまうのは一体なぜなのでしょうか。まだほんの20回程度ではありますが、実際に「キンプリ」をリピート鑑賞している自分の経験も踏まえて分析してみます。
一つめの要因として考えられるのは、「SNSでの活発な感想共有」です。活発であるがゆえに “犯人バラしアカウント”や、作品の公式感想タグを使った一部の衝突などはあるものの、両作品ともファン同士の感想共有は基本ポジティブに行われています。
中でも特にリピート鑑賞を促していると思うのは、“初見の人の感想”です。初見の人が鑑賞後すぐ興奮気味に発信する感想は、「そうそう、わかる!」と共感できると同時に、自分が映画を初めて見た時の驚きや感動、興奮やときめきまで、映画のワンシーンと共に思い出させてくれます。そのため読んでいるうちに段々とこちらを、「映画館に行ってあの感情をもう一度味わいたい!」という気持ちにさせるのです。
SNSでいつでもどこでも同じ映画を見た人と感想が共有できるのは、言い換えれば映画を見ていない間は、そうして常に「もう一度見たい!」という気持ちが蓄積し続けるということでもあります。そしてそれが我慢の限界に達する度に、ファンはつい何度も劇場に足を運んでしまうのでしょう。
もう一つの要因として考えられるのは、ファンの「感謝の気持ち」です。大好きな作品の劇場版が面白ければ面白いほど、ファンは感動と同時に「こんなに素晴らしい作品をありがとう」という感謝の気持ちを抱かずにはいられません。そんな感謝の気持ちをとにかく伝えたいときに、確実に相手の実益に繋がる応援方法のひとつとして、何度も劇場に足を運び「映画にたくさんお金を払う」という手段が取られているのだと思うのです。
お金をつぎ込むためと聞くと身も蓋もないように思えますが、「1800円以下でこんなに面白い映画が見られるなんて“実質タダ”で申し訳ない。もっと払わせてください」という純粋なファン心理が働いているだけだと思います。しかもそうしてリピート鑑賞をすれば、何回も映画を見られる上に作品が盛り上がって続編や次の展開に繋がっていくかもしれないと考えると、実はファン側にも良いことしかない最高の応援方法でもあるのです。
しかし「コナン」と「キンプリ」には、こうして理屈で説明できるものの他にも、もっと別のリピート鑑賞の要因があるのではないかと私は思っています。それは、見ているこちらが「ただ身を任せるしかなくなるシーン」の存在です。
例えば「コナン」ならば、映画のクライマックスにあるアクションシーンが、「キンプリ」ならば、同じく物語の佳境で行われる“プリズムショー”のシーンがそれにあたると思います。それらのシーンは、物語に十分没頭して感情が最大限に盛り上がったタイミングで、ネタバレになるので詳細は控えますが少し“トンデモ”で現実世界ではありえないくらいド派手な演出を次々と畳みかけてきます。そして見ているこちらは目の前で繰り広げられることに徐々に情報処理が追いつかなくなり、ただその映像に身を任せ、理屈ではなく本能でその熱さと勢いを感じ取り、感動と興奮を覚えるほかなくなってしまうのです。
まさに「考えるな! 感じろ!」とでもいうようなこの体験は、ジェットコースターやトランス状態などに例えられたりもしますが、私はどちらかというと「エステやマッサージ」に近い感覚だと思っています。あくまで個人的な感想ではありますが、ただされるがまま身を任せ、疲れや体の毒素を取り除かれる代わりに元気と栄養を注入され、終わったあとは心地よい脱力感と共に明日への活力がみなぎるという流れがまさに、両作品の該当シーンを見た時の感覚にとても似ていると思うからです。
平日の夜や週末など、時間を見つけては何度も劇場に足を運んでしまうのは、実は日頃仕事などで疲れた身体が、そのシーンを見て心身ともにリフレッシュする感覚を本能的に求めているからでもあるのでは、と私は思っています。「たかが映画でそんなわけ……」と思うかもしれませんが、そこはぜひ実際に映画を“体感して”、判断してみてください。
こあらい・りょう=埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。明治大学大学院情報コミュニケーション研究科で、修士論文「ネットワークとしての〈アニメ〉」で修士学位を取得。ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)の全アニメを視聴して、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続中。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、現在は北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程に在籍し、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。
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