彼方のアストラ:マンガ大賞受賞作、週刊少年ジャンプの企画会議では“完全ボツ”に

「マンガ大賞2019」の大賞に選ばれた「彼方のアストラ」の作者の篠原健太さん
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「マンガ大賞2019」の大賞に選ばれた「彼方のアストラ」の作者の篠原健太さん

 マンガに精通する書店員らが「その年一番の面白いマンガ」を選ぶ「マンガ大賞」。今年の大賞は、篠原健太さんの「彼方のアストラ」(集英社)が選ばれた。19日の授賞式に登場した篠原さんは、自身の人気作「SKET DANCE(スケットダンス)」の連載終了後に1年練った企画をボツにした後でわずか数時間で新企画がひらめいたことや、週刊少年ジャンプの連載を目指した企画会議で“完全ボツ”になった経緯などを苦笑いしながら明かした。

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 ――作品誕生の経緯は。

 最初はSFをやろうとは思っていませんでした。「SKET DANCE」の連載は、自分(の意思)で終わらせたので、次の作品は学園コメディーとは違うものを考えていました。もちろんジャンプ編集部は同じタイプの作品を願っていたかもしれないけれど、それならば「SKET DANCE」を続ければ良かったので。それから1年間かけてバトルものを考えたけれど『このままでは勝算がない』と思ってボツにしました。その数時間後に、雑談の中で「宇宙へ行く」という話があって、(彼方のアストラの)骨子ができました。その瞬間までSFになるとは思っていませんでした。

 ――ボツにした企画、なぜ勝算がない?

 バトルものに悩んでいたのは、敵を作れなかったから。どう戦うかは考えても、何と戦う?となってしまうので、設定を作れずにいました。でも冒険ものにすれば敵はいなくてもいい。自然と対峙(たいじ)すれば、自然が敵になるし、困難と戦える。僕は、少年マンガの才能がない。必殺技を考えるより、戦略的に行くタイプなので、ジャンプの王道(バトルマンガ)をやるには、食い合わせが悪いと思っていました。

 ――SFは書きたかった?

 いや全く。SF小説は読んでいないし、好きだったら(とっくに)書いています。SFの知識もないですし。だから専門知識が必要なマンガにするつもりはありませんでした。

 ――しかし全5巻でのシナリオの完成度は高い。

 もっと長い話を考えていたが、(コミックス)5巻でまとめようとして凝縮しました。最初、ジャンプの連載を目指して編集企画を出したけれど「一発企画ボツ」という“大爆死”があって。これは、直しのチャンスもないもので「ダメだよ、篠原君」と言われました。担当も僕も「えー」となりました。

 ――その後は?

 “完全ボツ”の決定は絶対的なことですし、プロとしては、突き返されたものはひっこめるしかありません。でも、どうしてもやりたかったのです。ジャンプをやめて(他誌で)やろうかと思ったのですが、今更持ち込みをするのも……。そのときにマンガアプリの「少年ジャンプ+(プラス)」が立ち上がって、そこで出し直したらどうだろうとなりました。正直、描き下ろしでもいいと思っていたのですが、それも編集部から「売れないことは保証する」と言われました。次の案として「少年ジャンプ+」を挙げると、「ああ、いいですね」となりました。

 つまり、(その段階で)集英社も僕も長くやる気はないんです。僕のテンションも下がっているし、長々やるのは潔くないじゃないですか。元は15人のキャラクターをリストラして9人にして、コミックス4~5巻分になるよう、面白いところは残して縮めました。それが結果的には良い方向にいったと思います。

 ――やはり紙とウェブの連載は違う?

 描く側からするのは違いはなく、ウェブで作る苦労はなかったのですが、週刊誌、ジャンプのパワーを改めて感じました。週刊誌はパラパラ読むだけで、何かの拍子で絵が目に留まれば読んでもらえます。でもウェブマンガはバナーやアイコンなので、読者が能動的に読みにいかない限り、なかなか読んではもらえません。最初はマンガを読んでもらう方法が全然分かりませんでした。それで(宣伝のために)作品のツイッターを始めたけれど、フォロワーが増えなくて……。そこで個人アカウントを作って、露出をするようにしました。(ウェブマンガは)読んでもらうまで、なんて大変なんだろうと思いました。

 ――確かに大変そうです。

 最初は手応えがありませんでしたし、このまま話題にならないことも覚悟しました。『コミックスを出せたからいいじゃないか』というぐらいで、気持ちは大分へこみましたね。ただ連載を続けてマンガの種明かしをしていくうちに、そのたびにツイッターのトレンドに入るようになったんです。そこで「なんだ! みんな読んでるんじゃん!」と。そして(完結となる)コミックス5巻が出てからコミックスが売れて、話題になりました。本当は連載ものなので、最初からインパクトがないとダメなんですよね……。

 今回は、最後を決めてから描き始めていて、コミックスの巻数も決めている特殊な方法でした。何話目に何が起こるか表を作って粛々とやりました。隔週連載なので、割と人間的な生活も送れましたし、「SKET DANCE」よりは画の密度は入れられたと思っています。

 ――結果的に編集部の目は“節穴”だったのでは?

 編集部の名誉のために補足しますが、最初の主人公はカナタではなく、根暗な少年でした。その少年が成長してリーダーになり、信頼を得ていくことを想定していました。すると主人公が良くないと指摘されました。これは指摘されると思ったので、言われたら(改良を)考えようと思っていたら……。(そのときの)ネームを読んでもらえると分かるのですが、ほとんどの編集者が反対したので面白くなかったのでしょう。その後で、あの力強いカナタが最後にできあがりました。結果的にですが、編集部の判断は正しかったと思います。たぶんやっていても打ち切られたのが、今なら分かりますから、(編集部は)悪くないです。

 ――今後は?

 企画は進めているのですが、次は何を書いたら良いか困っているんですよね。おかげさまで「SKET DANCE」も「彼方のアストラ」も評価していただけたのでプレッシャーが……。ただ「彼方のアストラ」を描いていて思ったのですが、あれだけ違う作品を描くといっていたのに、結局「SKET DANCE」と似たタイプの作品になってしまいました。作家性といったらそうかもしれませんが……。自分のマンガを発見できた手応えはあるので、(次の)3作目もそうなるかもしれません。

 ◇マンガ大賞の最終結果(カッコ内は獲得ポイント、敬称略)

1位:「彼方のアストラ」篠原健太(94)▽2位:「ミステリと言う勿れ」田村由美(78)▽3位:「ブルーピリオド」山口つばさ(73)▽4位「違国日記」ヤマシタトモコ(45)▽5位:「サザンと彗星の少女」赤瀬由里子(41)▽6位「北北西に曇と往け」入江亜季(40)▽7位:「金剛寺さんは面倒臭い」とよ田みのる(39)▽8位「メタモルフォーゼの縁側」鶴谷香央理(38)▽9位「ハクメイとミコチ」樫木祐人(33)▽10位:「凪のお暇」コナリミサト(25)▽11位「ダンジョン飯」九井諒子(23)▽12位「ゴールデンゴールド」堀尾省太(22)▽13位:「1122」渡辺ペコ(19)

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