超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、米ロサンゼルス・コンベンションセンターで6月12~14日(現地時間)に開催された世界最大のゲーム業界見本市「E3(エレクトロニック・エンタテインメント・エキスポ)」(エンタテインメントソフトウェア協会主催)で起きている新しい流れについて語ります。
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「E3」では、例年以上に一般来場者をプロモーションに活用しようとする施策が目立った。E3は、流通業者向けの商談会とメディア向けの新作発表会を柱に、1995年からスタートした。長く業界関係者向けの見本市として知られてきたが、2017年から一般来場者の受け入れを始めた。公式発表では2018年は6万人が来場し、うち一般来場者は1万5000人だ。
背景にあるのがE3の地盤沈下だ。まずデジタル流通の拡大で、ゲームソフトの商談会機能が薄まった。インターネットのストリーミング配信の定着で、ゲーム会社はゲームの情報を世界中のユーザーに直接届けられるようになった。スマホゲームのように、見本市を必要としないゲーム市場も拡大している。
実際、E3と時期をずらして、自社主催の記者発表会で新製品を発表する例も増えている。プレイステーション4やXbox One、ニンテンドースイッチは、いずれもこのパターンだ。これにより、ゲーム会社は新商品を目立たせつつ、情報の露出時期を管理できる。こうしてゲーム会社のE3離れが進んできた。
とはいえ一方で、E3のプレミアム感は健在だ。一般ゲーマーにとって、E3は長く業界関係者しか入ることのできない“聖域”だった。そのため3日間で249ドル(約2万7000円)の入場パスが発売されると、ネット上で瞬く間に完売。会場には“ゲームの聖地”を体験したい熱狂的なユーザーが見られた。
こうしたユーザーに楽しんでもらうため、今年は各社共にブース設営に工夫が見られた。ゲームの世界観を基にブースをあしらったり、人気キャラクターとの撮影スポットを設置したり、著名ゲームクリエーターのトークライブやゲーム大会を実施したり、グッズ販売を増やしたりといった具合だ。
会場の外でもさまざまな催しがあった。マイクロソフトとエレクトロニック・アーツ(EA)は会場外に、ゲームを無料で試遊できる特設エリアを開設。インディー(独立系)ゲームの展示会「ミックス」も、多くの来場者でにぎわうなど、会場を中心に巨大なゲームの祝祭空間が演出された。
もっとも、ゲーム会社の負担も増加している。大手では出展に数十億円のコストがかかるといわれている。それでも出展を続けるのは、ダウンロードコンテンツの販売などを通して、大作ゲームソフトを数年かけて販売するビジネスモデルが定着しているからだ。E3のプレミアム感は熱狂的なファンを特定のゲームにつなぎとめるためのマーケティング施策として有効というわけだ。
このように、E3は本来の機能に加えて、テーマパークの様相を呈してきた。こうした体験が来場者自身の手でSNSに投稿され、ゲームの宣伝に一役買うのは言うまでもない。ゲームは大作とインディー(独立系)の二極化が進んでいるが、今後は次世代機の登場を迎えて、大作ゲームの市場寡占化はますます進行すると予想される。ゲーム会社のE3離れが進んでいる中で、注目を集めるためライブ体験をどう宣伝に生かすか。業界関係者の腕の見せどころと言えそうだ。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚して妻と猫4匹を支える主夫に。11~16年に国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表として活躍。退任後も事務局長として活動している。
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