ダンダダン
第7話「優しい世界へ」
11月14日(木)放送分
話題の書籍の魅力を担当編集者が語る「ブック質問状」。今回は、故・土田世紀さんの名作マンガ「編集王」のイラストがカバーになって話題になった早見和真さんの小説「小説王」です。同作を担当した小学館「STORY BOX」編集部の副編集長・庄野樹さんに作品の魅力を聞きました。
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売れない作家と、まだヒットを出したことのない編集者。ふたりの幼なじみが、連載の打ち切り、雑誌の休刊などの逆境の中にあっても、「小説は必要なんだ!」ともがき、奮闘する姿勢こそが最大の魅力です。出版業界の内幕も、タブー視することなく切り込んでいますので業界に興味のある方はもちろん楽しめます。しかし出版にかかわらず、斜陽と叫ばれている業界でも、まだ戦い方はある! と熱くなれる物語でもあります。
早見和真さんと打ち合わせを重ねる中、「早見作品の魅力は、彼が何かもの申したいときに発揮されるのではないか」と考えたことです。それで作家と編集者の話を依頼しました。結果として、早見さんにとっては初めての依頼仕事になったようです。また、自分の小学生の息子に、編集者という仕事について知ってもらいたかったという気持ちもありました。
文芸誌「STORY BOX」に連載中から「編集王」のカットを使用させていただいていました。私も早見さんも大好きな作品だったということもありますが、早見さんの依頼でもありました。作家が、作家について書く。しかも「小説王」というタイトルです。ある意味恥ずかしく、すごい重圧のある企画です。それを成し遂げるには、土田世紀さんを背負う必要があると。おかげさまで、連載時から反響をいただき、「小説王」をきっかけに「編集王」を読んでくれた書店員さんもいたほどです。その流れからすれば、カバーに土田世紀さんを使用させていただくことは必然でした。
連載時、毎回原稿がくるのが楽しみでした。「編集者は、最初の読者である」という教えをかつて受けた覚えがありましたが、はじめてそんな気持ちになった作品かもしれません。「泣くのは三流編集者」と作中に出てくるのですが、ずっと三流でしたね。また、読んでいただいた書店員さん、他社の編集者の感想が熱くて、うれしかったです。大変なことは、単行本をつくるまではまるでなかったのですが、刊行してみて、いかにして売るのかに苦労しています(笑い)。
早見さんがデビューして8年、第二のデビュー作として、本作を位置付けていただきました。なので、多くの読者に届くように業界を問わず、紹介していっています。おかげさまで「本の雑誌」が選ぶ上半期エンタテインメントベスト10で5位に入りました。今後行われる文芸賞やランキングなどにも、絡んでいく作品だと思いますので楽しみです。続編の構想としては「主人公の息子から見た出版界はどうなっているのか?」という作品は書いてみたいという話はいただいています。これも楽しみですね。
まだ読んでいない方は幸せだと思います。なぜなら興奮の読書体験が待っているからです。この作品は、小説を読む理由をこれでもかと問いかけてきます。おおげさかもしれませんが、読後、小説の読み方が変わっているかもしれません。「小説なんて」と思っている人にこそ、手にとってほしい作品です。あわせてピース・又吉さんの「夜を乗り越える」を読むことをオススメします!
小学館 出版局 文芸 「STORY BOX」編集部 副編集長 庄野樹
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