この「BEASTARS インタビュー」ページは「BEASTARS」のインタビュー記事を掲載しています。
「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)で連載された板垣巴留さんのマンガが原作のアニメ「BEASTARS(ビースターズ)」。2019年放送の第1期、2021年放送の第2期を経て、完結編となる「FINAL SEASON」のパート1がNetflixで2024年12月に独占配信を開始した。同作は、肉食獣と草食獣が共存し、“食殺”がタブーとされる世界を舞台に、本能と向き合う若き獣たちの青春を描く“動物版青春群像劇”。第1期からハイイロオオカミの主人公・レゴシを演じてきた小林親弘さん、レゴシが思いを寄せるドワーフウサギのヒロイン・ハル役の千本木彩花さんに「特殊だった」という収録の様子、作品への思い、パート1から続くパート2の見どころを聞いた。
◇お互いの顔を見ながら収録 寝転び、戦闘も!?
ーー「BEASTARS」は、第1期から全キャストがセリフを先に収録し、その声に合わせて口の形やキャラクターの表情などを作画するプレスコで制作されてきました。これまでの収録を振り返って感じることは?
小林さん プレスコもそうですが、「BEASTARS」の場合は、声優同士がお互いの顔を見ながら録(と)るという特殊な方法で収録してきました。
千本木さん みんなが座って、中央にガンマイクを置いてしゃべるみたいなこともやっていたので、だいぶ特殊でしたね。
小林さん ミキサーの方がすごく理解のある方で、テストをやったら、そのテストしたことに合わせて毎回マイクの位置を変えてくださったりとか。映像を撮っているような感じというか。
千本木さん テストも本読みのような感じで、監督もスタジオの中にいて、「立ち位置を確認しながらやってみましょう」と。みんな動きながら「ここのセリフが終わったらこっちまで移動して」とか「もっと近寄ってしゃべります」とか、段取りを決めてやっていましたね。レゴシとハルちゃんのシーンは、スタジオの中に2人きりにしてくれたこともあって。
小林さん 誰もいない!と(笑)。
千本木さん あとは、床に寝転びながら録ったり、戦闘シーンはお互いに組み合った状態で録ったりして。
小林さん 面白かったですね。わずかなことなんですけど、音にその影響が出ることもやっぱりあったので。
千本木さん 作品作りの新しい形でしたよね。
◇悩み続けるレゴシ ハルが自分のことを好きになるためには?
ーー演じる上で大切にしてきたことは?
小林さん 普通のアフレコでは、映像にボールドというものが表示されて、それが出ている間にセリフを収めなきゃいけないという負荷が1個かかるんですけど、この作品はプレスコなので、間やセリフの長さを自分で決められる。例えば、家で練習をしていく時でも、セリフを「絶対こういうぞ」とかではなく、相手の顔を見て、そこから出たものでいいかなと。狙った通りに転がらなくてもいいというか。一緒に作る醍醐味をより感じられるところがすごく利点だったので、そこを最後まで一番大事にしていたかもしれないですね。本当に掛け合いで作るという。
千本木さん 収録では、V(映像)も一応流れてはいますけど、全然見なくてもよくて、セリフの尺が長くなっても短くなっても、監督たちが「調整するので」と言ってくれて。それは、この作品の収録ならではの醍醐味だなと私も思っていたので、大事にしていました。画面はもう見ない!と。
小林さん そうだね、見なかったね。
ーーレゴシ、ハルもストーリーの中で変化、成長してきました。今改めて感じるキャラクターの魅力は?
小林さん レゴシは、自虐的な一面も初期からずっと持っていて、自分の人生でコントロールできない部分をずっと気にしているというか。こういうでかい体を持っちゃってとか、爪があってとか。そう生きたくはないけど、もうこうなっちゃっているからしょうがない。でも、しょうがなくないように生きたいと。葛藤し続けている、考え続けているみたいなところが魅力だと思います。
ーーたしかにレゴシはずっと悩んでいる印象です。
小林さん ずーっと悩んでいますね。これからもきっと悩み続けるんだろうなと思うんですけど。
千本木さん 私は、ハルちゃんが自分自身の人生を見つめる話だと思っていて。彼女が自分ってどういう存在なんだろう?とか、自分自身を好きになるお話だったりもするのかなと。その間でレゴシくんのことを待ってる時間もすごく長かったので、その間で彼女はどう受け止めて、帰ってこない彼に対してどう思っているかなとか、そういうのがすごく人生だな……というか。
小林さん そうだね。
千本木さん 自分もハルちゃんと一緒に同じような年代を過ごしてきているんです。高校生ではないですけど、22、23歳の頃にアニメが始まって、30歳手前くらいまでこうやって一緒にやらせてもらっているので、すごく自分の人生とも重なる部分が多くて。自分のことを好きになるにはどうしたらいいんだろう?と、ハルちゃんと一緒に考えてきた時間だったなって。複雑性を持っている彼女がすごく人間的で、私は好きだなと思います。ハルちゃんは、草食として小さい体で生まれてきて、それをレゴシくんに認めてもらって、自分も自分を認める。そして、レゴシくんを認めるというストーリーになっていて、大人になってもずっと必要な過程というか、忘れちゃいけないなと思います。
◇レゴシとハルを演じ続けてきた絆 役者人生の分岐点に
ーーレゴシとハルとして共演されてきて、お互いの声優としての印象は?
小林さん もう最高ですよ!
千本木さん 本当に素晴らしい役者さんです。
小林さん いやいや、こういう言い方するとギャグみたいになっちゃうかもしれないんですが、結構本気で最高だと思っています。
千本木さん ハルちゃんもレゴシでよかったなとすごく感じていると思いますし、私も小林さんで本当に良かったなと同じように思っています。最後までやりきって本当にそう思いますね。私の役者人生の中で、こうやって一緒にお芝居できたことは、大きな分岐点だったと思いますし、ありがたいです。
小林さん こちらこそですよ。
千本木さん よかったです。そんなふうに言っていただけて、ありがたい。
小林さん 自分がマイク前でお芝居を始めて12年目になるんですけど、「あ、こういう気持ちの動き方がマイク前でもできるんだ」と発見できたのは彼女のおかげなんです。そういう瞬間が多々あったんですよ。だからもう感謝ですね。
ーーこの2人だったからこそ引き出されたものがあると。
千本木さん 本当にそうだと思います。
小林さん そうですね。
ーー今改めて感じる「BEASTARS」の魅力、「FINAL SEASON」のパート2の見どころを教えてください。
千本木さん いろいろな種族が出てきて、「FINAL SEASON」にいたっては社会に出るので、世界がさらに大きく広がって、価値観も変わります。いろいろな人がいるということをより感じられるシーズンになっていると思います。ここから本当にいろいろなことが起こるのですが、やっぱりハルちゃんとしては、これからレゴシくんとどんなふうになっていくのか。原作を読んでいる方も未読の方も、そこがどうアニメで描かれるのか、注目してもらいたいです。
小林さん 「BEASTARS」の魅力は一言でとても言えるようなものではないんですが、自分に与えられた役割を変えずに、認めて、どうやったらお互いにそれぞれのことを認められて一緒に生きていくのか、という社会そのものへの問いかけといいますか。人種、ジェンダー、年齢といろいろな問題がありますけど、そういうことを考えるということが、この作品の一つの大きなテーマだと思います。“もらったもの”でどう戦うか、“もらったもの”を相手がどう認めるか。そこが作品の最大の魅力だと思います。
ーー「FINAL SEASON」のパート1では、ヒョウとガゼルを親に持つメロンという強敵がレゴシの前に現れ、ピンチに追いやられる展開でした。
小林さん パート2では、メロンの存在がキーになるのですが、メロンというキャラクターは、異種族同士のカップルの子なので、レゴシとしては自分の子供の未来、可能性の一つだと思って見ていると思うんですよね。だから、なんとか肯定してあげたいと思っているんですけど、メロン自身が肯定をしていない。ある意味では肯定しているんですけど、それが破壊の方向にいっているというか。そこのぶつかり合いが一番大きなテーマになっていきます。本当にぶつかり合うので、物理的に(笑)。そうしたメロンとのやり取りを踏まえた上で、レゴシとハルちゃんがどうなるのか。それだけじゃなくルイはどうなるのか、いろいろなキャラクターたちにとって、一つの区切りがつくことになるので、お楽しみいただければと思います。