この「逆賊の幕臣 解説」ページは「逆賊の幕臣」の解説記事を掲載しています。
俳優の松坂桃李さんが、2027年のNHK大河ドラマ「逆賊の幕臣」で主演を務めることがこのほど、発表された。主人公は幕末に活躍した小栗忠順(おぐり・ただまさ)だ。松坂さんも「恥ずかしながら、小栗忠順の情報を知らなくて」という、一般的には決して知名度が高くはない人物。なぜ彼が大河ドラマの主役を飾ることになったのか、その理由と功績に迫る。
◇官軍との徹底抗戦を訴え…最期は非業の死
忠順は1827年、江戸・神田駿河台生まれ。2500石の名門旗本で、天才的なエリート官僚だった。隅田川の花見でも花や酒には目もくれず、治水について語り続ける“オタク気質”な一面も持ち合わせていた。
1860年には遣米使節として米国で西洋文明を目の当たりにした。帰国後は要職を歴任して、軍制改革や近代的工場の建設、日本初の株式会社設立などさまざまな改革を推進した。武士でありながら経済に明るい忠順は、幕府にとって得がたい人材で、何度も勘定奉行を務めた。空気を読まず、上司に直言しては辞職……を繰り返し、呼び戻されること70回という伝説も残っている。
大政奉還の後には官軍との徹底抗戦を訴えるも、役職を罷免される。その後は現在の群馬県高崎市で隠せいしていたが、忠順の能力を恐れた新政府軍に捕らえられ斬首されるという非業の死を遂げた。
大河ドラマでは「青天を衝け」(2021年)で武田真治さんが演じていたことも記憶に新しい。また、明治の大隈重信は「明治政府の近代化政策のほとんどは小栗の模倣だった」と語ったといわれ、さらには江戸幕府終末期の勘定奉行として“徳川埋蔵金伝説”にも名前が登場する。
◇外国人相手に「ノー」 渡米エピソードも見どころに
“勝海舟のライバル”とも言われ、司馬遼太郎は勝と忠順を「明治の父」と呼んだ人物だった。制作統括の勝田夏子さんは、それほどの人物にも関わらずあまり知られていないことを不思議に思い、「今こそもっと知ってほしい!」と忠順への興味がふつふつと湧いていったという。
「小栗さんを知れば知るほど、いま手元にあるもの、200年の徳川の平和を維持してきたシステムを『時代遅れ』として壊すのではなく、作り替えればいいんだと取り組んだ人だと思うんです。“壊す”のではなく、少しずつ世の中をよくしていきながら未来につないでいく。それをやった人だと私には見えたので、主人公にふさわしいと思って取り上げさせていただきました」
ドラマの見せ場の一つとして、勝田さんは遣米使節として渡米した時のエピソードを挙げた。
「貨幣の交換レートではアメリカ人の前でそろばんを取り出して、緻密な論理で『この貨幣の交換レートは不公平じゃないか』と、外国人を相手に『ノー』と言える場面がいろんなところで出てくると思います。後は勝とどこで運命が分かれるのか、それも見どころだと思います」
演じる松坂さんについては、「(小栗と同じ)高潔さだったり、品格、絶対悪い人じゃない、という安心感を根っこからお持ちの方。彼の演技力に大変期待しています」と語る。近代日本に欠かせない人物でもある忠順の物語がどのように紡がれるのか、期待は高まるばかりだ。