元フジテレビアナウンサーの渡邊渚さんの初のフォトエッセー「透明を満たす」(講談社)が、1月29日に発売された。5万字を超える長編エッセーを書き下ろした渡邊さんは「私にとって5万字はそんなに苦じゃなかったんですね。割とすっと書けた感じ」と執筆を振り返る。昨年10月に「PTSD 心的外傷後ストレス障害」を患っていたことを公表した渡邊さんの、約1年半前からの闘病についても克明に記されているが「そこは恐れずに書こうと思いました」という渡邊さんに話を聞いた。
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渡邊さんは2020年にフジテレビに入社。「めざましテレビ」「もしもツアーズ」などを担当していたが、2023年6月に体調を崩してから担当番組を降板して療養しており、2024年8月末をもって同局を退社していた。
本書は、フジテレビ退社後、フリーランスとして新たなスタートを切った渡邊さんの5万字を超える書き下ろしの長編エッセーと、新境地を感じさせるフォトパートで構成される。
元々「(文章を)書くことは好きだった」という渡邊さん。
本書には、そんな渡邊さんの「自分の経験を書くことがPTSDや精神疾患に対する偏見、間違った知識が正される一つの要因になってほしい」との思いが込められている。一方で「私一人で、いまある偏見やそれらを変えようとしても、自分の力ではどうにもならない」のは承知の上だった。
「この本を読んだ方が『これ、いいかも』と一つでも思ってもらえたら、結果的に社会のためになるんじゃないかと思ったし、他の誰かに託したというか、私以外の誰かなら名案が浮かぶかもしれないという、その可能性にかけた感じです」と語る。
渡邊さんの闘病記としての色合いも濃い本書。病気と向き合った日々について「何も隠さずに踏み込んだ話」もここには記されている。
「そこは恐れずに書こうと思いました。本来は向き合いたくないこと、PTSDのトラウマや女性としての悩みといった踏み込んだことを書くことに対してちゅうちょしないと決めて書いていましたし、書けば書くほど、自分に対しての理解度も深まって。だから筆が止まる瞬間はなかったです」
以上のように、書いているときは頭の中が整理され、「行き詰まることはほとんどなかった」というが、自分と向き合い「自分はどんな人間なんだろう」と考える瞬間はあったという。
「大学院の博士課程に進んだ友達がいるのですが、人をよく観察する子で、その子いわく私は『否定をしない』と。確かにこのエッセーを読み直したら、誰のことも否定してないんですよ。夢を持っている人、持っていない人の話もあるのですが、別に持っていないことを否定はしていない。友達に言われたからではあるのですが、一つ自分に対する“気づき”にはなったのかな」
改めて言うまでもなく、「同じように病気と闘っている人たちもそうですし、生きづらさを感じている人、病気とまではいかなくても、社会で生きていくにあたって、しんどいなと思っている方々に届いてほしい」との思いが大きかった。
「その次に届いてほしいと思ったのが“支える側”の人たち。当事者はどんな気持ちで、どんなことを求めているのか。どういうふうに対応してほしいのかを、渡邊渚の一例として少しでも伝わったらなと思っていました。私の家族もどう接していいのか分からないというのがあったみたいで、この本が完成して家族にも読んでもらったのですが、そこでやっと“答え合わせ”できたみたいです。PTSDや精神疾患の本って、医師の方が書いているものはあるのですが、当時者が語っている本ってほとんどなかったりもするので、そういった情報が少ない中、当事者がどういった“手”を求めているのか、それがここには書かれていると思うので、周りで支えている人たちにも読んでもらえたらうれしいです」