アニメータースキル検定:「このままでは手描きアニメが消えてしまう」 現場レベルの改革と健全化を目指す

NAFCAの理事の福井智子さん
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NAFCAの理事の福井智子さん

 日本アニメフィルム文化連盟(NAFCA)が、アニメータースキル検定の申し込みをスタートした。日本アニメの市場規模は2023年度に3兆円に達する見込みではあるが、制作現場では人員、スキル不足が深刻な問題になっている。「アニメに未来があることを信じたい」をビジョンとして掲げているNAFCAは、人材獲得、育成を目的に同検定をスタートするという。NAFCAの理事の福井智子さん、事務局長の福宮あやのさんに同検定の狙いを聞いた。

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 ◇制作本数の増加 現場にしわ寄せが

 アニメの制作現場は、アニメーターの長時間労働、低賃金などによって疲弊していると言われている。構造改革が必要だが、大きな改革は難しい。NAFCAは現場レベルの改革、健全化を目指して、検定をスタートした。

 理事の福井さんは、タツノコアニメ技術研究所出身。タツノコプロ、東映アニメーションを経て、現在は主に東映アニメーション、サンライズで動画検査を担当している。「ムテキング」「マクロス」「北斗の拳」「天元突破グレンラガン」「NARUTO-ナルト-」などさまざまな作品に参加してきたベテランだ。

 福井さんは「私は45年くらいアニメ業界にいます。これまでも検定をやるという声が何度も上がってきました。『見て覚えろ』『盗め』などと現場で教わることが多い業界ではあるのですが、即戦力の人材育成が必要になります。我流でやっている方も多く、みんなやり方が違ったりもします。だから、若手も指導するベテランも不安を抱えています」と話す。

 東映アニメーションやトムス・エンタテインメント、サンライズなどのように養成所を運営しているアニメ制作会社もあるが、多くはない。新人が現場レベルの教育を受ける機会は少ない。この約20年で、年間のアニメ制作本数は3倍以上になっているが、アニメーターの人数は、2010年は4500人程度、2020年は5200人程度と劇的に増えたわけではない。制作本数の増加によるしわ寄せが、現場に及んでいる。

 「半年くらいで辞める人も多く、5~10人に1人くらいしか残りません。ベテランと新人が多い業界なのですが、制作本数が増えた関係もあって、教える立場の人が忙しすぎて、教えることができません。若手は不安になって辞めてしまいます。本来であれば、30分のテレビアニメの原画は6、7人でもできるのですが、作画監督が7、8人いることもあります。上がってきた原画を作監がみんなで修正しているんです。修正をするからどんどん人が増え、時間も掛かってしまうという悪循環になっています。基礎ができている人が増えれば、原画のクオリティーがアップし、作監を増やさなくても回るようになり、作業時間も短縮できます」

 本来であれば、制作しながら新人を育成していかなければいけないが、難しいのが現状だ。新人が分からないまま仕事をしていると、不安になるかもしれない。新人がスキルアップできず、定着しないのが業界の大きな問題になっているという。

 「アニメーターは絵が描けるだけではできません。撮影指示、動画なども理解して、アニメ制作の工程の知識が必要です。昔は先輩に教えてもらっていたのですが、今は学ぶ機会も少ない。最低限の知識があってから業界に入った方が、スムーズに仕事ができるようになるはずです。検定によって、現場レベルのことが学べるようにしていきたい」

 ◇今が最後のチャンス アニメーターの底上げを

 アニメータースキル検定は、アニメーターはもちろん、制作や監督志望の人、アニメファンなどに向けて動画の技術と知識を測る。アニメーターのスキルの土台、動画の基礎であるトレスとタップ割りの技術を測るトレス・タップ割り検定の6級、5級の検定を11月9日に東京、大阪、名古屋、福岡、新潟で実施する。6級は原画トレス、5級は目パチ口パクが課題となる。全ての受検者の回答をプロのアニメーター、動画監督が採点し、フィードバックを含めて受検者に返送する。検定の公式テキストが9月上旬に発売される。活動費用のためのクラウドファンディングも実施中。

 アニメーターには“統一規格”がないこともあって、これまで検定ができなかったところもある。

 「ただ、違う制作会社の人が集まると、大体同じことを言うんです。アプローチは違うけど、実は同じようなことをやっています。例えば、人の顔のデザインは千差万別ですが、基礎の基礎となる考え方があります。基本を学び、応用できるような教え方をしないといけません。制作本数が増え、海外に動画を出してしまうことで、動画の基本を学べず、原画のレベルが下がっているところもあるのですが、動画の基礎を学べば、原画のレベルアップにもつながります」

 一方で「検定を権威にはしたくない」という。

 「アニメーターの数を増やし、レベルアップすることが目的です。業界として育成していかなければいけない。多くのスタジオに賛同していただき、現場レベルでも『待っていた!』という声をいただいています。アニメーターは8、9割がフリーで、ギャラの交渉も難しいので、交渉材料にもしてほしいのですが、マウンティングのための検定ではありません」

 日本の手描きアニメは1980、90年代に技術の一つの頂点を迎えたとも言われている。“スーパーアニメーター”の中には当時から活躍している人も多い。高齢化が進んでいることもあり、「文化を守らないといけない」という思いもある。

 「このままでは手描きのアニメが消えてしまうかもしれません。世界的に見ると、日本のアニメは特殊な進化をしてきました。海外で日本のようなアニメを作ろうとしたり、生成AIもありますが、独自の進化をしてきた日本のアニメとはやっぱり違います。今のアニメでハイクオリティーと言われるものは、CGなどでキレイには見せていますが、全体的な手描きのレベルは落ちているようにも感じています。ベテランが引退する前に、この文化を守り、継承していかないといけません。10年後も日本のアニメを見たい!という思いがあり、今が最後のチャンスだと思っています。まずは底上げが必要です。教える側も少ないので、検定をしながら、塾や講習会を開いて、教えられる人も育てないといけません。課題はまだまだあります」

 底上げによって、リテークが減り、労働時間の短縮、無駄な制作費の圧縮ができるはず。それがアニメーターの賃金、労働時間の問題の解消にもつながってくる。検定の浸透が、その一歩になるのかもしれない。


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