薬屋のひとりごと
第13話 外廷勤務
12月27日(金)放送分
水木しげるさんのマンガ「悪魔くん」の新作アニメシリーズが、Netflixで配信されている。1989~90年に放送、公開されたテレビ、劇場版アニメ以来、約33年ぶりの新作アニメとなり、1989年版のシリーズディレクターだった佐藤順一さんが総監督を務めることも話題になっている。佐藤監督は、「美少女戦士セーラームーン」「おジャ魔女どれみ」「HUGっと!プリキュア」など数々の名作を手がけてきた名監督だ。昭和、平成と時代を超えて愛され続けてきた「悪魔くん」は、令和の時代にどのようによみがえるのか? 佐藤監督に聞いた。
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「悪魔くん」は、1963年に水木さんの貸本マンガ家時代に出版され、「週刊少年マガジン」(講談社)や「週刊少年ジャンプ」(集英社)などでも連載された人気作。1万年に1人の天才少年悪魔くんが、悪魔と十二使徒の力を借りて、争いも飢えもない理想郷を作ろうとする姿を描いている。新作アニメは、1989年版のテレビアニメから三十数年後の世界が舞台で、悪魔に育てられた過去を持つ、天才少年・悪魔くんこと埋れ木一郎が、相棒のメフィスト3世と共に、悪魔の引き起こす怪事件に挑む。
約33年ぶりの新作はNetflixで配信される。平成版の「悪魔くん」は子供向けアニメとして制作されたが、新作ではターゲットが変わるようだ。
「平成版(1989年版)のアニメ『悪魔くん』は元々、子供向けという切り口で制作されました。新作が配信されるNetflixというフォーマットでは平成版とは求められるターゲットがかなり違いますし、海外に向けて開いてもいます。新たな試みとして水木作品を世界に届けるという目標もあって、全体の方向性が決まりました。目標がないと、うまくハンドルが切れない性質なんです」
原作には、貸本版、少年マガジン版などさまざまなバージョンがある。
「コミックボンボン版や貸本版もありますが、今回はどちらでもなく、1989年版のアニメ『悪魔くん』の延長ですね。その上で、より水木先生のテイストを出そうとしました。絵的には、水木先生の細密画のような絵をそのままアニメにするのは難しいんですが、手描き感を大事にしてその精神を残そうとしました。水木プロさんは、自由にやらせてくださるんですけど、『エンターテイメントであることは忘れないでほしい』ということは最初からおっしゃっていました。『悪魔くん』は、水木先生が世の中の理不尽に怒りを覚えながら、みんなが幸せになる世界を目指す主人公を描こうとした作品です。主張がはっきりしていますが、エンターテインメントでもある。そこを柱にして取り組むことを考えていました。平成版にしても、子供向けではあるのですが、分かりやすいヒーローもの、悪魔退治に完全に特化したものにはしないようにしていました」
新作は、子供向けというわけではないが、子供も楽しめる内容になっている。
「狙わずにそうなったところもあります。社会のゆがみ、理不尽なものを前面に出したくもなるのですが、一歩引いて、大人向けだけどシニカルすぎる方向には振り切らないようにしています。水木先生の作品は、そもそもそういうところがあるんですよね。何をやっても、ちゃんとそうなる。水木先生の作品は怖いけど、ユーモアが絶対にある。それが独特の味ですし、魅力なんだと思っています」
メフィスト2世の子供の3世が登場するなど新作は、親子、家族がテーマになっているようにも見える。
「テーマというほど大上段ではないのですが、海外に向けた作品を考えた時、どの時代、どの国の人でも共通して大切なものとして家族がありますし、そこを軸にすれば、大きく外れることはないと考えていました。血がつながっているとかではなく、それを超えた家族を描こうとしています。平成版の『悪魔くん』の家族は、それぞれが割とわがままにやっているんですけど(笑い)」
家族というテーマありきで、メフィスト3世、二代目悪魔くんの埋れ木一郎のようなキャラクターが生まれたのだろうか?
「キャラクターが先ですね。自然にそうなりました。平成版のオンエアから30年以上たっていますし、世界に向けた作品にする際、やはり30年たった今の日本を描いた方が共感をえやすいですから、そこは迷いませんでした。メフィスト3世は、半分悪魔だけど、愛情たっぷりに育ち、人間よりも人間らしい少年です。それに対して、一郎は、友情や家族愛に対して『見たことがないから分からない』『論理的に正しくないものは疑ったほうがいい』と考えていて、その二人によって生まれるドラマを描いています。心を閉ざしている少年が成長していき、絆や感情を育てていく物語です。キャストのみなさんの演技も素晴らしくて、それぞれのキャラクターが30年生きてきたことも見えてくるんですよ。真吾(初代悪魔くん)とメフィスト2世の友情は30年たっても変わっていません」
「悪魔くん」の原作が生まれたのは昭和、テレビアニメが放送されたのは平成、新作が配信されるのは令和……と時代が変化する中で、令和の時代だから描けることもあるはずだ。
「SNSがいろいろなことを教えてくれる時代になっていて、何でも知った気になれるんですよね。見ていないのに、すごく知っている気持ちになれる。“知った気分”がいろいろなことの障害になっていると感じています。今回の柱というわけではないのですが、節々にそんな今の人たちを描いています。変わらないこともあるんですよね。SNSで『おまえは間違っている!』と野次を飛ばしたりする人もいるけど、昔だったら飲み屋でおじさんがやっていたことと同じだと思います。声がすぐ届くようになっちゃっているだけのことで、SNSで罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせている人も、どこか別のところではすごく良いお兄さんとして社会で生活しているかもしれない。そういう想像力を忘れないようにしなきゃいけない。そこが水木ワールドでもありますし。結局、令和でもそこは基本的に変わらないですしね」
「悪魔くん」、水木さんの作品には普遍的な魅力がある。昭和だろうが、令和だろうがその魅力は色あせることはない。
「よこしまな心を持った人が事件を起こし、悪魔くんたちが解決する……という流れではありますが、その中にほんの一筋だけ光を入れたいと考えました。強欲な人が自滅する物語だとしても、その人がそうなった過去に何かあるんじゃないか?と思えるように。後味は必ずしもよいとは思わないけど、ほんのちょっと光を残したい。単に怖いだけじゃない物語には、世界にアピールできる力があると思っています」
佐藤監督は「悪魔くん」から「誠実さ」を感じるところもあるという。
「水木先生が世の中の理不尽さに怒りを覚え描いたもののはずなんですけど、エンターテインメント作品でもあり、着地する時、理不尽さを解決しないで終わります。そこに、水木先生の誠実さを感じます、千年王国が実現した!とすっきり終わればいいのでしょうが、すっきり終わらない。そこが誠実なんですね。千年王国を信じて、続けていくことが大事。全ての人が平和に生きるというのは具体的にイメージできない。真吾や一郎はそれがイメージできるくらい天才ですが、我々凡人には分からない。実現するまで頑張ろう!ということなんですよね」
平成版から約33年たち、変わったところがあれば、変わらないこともある。新作は「悪魔くん」の魅力をそのままに、令和の時代ならではの作品になっているようだ。
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