超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、先日行われた「東京ゲームショウ」について語ってもらいます。
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「東京ゲームショウ(TGS)2023」が今年も幕張メッセで開催された。筆者が運営にかかわるNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)も、インディーゲームが数多く出展された第9ホールでターンキーブースを設けた。スカラーシップ(奨学生)に採択された学生10人の自作ゲーム展示のためだ。TGSには初回開催から長らくジャーナリストという立場で係わってきたが、全日程でブースに張り付いたのは今回が初めてで、立場が変わったことを実感した。
振り返れば、雑誌「ゲーム批評」で編集をしていた1990年代後半は、TGSと主催団体のCESA(コンピュータエンターテインメントソフトウェア協会、2002年にコンピュータエンターテインメント協会に改称)の発足期だった。それまでアーケードゲーム、玩具、PCゲームと異なる出目を持つゲームメーカーが一堂に会して旗揚げしたため(後にIT企業が加わった)、CESAは発足当初からまとまりが欠けていた。それをカバーしていたのが市場の拡大で、その象徴がTGSだったように感じられる。
なにしろ1995年秋に任意団体として発足したCESAは、翌年にTGSを初開催し、すぐに社団法人化したという慌ただしさ。粗っぽい部分は多々あった。その一つが来場者へのホスピタリティーだ。会場となった東京ビッグサイトには、3日間で10万人強が押し寄せ、会場面積の問題から、一般日は満足にゲームを楽しめる状態ではなかった。「Dの食卓」で人気を集めた飯野賢治さんや、「ポケットモンスター赤・緑」を世に送り出した田尻智さんなど、ゲームクリエーターが誌面で苦言を呈したほどだ。本誌でも後に「あれで良いのか? 東京ゲームショウ」というリポート記事で問題点を指摘した。
もちろんそこにはノウハウ不足もあったが、会場で聞かれた「世界に冠たる日本のゲーム業界」というフレーズに違和感があった。バブル経済ははじけていたが、ゲーム業界には「ジャパン・アズ・ナンバーワン」というおごりがあった。一方で多くの業界人は米ロサンゼルスで1995年から開幕したE3(エレクトロニック・エンタテインメント・エキスポ)などへの参加経験があり、彼の地におけるエンターテインメント文化の懐の深さを実感していた。そうした背景があっての苦言だったように感じる。
もう一つよく覚えているのが当時、人気ゲームソフトは「八百屋の軒先でも売れる」といわれていたことだ(青果店に失礼な物言いだ)。実際にコンビニエンスストアでゲーム販売が始まったのが1996年で、ゲームの販路が一気に拡大した。その陰でゲームの不良在庫が顕在化していき、後の中古裁判へと続いていく。ゲームの開発現場では徹夜作業が続き、休職者の存在が問題になり始めていた。TGSのきらびやかなブース展示はこうした矛盾の上に成り立っていたように思う。
その後、TGSは紆余曲折を経ながら今日まで続き、ゲーム業界における秋の風物詩として定着した。「新作ゲームのショーケース」から、「コスプレ・物販・ステージイベントなどを含めた、総合エンターテインメントイベント」として、ユーザーの認知も変化してきた。ハードメーカーの出展がなくなり、かわってインディーゲームコーナーが拡大するなど、出展内容もさまがわりしている。4日間で24万人を集めたこともあり、コロナ禍を経て完全復活したように見える。
ただし、以前とは異なる点が一つあるとすれば、それはTGSが「誰のものか」という視点だろう。開催当初、TGSは「出展社のもの」だった。ユーザーを見ているようで、見ていなかった。しかし、今年の盛況ぶりをブースに立って眺めていると、TGSは業界関係者だけにとどまらない、ユーザーをはじめとした「みんなのもの」に変化しているように感じられた。
それはまた「世界三大ゲームショウの一つ」から、「主として日本市場を対象としたローカルなゲームショウ」という立ち位置の変化だともいえるだろう。ゲームのあり方がさまざまに変化していく中で、落ち着くべきところに落ち着いた、ともいえる。米E3が2年連続の中止となり、PAXやチャイナジョイといった新興イベントが存在感を増す中、TGSが今後どのように成長していくか、ブースの片隅から見守っていきたい。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーランスで活躍。2011からNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の中核メンバー、2020年から東京国際工科専門職大学講師として人材育成に尽力している。
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