ARIA:最終章で描く「祝福」と「夜明け」 佐藤順一総監督「全ての“すてき”を引っ張り出す」

「ARIA The BENEDIZIONE」の一場面(C)2021 天野こずえ/マッグガーデン・ARIAカンパニー
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「ARIA The BENEDIZIONE」の一場面(C)2021 天野こずえ/マッグガーデン・ARIAカンパニー

 天野こずえさんのマンガが原作のアニメ「ARIA」の新作「ARIA The BENEDIZIONE」が、12月3日に公開される。2015年に劇場公開された「ARIA The AVVENIRE」、今年3月公開の「ARIA The CREPUSCOLO」に続く“蒼のカーテンコール”の最終章で、姫屋を中心とした物語が描かれる。2005年のテレビシリーズ開始当初から制作に携わってきた佐藤順一さんが総監督を務め、名取孝浩さんが監督を務める。佐藤総監督は、新作は「『ARIA』シリーズの総決算」といい、タイトルの「BENEDIZIONE」に「祝福」というメッセージを込めた。新作制作の裏側、「ARIA」への思いを聞いた。

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 ◇姫屋だからこそ描けた物語 変わるもの、変わらないもの

 「ARIA」はマンガ誌「月刊コミックブレイド」(マッグガーデン、現在は休刊)で2002~08年に連載されたマンガが原作。水の都・ベネチアがモチーフの街であるネオ・ヴェネツィアを舞台に、ARIAカンパニーで一人前の水先案内人を目指す主人公・水無灯里の修業の日々、友人や先輩との交流などを描いている。テレビアニメ第1期が2005年、第2期が2006年、第3期が2008年に放送されたほか、OVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)も制作された。

 新作は、天野さんの描き下ろしストーリーが原作で、姫屋を中心とした物語が描かれる。老舗の大手水先案内店である姫屋の跡取り娘の藍華、藍華の先輩の晃、若手のあずさ、姫屋の総支配人で藍華の母・愛麗が登場し、姫屋創業時から大切に乗り継がれてきた1艘のゴンドラを巡るストーリーが展開する。テレビシリーズでは詳細に描かれなかった藍華のプリマ・ウンディーネ(水先案内人)の昇格試験も描かれる。

 新作では、前作「ARIA The CREPUSCOLO」に続き、佐藤総監督が脚本を手がけた。脚本作りは「最初は悩みました」と話す。

 「藍華の昇格シーンは、テレビアニメ第3期『ARIA The ORIGINATION』で少し描いていたのですが、天野先生が今回描かれた昇格試験は、それとはかなり違うものでした。その折り合いをどう付けようかというのが最初に悩んだところです。テレビアニメと新作の昇格シーンをどうつなげられるのかと」

 悩んだ末、テレビシリーズで描かれた昇格の後、藍華が再試験を晃に申し込むという流れとなったという。佐藤総監督は、天野さん原作では「晃と藍華の出会いから昇格試験まで」が描かれていたといい、「まず、いただいたものを映画の中に生かしていく。プラスアルファで何をするのかが脚本に求められていたこと」と話す。新作は姫屋の物語だが、「ARIA」の最終章でもある。シリーズのフィナーレを飾る上で浮かんだアイデアが、姫屋創業時から受け継がれるレジェンドゴンドラの存在だったという。

 「姫屋の創業時にできたゴンドラで、すでに部品はどんどん取り替えられて残ってはいないけれど、それでもちゃんと想(おも)いがこもったレジェンドゴンドラ。それが今回の映画の軸となれば、『ARIA』全体のメッセージにもなると考えました。『ARIA』という作品自体もそうなのですが、テレビアニメ第1期を作っていた時のスタッフは、今はそんなに残っていません。キャストも一部新しくなっています。だから、当時のそのままではないのだけど、描かれる世界はちゃんと『ARIA』である。視聴者の方もそうで『当時見ていたあなたと今のあなたは違うけれども、同じARIAが好きなあなたですよ』ということにつながる。さまざまなことを含めて、『ARIA』を総括するテーマにできると思いました」

 変わるものと変わらないもの。そうした時間の流れは、姫屋の物語だからこそ描けたとも感じているという。

 「歴史がある姫屋は、創業の頃から今までという時間の流れを描ける素材といいましょうか。始まりと今をダイレクトに描ける素材ではあったので、レジェンドゴンドラも含めて、姫屋でなかったら描けなかったんじゃないかなと思っています」

 ◇「みんな祝福されてしまえばいいのに」

 新作で新たに描かれる藍華の昇格シーンの舞台は、夜のネオ・ヴェネツィアだ。ネオ・ヴェネツィアは夜も美しいと実感させられるシーンだが、佐藤総監督は「夜明けが最後にくることが重要」と説明する。

 「夜のシーンを最終試験にするというアイデアは、僕らの中では出てこなくて、天野先生だから出てきたアイデアだと思うのですが、その先に『夜明けと共に』というイメージがあったと思うんです。そこを見せるために夜を延々と描くということはあるのかもしれないですね。実は『ARIA』の中で、ここまで印象的に夜明けを描いたことはそんなにないんです。第1期の終盤で、年明けにみんなで朝日を浴びるという場面を描いたことがありましたが、それに続くいいシーンとして、今回夜明けのシーンが描かれたなと思っています」

 「時の流れ」「夜明け」が描かれる最終章のタイトル「ARIA The BENEDIZIONE」にも、佐藤総監督ら制作陣の思いが込められている。「BENEDIZIONE」はイタリア語で「祝福、恵み」という意味を持つ。

 「テレビアニメ第1期最終回では『ありがとう』というワードを入れたのですが、今回『ARIA』の完結にふさわしいワードとして思い付いたのが『祝福』なんです。これまで作ってきた作品もそうですし、関わってきた人、今回関わってくれた人、『ARIA』の世界を好きになってくれて長い間付き合ってくれたファンの人、新しくファンになってくれた人も、みんな祝福されてしまえばいいのにと(笑い)」

 ◇「ARIA」の世界に遊びに行く感覚 作り手と観客が同じ思いに

 約16年間、「ARIA」に携わってきた佐藤総監督は、その魅力を「ARIAの世界が、みんなの中で共通の大切な場所になれること」と語る。

 「『ARIA』を好きでいてくださる人は、ネオ・ヴェネツィアの街、音楽を含めて“『ARIA』の世界に行く”という感覚を持っているように感じます。作る側も同じで、作ると言いながら、『ARIA』の世界に遊びに行く感覚に近い。そういう感覚を与えられることが『ARIA』のすごさだと思います。ほかの作品で同じことをやろうと思ってもできない。改めてすごい作品に関わらせてもらっているなと毎度思いますね」

 佐藤総監督は「ARIA」の世界にいる時、どんな気持ちなのだろうか。

 「『ARIA』にいる時は、引き出しの中にある『すてき』を片っ端から引っ張り出して、ぶちまけるみたいな感じです(笑い)。いろいろなところで小出しにしてきたので、天野先生からいただかないと引き出しに『すてき』が残っていないんですよ。今回もすてきなものを出していただいたので作れましたけど」

 さまざまな“すてき”が詰め込まれた「ARIA」の最終章。コロナ禍の今、届けたい思いもある。

 「蒼のカーテンコール第1章『ARIA The AVVENIRE』で、『誰かに会いたい時に会えること……聞きたい時に声が聞けること、なんでもないと思っていることも本当はすごいみらくるなのかもしれないよ』というせりふがあるのですが、コロナ禍でひしひしとそれを感じて。当たり前に過ごしていたけど、特別なことだったのかもしれないと思ったりもするんですよね。今、できないこともいろいろあるでしょうし、コロナ禍で自分の生き方や在り方が変わった人もいるかもしれない。でも、『あなたはあなたですよ』ということが、レジェンドゴンドラの話につながるのかなと。『ARIA』の世界に来れば、『あの頃、ARIAが好きだったあなたに戻っていますよ』ということが伝わればいいかなと思っています」

 時が流れ、変わるものもあれば、変わらないものもある。「ARIA The BENEDIZIONE」は、見る人それぞれの“大切なもの”を心から祝福してくれるはずだ。

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