林原めぐみ:異例の深夜アニメ主演 「月とライカと吸血姫」への思い キャラクターに深くダイブ

「月とライカと吸血姫」の一場面(C)牧野圭祐・小学館/「月とライカと吸血姫」製作委員会
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「月とライカと吸血姫」の一場面(C)牧野圭祐・小学館/「月とライカと吸血姫」製作委員会

 ガガガ文庫(小学館)の牧野圭祐さんのライトノベルが原作のテレビアニメ「月とライカと吸血姫(ノスフェラトゥ)」が10月3日からテレビ東京ほかで放送される。林原めぐみさんが主人公の吸血鬼の少女、イリナ・ルミネスクの声優を務めることも話題になっている。林原さんは「新世紀エヴァンゲリオン」「スレイヤーズ」「名探偵コナン」などで知られる人気声優で、1クールの深夜アニメで主演を務めるのは近年では異例。林原さん自身も「私?」と思ったといい、SNSでは「林原めぐみなら見てみたい!」「楽しみ!」など期待を寄せる声も見られた。林原さんに、キャラクターに「深くダイブ」して臨んだという同作への思いを聞いた。

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 ◇きっかけは手紙 心のひだの部分を託された

 「月とライカと吸血姫」は、牧野さん作、かれいさんイラストのライトノベル。架空の超大国間の宇宙開発競争のさなか、有人飛行実験のために連れてこられた吸血鬼の少女と、ある理由から宇宙飛行士候補を落第した青年が共に宇宙を目指す……というストーリー。

 林原さんは近年、「昭和元禄落語心中」「からくりサーカス」などにも出演してきたので、深夜アニメの出演自体は異例ではないが、1クールの深夜アニメで主演を務めるのは異例だ。「月とライカと吸血姫」のアニメスタッフによると、林原さんに出演をオファーする際、手紙を送ったという。手紙を書いたプロデューサーは「骨太な原作。林原さんにぜひやっていただきたい」という思いから筆を執ったという。

 「熱く熱く『ぜひやっていただきたい』というお手紙をいただきました。そのお手紙の内容がとても純粋で、駆け引きではなく熱いものを感じたので、まずは原作を読んでみようと思いまして。ファンタジーなのですが、史実に基づいていて、ただただ吸血鬼の女の子の頑張る物語というわけではないぞ……と。人類がずっと続けている差別に対してのメッセージ性も感じたんです。ファンタジー要素満載なので、安心して読んでいられるのですが、もしこれが本当にどこかの国のどこかの虐げられた少女の話だとしたら、とんでもないことになってしまう。でも、この作品はエンタメとして、過去への攻撃ではなく未来への提示をしていると感じたんです」

 林原さんは、自身のブログで「最初ご依頼をいただいた時は今……私?と思ったけれど演じてしまえば、もう自分の一部です」ともつづっていた。

 「(名探偵コナンの)灰原哀ちゃんや(エヴァンゲリオンの綾波)レイちゃんのようにずっと演じ続けている役は別として、新たな取り組みをするにあたって、若い子がどんどん活躍している業界の中で、今の私がこの年齢の子を演じるのは老害ではなかろうか?と、正直、頭をよぎるところもありました(笑い)。自分のキャリアや年齢を考えた時に、この純真無垢(むく)な少女を演じることに、いろいろな意見もあるとは思います。原作を読んだ時、この子の人生の苦しみ、喜び、未来への思いなど彼女の複雑な背景を表現するために、かなり深いところまで潜っていく必要があり、心のひだの部分を託されたとも感じました。お手紙、原作を読んで、私が生きてきた時間と経験が役に立つかな?と思ったんですね」

 ◇“この子”を生み出さないといけない

 公開されているアニメのPVは、イリナの「ありがとう」という言葉が印象的だ。この五文字から“心のひだ”に触れたような感覚になる。

 「『ありがとう』の五文字なんですけど、気持ちを乗せすぎると嫌みになったり、自己満足で酔っちゃっているようにも聞こえるかもしれません。彼女の心にダイブする作業が必要になってきました。『マルドゥック・スクランブル』という作品の時と同じ匂いを少し感じたところもあり、そういえば『マルドゥック』もお引き受けする時に随分悩んだっけ……と思い出しつつ。でも、同じ子ではないですしね。台本には書かれてない彼女が見てきたものとか体験したもの、どんなふうに家族と過ごしていたんだろうか? 彼女は吸血鬼の中でも少し浮いていたのでは?と、あれこれ脳の中に入れ込んで臨みました」

 林原さんは、“同じ子”はいない……と作品、キャラクターに深く深くダイブする。だからこそ、その演技に心を動かされる。

 「月のことをたくさん調べました。アポロのことを調べたり、月の写真集を見たりして、自分の中で月への憧れをマシマシにしようと……。『シャーマンキング』の時はスライムをいじってたんですけど、『月とライカと吸血姫』は、レジンをいじって地球や月をあれこれ作ってました。なにやってんの?って感じですけど。そんなに難しいものじゃないんですよ。でも、同じものは二度とできないんですよね。キャリアを積めば積むほど昔の引き出しを使えるようになりますし、それをしちゃいけないわけじゃないけど、“この子”を生み出さないといけないので。原作はありますが、演じる時に自分の中で無から作らなきゃいけません。その中でかなり、レジンが貢献しましたね(笑い)。透明な液体が固まる様子、色づく様子、できたと思っても、形がいびつで失敗だったり、あれこれ、静かに向き合って、愛しさが増して、と言葉で言うと陳腐ですけど、そういう細かいどうでもいいような作業が、今回は心に効いた気がします。12話収録という短い話数だし、終わったらみんなにはもう会えないし……、このコロナ禍……飲み食いや、スタジオに残って長い時間のコミュニケーションもできないので、言葉の代わりに、いっぱい作って、最終話の収録の時に皆さんにお配りしました。迷惑だったかな(笑い)」

 ◇阪神淡路大震災で感じたこと

 アフレコは、コロナ禍ということで大人数での収録が難しい中、イリナと共に宇宙を目指す青年、レフ・レプス役の内山昂輝さん、吸血鬼の生態を研究するアーニャ・シモニャン役の木野日菜さんと一緒になることが多かった。

 「内山君は、レフがいたからイリナが頑張れた、という関係性をしっかり表現してくれて、助けられました。アーニャは、子犬のように懐いてくれて、しっぽが切れちゃうよ!というくらい(笑い)。アーニャに『イリニャン』と呼ばれ、その体当たりに対して抵抗すると、こっちが悪者になっちゃうじゃん! という流れを自然に表現できましたね。一緒にはなかなか収録できませんでしたが、緒方賢一さん、東地宏樹君、(井上)喜久子さんもいらっしゃって、私だけポツンとベテラン風なわけではないので、ちょっと安心したところもありました」

 林原さんは作品、キャラクター、共演者に真摯(しんし)に向き合う。林原さんと話していると、1995年の阪神淡路大震災のことを思い出す。当時、林原さんの伝説のラジオ番組「林原めぐみのHeartful Station」が被災地の神戸のラジオ関西で放送されていた。震災直後、同局は安否確認を中心に放送していたが、被災地を少しでも励ましたいという林原さんの思いもあり、番組を放送した。批判もあったというが、多くの被災者が励まされた。林原さんは、ファンに対しても真摯に向き合ってきた。

 「震災直後の放送で、被災地以外からのハガキの中には安否確認を流すべきだろうという声もありました。でも、その声も愛なんですよね。だから、その人たちを責めてはいけないですし。郵便事情が整った後、被災地からたくさんハガキをいただきました。『ありがとう』『放送を聞いて生きてることを実感した』と。どちらも愛ですし、物事の見方をしっかり考えないといけないと感じました。私がパーソナリティーを続けていられるのは、あの時の判断、反響を体感したからだと思うんです」

 神戸だけじゃない。林原さんはこれまで日本中、世界中の人にとって“特別な存在”だ。だから、「林原めぐみなら」と「月とライカと吸血姫」に期待の声が上がるのだろう。イリナの“心のひだ”をじっくりと感じながらアニメを楽しみたい。

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